それでは次に、以前も取り上げた関西地区の有名大学のうち大阪市立大学と立命館大学の2009年春の就職事情を、「定点観測」として見てみよう。



香川大学解体新書-大阪市立大
大阪市立大学



まずは、関西公立大学のナンバーワンとされる大阪市立大学である。大阪市立大は戦前の市立大阪高商、大阪商科大学から続く百年以上の長い伝統を持つ公立の名門大である。事実、旧制時代の卒業生には関西財界の大物が数多く名を連ねている。

しかし、マルクス経済学の牙城であったことが災いし、昭和30~40年代に学生運動のメッカとして長い学園紛争に明け暮れた挙句に「日航よど号ハイジャック事件」や「山岳ベース事件」を起こし、パトロンである関西財界から完全に見放され、その地位を戦後派である国立の大阪大学に取って代わられてしまった。

その後、二度の石油危機を経て学生の多くがノンポリ化したこと、共通一次試験になって受験回数が1回になり数少ない国公立の「旧制大学」としての「希少価値」が見直されたため人気はいくぶん持ち直したが、同時にオーナーである大阪市の財政悪化により以前に比べて研究費が削減されたため有名教授が相次いで大学を去るなど不安定要素も大きい。

それを反映してか、市立大阪高商以来の看板学部であるはずの商学部の就職先は、学生の「売り手市場」だった数年前に比べて大きくローカル化している。

下記の就職先上位10社を一瞥して特筆すべきことは、本来「就職貴族」であるはずの旧商大直系学部でありながら、メガバンクをはじめとする都市銀行と関西系の総合商社が1社もないことである。

かつて昭和40年代まで、大阪で開かれる関西系総合商社の社長会のメンバーが戦前の神戸と大阪商大、高商の卒業生で独占されていたのと比べれば、誠にさびしい限りであろう。

それでも、トヨタ自動車や関西電力、日本生命など、関西の学生に人気のある企業に多くの学生が安定的に就職しているのは評価できるが、「強い」とされる銀行でも、かつては関西系都市銀行のりそな銀行の前身である大和銀行の頭取も出した市大が、今は就職先に大阪府や兵庫県内の都銀系列の地銀がずらりと並ぶというのは納得がいかない。あるいは、それだけ学生が転勤を嫌い小粒になったのだろうか。

(※)田宮高麿(たみや たかまろ、1943年1月29日 - 1995年11月30日)とは日本の新左翼の活動家である。赤軍派軍事委員会議長。よど号グループのリーダー。


大阪府立四条畷高等学校卒業。大阪市立大学第二部(夜間部)で学生運動に参加。田宮の部下には森恒夫(後に連合赤軍最高幹部として山岳ベース事件を起こす)がいた。

(※)山岳ベース事件とは1971年から1972年にかけて連合赤軍が起こした同志に対するリンチ殺人事件。当時の社会に強い衝撃を与え、同じく連合赤軍の起こした「あさま山荘事件」とともに日本の新左翼運動が退潮する契機となった。

香川大学解体新書-市大紛争
機動隊が突入する市大キャンパス


〔大阪市立大学商学部 2009年春卒業生の就職先〕

卒業生数191名;上位10社合計32名=占有率17%

日本生命 -------- 5名

池田銀行 -------- 4名〔上場企業〕*地銀

関西アーバン銀----4名〔上場企業〕*地銀

商工中金 -------- 3名

泉州銀行---------3名〔上場企業〕*地銀

大和證券---------3名

トヨタ自動車------ 3名〔上場企業〕

TKC ----------- 3名

大阪国税局-------2名

関西電力---------2名〔上場企業〕



次に、立命館大学を見てみよう。

こちらは、ご存知関西私立の雄、関関同立の一角である。前身が法律学校だっただけあって資格試験に強い。各種試験対策講座の設置や成績優秀者の多くを学費面で優遇する独自の政策とあいまって、現在でも司法試験や公認会計士試験、公務員試験の合格者数は多い。

会計学を専攻する学生が多い経営学部では、就職先上位に大手公認会計士事務所である新日本監査法人が顔を出しているのはさすがである。

ただし、他の顔ぶれを見ると、立命館も巨大企業と言えるのは相互会社で非上場の日本生命、住友生命などに限られ、銀行はメガバンクが上位9社にはなく、滋賀銀行、京都銀行といった地元関西の第一地銀が二桁の就職者を数えている。優良企業とはいえ、地元信用金庫が有力就職先に名を連ねているのも前回のバブル後不況のときと同じで、今春の卒業生の就活の苦闘ぶりが見て取れる。

また、経営学部という「企業に強い」というイメージからは、地方公務員や教員の多さは意外であるが、これも地方出身の学生がUターン先として不況期ゆえの安定性を求めて、上記の各種試験対策講座に通った結果と思えば理解できよう。



〔立命館大学経営学部 2009年春卒業生の就職先〕

卒業生数796;9社合計28名=占有率10%

地方公務員-------15名

滋賀銀行---------15名〔上場企業〕*地銀

日本生命 -------- 13名

京都銀行 -------- 10名〔上場企業〕*地銀

教員--------------7名

京都信用金庫-------6名

住友生命 ----------6名

新日本監査法人-----6名

商工中金 ----------5名



いずれにしても、大阪市立大、立命館大とも、関西の有力大学というイメージから抱く「オールマイティー」さは幻想であることがよくわかる。もちろん、就職先だけ見れば十分安定しているが、その安定は万人受けするものではない。大阪府出身者、あるいは京都府出身者にとってみればオッケーでも、九州出身者や中国地方の出身者にとっては全然うれしくない結果に映るかもしれないのである。

このブログは受験生を対象に書いているわけだが、受験生諸君は、それぞれの大学が、「強いところ」と「弱いところ」を抱えていることを十分理解した上で受験に向かわれることを望む。

ちなみに、香川大学の同種学部である経済学部の今春就職実績を再掲すると下記の通りである。


〔香川大学経済学部 2009年春卒業生の就職先〕

卒業生数297名;上位10社合計53名=占有率18%

中国銀行 -------16名〔上場企業〕*地銀

百十四銀行 ------6名〔上場企業〕*地銀

香川銀行-------- 6名〔上場企業〕*地銀

日本生命-------- 5名

愛媛銀行-------- 4名〔上場企業〕*地銀

香川県警-------- 4名

四国電力-------- 3名〔上場企業〕

伊予銀行-------- 3名〔上場企業〕 *地銀

阿波銀行-------- 3名〔上場企業〕 *地銀

みずほ証券------ 3名〔上場企業〕




(2009.09.11)