6月11日の日本経済新聞によると、今回の同社グループが行った「企業人事に聞いた卒業生活躍ランキング」において中・四国地方で1位となったのは四国の香川大学であった。

 


 

 

今年から河合塾の偏差値ランキング表についても大幅な手直しが行われている。こちらについては難易度予想ランキング表が「方式別ランキング」と「学部学科ランクング」の二本立てになるというドラスチックな改革が行われている。

 

 

筆者自身もまだ内容を消化不良であるためこちらについて言及するのは後日とするが、同じように恒例のこの日経の調査についても、今年から調査項目・方法を大幅に変えている。

昨年までの「企業の人事担当者から見た大学のイメージ調査」から「企業人事に聞いた『卒業生が活躍している大学』調査」に呼称を変えたのは、従来の「大学のイメージ」だけでない「実力の評価を」というねらいなのだろう。

原典である日経HR社発行のムック本「価値ある大学就職力ランキング2025>>2026」を入手したので、少し触れてみたい。

 

調査協力企業の属性を見ると、調査対象者が勤務している各上場企業の本社所在地の分布は、

東京・・・・・・・・・44.7%

近畿・・・・・・・・・17.8%

東海北陸・・・・・・・14.1%

関東(非東京)甲信越・・11.9%

中四国・・・・・・・・5.5%

九州・・・・・・・・・3.7%

北海道・・・・・・・・2.2%

である。

 

まず、こういう調査を企業に行うと、社会科学系や工学系の、いわゆる専門系学部の強い大学に好意的な評価がつくのが従来からの傾向である。つまり直接の調査対象者は全上場企業と一部の有力非上場企業の人事担当ということだから、はっきり言うと法学部、経済学部、商学部の出身者が多数派を占める。個人情報保護法のおかげで、昔のように社内報に新卒社員全員の出身校と顔写真をでかでかと紹介するところもまれになっているので、社員の出身校を広く把握しているのは管理部門のスタッフに限られる。製造業の本社ならば総務や経理、営業と常時接点があり、工場勤務の経験者ならば工学系の学部や大学院出身者は身近であったろう。その意味では、法学部と経済学部、商学部の定員が大きい大学にはこういう調査には有利にはたらくが、今回の調査が各社の採用実績上位校を国公立大学(上位5校)と私立大学(上位10校)に分けて回答を求めているのは、うまいやり方かもしれない。絶対数の単純比較では、圧倒的に人数の多い上位私立大学ばかりがピックアップされるのを避けたのだろう。

 

繰り返すが、今回の調査は各社に直近2か年の採用実績数上位15大学(国公立の上位5校・私立の上位10校)を求めている。これにより両方の大学がまんべんなくリストアップされることを意図している。

しかし、私立大学でもマンモス私大から地方の大学まで規模に大きく違いがあるのと同様に、同じ国公立でも旧帝大に象徴される地域を代表するような総合大学から単科の大学まで、その規模には大きな違いがある。とすると、この調査方法では、規模の大きな大学には有利に、逆に規模の小さい大学には不利にはたらくのは否定できない。これで影響を受けるのは、昔から就職に強いと評価されてきた国立の旧高商系の経済学部・商学部である。

近畿の滋賀大学や北海道の小樽商大、九州の長崎大などは「昔から伝統があって東京・大阪の企業にも採用されているし、地元でも強い」ことはよく知られている。しかし、一橋大や神戸大、横浜国立大や名古屋大を別にすれば、これらの学校の多くは地方に分布している。このため首都圏の企業の国公立大採用実績の上位5校には入りづらいし、圧倒的に強いはずの地元企業にはそもそも調査対象となる上場・有力企業が少ない。このため実力よりも低く出ることになる。同じ大学に法学部がないところ、理系で企業に最も歓迎される工学部系がないところも低く出やすい。したがってそのへんは割り引いて考えるべきだろう。

学部ごとの最新の入試偏差値と、調査の結果にギャップがあるのは、それが大きな理由と思われる。

 

実際に、戦前の官公立の高商(高等商業学校)や商大(商科大学と商業大学)を包括した国公立大学は全国に16校ある。

このうち今回の調査でランクインしているのは次の11校に限られている。

 

1位・・一橋大学(旧・官立東京商科大学)

3位・・名古屋大学(旧・官立名古屋高商)

12位・・神戸大学(旧・官立神戸商業大学)

22位・・香川大学(旧・官立高松高商)

24位・・和歌山大学(旧・官立和歌山高商)

42位・・横浜国立大学(旧・官立横浜高商)

45位・・大阪公立大学(旧・大阪市立大阪商科大学)

50位・・兵庫県立大学(旧・兵庫県立神戸高商)

73位・・滋賀大学(旧・官立彦根高商)

85位・・山口大学(旧・官立山口高商)

87位・・富山大学(旧・官立高岡高商)


 

 

日経新聞近畿地方版より

 

