(週刊朝日ムック) 大学の選び方2010 (週刊朝日MOOK)
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さて、2009年3月末卒業生、すなわち米国のサブプライム問題に端を発した昨年の世界金融危機後に内定をかちとった学生たちの、大学別の就職状況が出揃った。

出典はやはり今年度版の週刊朝日のムック本「大学の選び方 2010」である。


そこで、香川大の看板学部とされる経済学部と、偏差値では上位に位置する瀬戸内海の向こう側、岡山大の経済学部とを比較して見てみよう。

この両校は、それぞれ瀬戸大橋の開通により人的交流が容易になり、両県の受験生が偏差値に応じて「住み分け」をしたかたちになっている。そこで、両校の就職先上位10社を比べることにより、大学のスクールカラーを見てみよう。


〔岡山大学経済学部 2009年春卒業の就職先〕

定員205名

中国銀行---------10名〔上場企業〕

岡山県庁 --------- 5名

山口県庁 --------- 4名

岡山大学 --------- 3名

日本銀行 --------- 2名

みずほ銀行-------- 2名〔上場企業〕

中国財務局-------- 2名

広島国税局-------- 2名

兵庫県庁 --------- 2名

四国電力 --------- 2名〔上場企業〕



〔香川大学経済学部 2009年春卒業生の就職先〕

定員280名

中国銀行 -------16名〔上場企業〕

百十四銀行 ------6名〔上場企業〕

香川銀行-------- 6名〔上場企業〕

日本生命-------- 5名

愛媛銀行-------- 4名〔上場企業〕

香川県警-------- 4名

四国電力-------- 3名〔上場企業〕

伊予銀行-------- 3名〔上場企業〕

阿波銀行-------- 3名〔上場企業〕

みずほ証券------ 3名〔上場企業〕



さて、このデータを見比べて、皆さんはどう思われるだろうか。

ひとついえることは、「公務員志向の岡大」と「金融志向の香大」ということである。

かつて、バブル崩壊後の就職氷河期もそうであったが、世の中が不安定になったときに同じ国立大学の経済学部であっても両大学の学生の行動パターンがきわめて異なっているのは注目していい。

岡山大を見ると、トップの中国銀行はおくとして、あとは県庁をはじめ、国立大学法人となった岡山大学職員、中央銀行である日本銀行、電力など、公務員・インフラ系の職種が非常に多いということである。就職先上位10傑のうち8つというのは偶然では済まされない。

岡山大の場合、中・四国では老舗の部類に入る法学部が公務員試験で強いため、これに刺激を受けたものと思われる。また、経済学部は法学部と試験科目が似通っているうえ難易度は法学部よりも少し低いため、上位校受験に失敗して不本意入学した後期日程組がリターンマッチのつもりで法学部に混じって公務員試験を早くから準備する傾向も見逃せない。


これに対して、香川大は明快である。香川県警を除けば、殆どが民間、それも四国電力を除けば銀行・保険・証券といった分野に集中している。香川大学は老舗の経済学部であるため、金融論の講座は大学発足当初からあり、教授陣も充実している。現在の学部長の専攻も金融論である。自然、卒業生もこの方面に多い。また、全国の大学生が大学対抗で論文の出来を競う「日銀グランプリ」では香川大は第1回大会から3回連続して入賞しており、したがって学生の金融界への関心も高い。よって、不況期に安定を求めるとすれば、金融機関が圧倒的になるわけである。同じ国立大学でありながら、これだけ際立った差が出るのも興味深い。



また、もうひとつ別の視点で見ると面白いことに気付く。それは、香川大卒卒業生の就職先に占める「OB度」である。つまり、上位の就職先が過去の実績のある会社へ集中しているという点である。

試みに、上の就職先10傑ごとに過去の香川大のOBをあてはめてみると次のような表になる。


〔香川大学経済学部の就職先とOB〕

中国銀行 -------16名<現・常務取締役1名、現・取締役2名

百十四銀行 ------6名<現・常務執行役員2名、元・頭取1名

香川銀行-------- 6名<現・専務取締役1名、元・頭取2名、元・専務以下取締役多数

日本生命-------- 5名<元・副社長1名

愛媛銀行-------- 4名

香川県警-------- 4名

四国電力-------- 3名<元・社長1名・元・副社長1名

伊予銀行-------- 3名<現・取締役1名、元・副頭取1名

阿波銀行 -------- 3名<元・頭取2名、元・専務以下取締役多数

みずほ証券 ------ 3名<元・社長1名(ただし合併前の新日本証券)


香川大は、キャリアセンターとは別に学部単位で独自の就職対策を行っているが、一番有効なのは就職委員や学部長など学部の関係者から直接企業の大物OBに働きかけるやり方である。大学のキャリアセンターから各企業の人事担当へ直接はたらきかけるよりも確実に効く手である。学部関係者から懇願を受けたOB重役はトップダウンで自社の人事担当へプレッシャーをかけるから、まともな学生が応募してくれば採用されやすくなる。このため、就職先の上位には過去に有力卒業生を輩出した企業がずらりと並ぶことになる。

事実、両大学でともに就職者数トップに位置する中国銀行は、香川県ではなく岡山大がある隣りの岡山県の第一地銀であるが、現職の取締役に岡山大OBがひとりも居ないせいか、就職実績数では隣県の香川大のほうが岡山大よりも多い。上の二つの大学の就職力に偏差値ほどの差がないのはこのためであろう。


(2009.09.06)