さて、それではもとにもどって、四国地区の各大学の理工系の就職事情について見てみたい。
理系は工学部に象徴されるように、偏差値のわりに企業に評価が高い「お買い得」分野である。これは、製造業が多い地方にあって、文系に比べて「即戦力」として重宝されるからに他ならない。
ただし、理系はそのぶん専門分野の奥行きが広いため大学院修士課程へ進学する学生が多いことでも知られている。
したがって、下記のデータは学部卒業で就職した学生の情報に限定された不完全なものであることを十分ご理解されたい。
また、四国の各国立大学の理工系学部を並べるにあたって、工学部の無い高知大学については理学部を比較対象としてリストアップしている。これは、私立から公立に移管された高知工科大学が難易度的に大幅アップしていてるため、従来の私立時代の同校の実績を並べると読者をミスリードしかねないためである。高知工科大学の真価については、4年後にはっきりするであろう。
それで、各大学の就職先上位を列挙したのが下記の表である。
それぞれ、上位企業が卒業生の何パーセントを占めるか、言い換えれば卒業生の就職先の集中度の高さを注記している。
〔香川大学工学部 2009年春卒業生の就職先〕
学部就職者数130名;上位9社合計19名=占有率14%
今治造船 ---------------3名
三菱自動車 -------------2名〔上場企業〕
オリエンタルモーター-------2名
NECシステムテクノロジー---2名〔上場企業〕
隆祥産業--------------- 2名
四電工-----------------2名〔上場企業〕
レオパレス21------------2名〔上場企業〕
メイテック--------------- 2名
岐建-------------------2名
香川大学工学部は今回取り上げた4つの大学で最も後発の学部である。このため、現職教員に企業研究者も多く、「産学協同」を明確に打ち出しているが、いかんせん目下の不況で企業の採用意欲は低下しているため、四国の3大学では就職状況は最も苦戦している。
それでも、三菱自動車、四電工、NECシステムテクノロジーなど、地元香川・岡山に拠点をもつ上場企業に就職しているのは評価できるが、文理・Uターンを問わず四国出身学生の人気最上位である地元高松本社の四国電力への採用は厳しいようである。理系の場合は院卒が中心であるため学部卒の枠が小さいためであろう。香川大学から同社へは、卒業生から過去社長・副社長を輩出している経済学部が毎年安定的に採用されており、2009年春は経済学部から3名が入社している。
〔愛媛大学工学部 2009年春卒業生の就職先〕
学部就職者数275名;上位10社合計37名=占有率13%
今治造船 -------------12名
NECシステムテクノロジー--5名〔上場企業〕
三浦工業--------------4名〔上場企業〕
伊予銀行--------------3名〔上場企業〕
松山市役所 ------------3名
四電工---------------- 2名〔上場企業〕
広成建設 --------------2名
三井住友建設 ----------2名 〔上場企業〕
三建産業 --------------2名
太陽石油 --------------2名
世界有数の造船能力を誇る地元の隠れた優良企業、今治造船が採用数のトップにたつ。愛媛大学工学部は旧制新居浜高等工業学校以来の名門であるが、上位10社に好況期では出てこない地場の中小企業が複数名顔を出しており、今春年の就職事情が厳しかったことを物語っている。
〔高知大学理学部 2009年春卒業生の就職先〕
学部就職者数136名;上位10社合計16名=占有率11%
高知銀行 ------------ 4名〔上場企業〕
京セラ--------------- 3名〔上場企業〕
郵便局---------------2名
デンソー-------------- 1名〔上場企業〕
ニトリ-----------------1名〔上場企業〕
ローソン-------------- 1名〔上場企業〕
四国銀行 ------------ 1名〔上場企業〕
JR西日本------------ 1名〔上場企業〕
積水ハウス------------ 1名〔上場企業〕
富士通--------------- 1名〔上場企業〕
高知大学には工学部がないため、参考として理学部を取り上げた。ただし、見ての通り学科単位でがっちりと企業と結びついている工学部とちがい人数も分散しており、他の3大学との比較はむつかしい。
もともと高知県には、地元上場企業は銀行を別にすれば技研製作所やミロク製作所など特殊な会社しかないため、自然卒業生は他県に出て行くか高知県内の有名企業の支店に採用されることになる。
高知大学で注目すべきは、上記就職者数でわかるように、理学部から中学・高校の教員が1名もないと推計されることである。これば、地元高知県の教育界が何十年も前から非常に硬直的で、新規採用が殆ど無いため何年も契約講師で食いつないで採用試験を受け続けている人が多いことと無縁ではない。教員は完全な供給過多なのである。現に、2009年春は偏差値的に大差の無い愛媛大学の理学部から愛媛県・広島県あわせて6名が公・私立高校・中学に教員として採用されており、彼我の差は歴然としている。
〔徳島大学工学部 2009年春卒業生の就職先〕
学部就職者数236名;上位8社合計39名=占有率16%
日亜化学工業----------- 18名
三浦工業---------------- 5名〔上場企業〕
四国地方整備局---------- 4名
NECシステムテクノロジー--- 4名〔上場企業〕
三菱電機エンジ ---------- 3名
兵庫県庁---------------- 2名
近畿地方整備局-----------2名
神戸市役所 ------------- 2名
一瞥して、戦前からの歴史のある徳島大学工学部が不況期にあっても堅調であることがわかる。上位就職先に上場企業が少ないように見えるが、地元有力企業の日亜化学が非上場であるし、地理的に関西から近いため公務員の比率が高いためである。上場企業の技術採用は修士課程が多いため、学部卒でも受験できる建築系の整備局や県庁・市役所が見かけ上比率が大きくなっている。
徳島大の就職先上位に松山の三浦工業が顔を出しているが、これは三浦工業の創業者である三浦保氏が旧徳島高工・徳島大工学部卒業生であることが影響していると思われる。
(2009.09.13)