日経新聞中国地方版より
 

 

もうひとつ言うと、この調査では文系の就職戦線において大口就職先である金融業の比率が低い。

極端に言うと、1年間の採用人数が100名を超えるようなメガバンクも、全従業員規模が500名未満の中堅どころの上場企業も、ともに1社として集計されている。このため自然と業種的には製造業の回答比率が大きくなる。この製造業の比率が高いということは、採用実績のなかに理系の学生が多いということである。いっぽう、私立大学は昔から「コストのかかる理系は儲からない」ため、文系の卒業生が圧倒的に多い。金融の比重が低く理系の評価ウェイトが高いということは、大多数の私立大学には不利に働くだろう。昔から、金融に強いと言われていた明治大学や関西学院大学の順位がこの調査ではやたら低いのはそのせいであると考えられる。(明治大学はそれでも総合37位だが、関西学院大学は総合78位と関西の他の有力私立大にかなり水をあけられてしまっている。)

上記の旧高商系の国公立大学が総合107位までのうち11校しか入っていないというのも、これらの学校が最も得意とする金融機関の評価ウエイトが低いということが原因のひとつだろう。

 

 

日経新聞関東地方版より

 

業種別

製造業・・40.1%

その他非製造業・・23.2%

卸売・小売業・・・16.8%

情報通信業・・・・11.8%

金融業・・・・・・8.1%

 

さて、今回の調査で公表されている総合ランキングは107位までであるが、ネットの画像等では総合20位の東京大学までを紹介しているところが多い。せっかくなので、東京六大学が6校とも全部出そろう上位67位までを列記してみた。

興味のある方は、ぜひ自分で日経HR社発行の「価値ある大学就職力ランキング2025>>2026」を買って読まれることをおすすめする。

 

1位・・一橋大学

2位・・上智大学

3位・・名古屋大学

4位・・京都大学

5位・・南山大学

6位・・熊本大学

7位・・鹿児島大学

8位・・東京科学大学(旧・東京工業大学)

9位・・千葉大学

10位・・筑波大学

11位・・慶應應義塾大学

12位・・神戸大学

12位・・名古屋工業大学

14位・・大阪大学

15位・・青山学院大学

16位・・早稲田大学

17位・・東北大学

18位・・東京農工大学

19位・・東京理科大学

20位・・東京大学

21位・・愛知大学

22位・・香川大学

23位・・九州工業大学

24位・・山形大学

24位・・和歌山大学

26位・・同志社大学

27位・・学習院大学

28位・・岩手大学

29位・・北海道大学

30位・・三重大学

31位・・群馬大学

32位・・宇都宮大学

33位・・岡山大学

34位・・名城大学

35位・・愛知工業大学

36位・・広島大学

37位・・明治大学

38位・・東京都市大学

39位・・京都産業大学

40位・・金沢大学

41位・・関西外国語大学

42位・・横浜国立大学

43位・・芝浦工業大学

44位・・岐阜大学

45位・・大阪公立大学

46位・・静岡大学

47位・・関西大学

48位・・立教大学

49位・・日本工業大学

50位・・兵庫県立大学

51位・・中京大学

52位・・中央大学

53位・・佐賀大学

54位・・九州大学

55位・・埼玉大学

56位・・立命館大学

57位・・大阪電気通信大学

58位・・関東学院大学

59位・・神奈川工科大学

60位・・東海大学

61位・・大阪経済大学

62位・・法政大学

63位・・神戸学院大学

64位・・福岡大学

65位・・東京農業大学

66位・・愛媛大学

67位・・新潟大学

 

香川大学と同じく戦後E・E2学部編成(教育・経済)で発足した福島大学

 

先にご紹介した福島大学の4学部への再編成であるが、地元地方紙の福島民友新聞が「独自取材」として続報をHPに掲載した。

おそらく、記者の大学関係者への独自取材による成果ということだろう。あるいは、大学関係者が意図的に地元紙記者にリークした観測記事という見方ととることもできる。

もともと新学部の詳細は来年にならないと公式には発表しないと説明されている。そのため、情報を小出しにしてステークホルダーの反応を確認しながら、内容を固めて行こうという意図とも考えられる。

 

これによると、現行の福島大学行政政策学類と経済経営学類を統合してできる新学部の名称は「行政経済」学部だそうだ。すでに現在の学群・学類制のもとでも福島大学はコース制をとっている。このため、2学類をひとつの学部にまとめたうえで、いまある4つのースがその下に直接ぶら下がることになるらしい。「ひょっとするとコースの名称は若干変わるかもしれないが、大枠は変わらないよと」いうメッセージがこめられているのかもしれない。

なんか、看板の架け換えにとどまりそうな印象であるものの、それならば何故ここで無理して学部を統合する必要があるのか?ということになる。たぶん、当座は今の教員スタッフの身分保障というということから大きな変動はせず、その後スタッフの定年や転出等による補充をせずに、なし崩し的に教授定員を今後の重点学部である理系の学部に振り替えてしまおうということではないか。

たとえば、厳密には理系とも言える今はやりのデータサイエンス系のコースを新設しようとするならば、専門知識のある教授陣の募集は必須である。しかし、かつて理系の学群を新設した当時には、文科省から教授スタッフの増員は認めないと釘をさされたため、既存の文系と教員養成の学群から割いた教授定員をかき集めて予算をねん出する手法がとられていた。評論家の山内太地氏が触れているように、明治維新以来、文部省は福島県には冷たいのである。

 

さて、すでに大学内で前例があるのである。

となると、今後は教授定員の漸減にあわせて旧経済経営学類の学生定員もまた漸次削減されることが確実であろう。

そうなると、同じ学部のなかに複数のコースごとに別個の同窓会が並立するというのも規模的に不自然となる。

もちろん医学部のように学科が職種別に別れているところは別々が当たり前であるが、文系の同じ社会科学の隣接分野の場合はどうだろうか。福島県庁や東邦銀行(福島県の地方銀行)など、それぞれの学類出身者が机を並べて働いている職場も多い。現に、香川大学では法学部一期生卒業と同時に経済学部と法学部が単一の同窓会「又信会」を組織している。香川大学と同じく旧高商系の国立大学で、医学部も抱える総合大学のなかで経済、経営、法学部の3学部の卒業生のみで構成されている同窓会「凌霜会」をもつ先輩校の神戸大学等に倣ったものである。

すでに少子化で私立大学の6割は定員割れを起こしている。今後、18歳人口の減少がすすめば多くの私立大学で経営危機は確実だろう。そうなると、監督官庁である文科省はその救済と整理のために、国立大学の定員を「市場規模」に見合ったものに削減するよう働きかけるのは自明の論理である。私立大学の過半を占めるの文系学部であり、受験生という需要が増えないのならば募集定員という供給を絞ればいいと。そうなると、地方国立大学の文系学部の定員が半減される未来も夢物語ではない。

今後とも文系学部の学生定員の縮小が進めば、現在は学類単位で別々に活動している経済経営学類の「信陵同窓会」と行政政策学類の「阿武隈会」が、学部単位でひとつに合併ということも将来的にはその延長線上にありうる。

下記の福島大学経済経営学類の信陵同窓会会長の懸念ももっともであり、今後の成り行きが気になるところである。

 

 

福島民友新聞社HP 10/17 9;30記事より 

 

>【独自】福島大に「行政経済学部」 27年度新設へ調整

 

福島大は、2027年度の全学再編に伴い経済経営学類と行政政策学類を統合して新設する学部の名称を「行政
経済学部」とする方向で調整に入った。新学部には四つのコースを設ける方針。新学部の名称は来年1月までに、
学部ごとの定員配分やカリキュラムについては来年4月までに決める。
 新学部は経済学、政治学、法学、社会学など人文社会科学分野を基礎とし、データアナリストの素養を持つ人材
の育成分野を新たに設ける。流動的な面はあるものの、関係者によると、新学部の定員は現行の経済経営学類(2
20人)と行政政策学類(185人、夜間主コース分を除く)を合わせた400人程度となる見通しという。
 福島大は27年春の入学生を対象とした26年度の入試から、現行の3学群5学類を新学部と教育、理工、食農
の4学部に再編する。4学部全体の学生の定員は当面、現定員を維持する方針。

 

 

信陵同窓会(旧制福島高商・福島大学経済経営学類同窓会)HPより

 

 

会長からのご挨拶より

 

>

 「未来への革新」のハードル

 福島大学経済経営学類同窓会会長    菅野建二(大21)

 

 伝統ある信陵同窓会の会長に去る6月8日の常任理事会・理事会で選出されました。母校は2022(令和4)年に創立100周年を迎えました。1922(大正11)年に設立された福島高等商業から福島経済専門学校、福島大学経済学部、経済経営学類と名称は変わりつつも「信陵」魂は連綿と継承され、多くの人材を輩出してきました。そして今、母校は大きな変革の時を迎えています。

 福島市・信夫山の麓、森合の地に開校した学校は金谷川に移転。今や福島大学は経済経営、人間発達、行政政策、共生システム理工、食農の5学類を擁する総合大学として歩んでいます。信陵同窓生も森合で学生時代を過ごした、いわゆる「森合世代」を「金谷川世代」が数の上で大きく上回っています。入学から金谷川で学生生活をスタートした金谷川1期生も還暦を迎えました。

 こうした状況において同窓会活動は世代交代を進めていくことが求められています。金谷川世代に推進力のバトンを渡し、世代を超えて「信陵」に集っていくこと。2年前の母校創立100周年事業として経済経営学類の玄関前に記念碑を建立しました。碑には「百年の伝統と未来への革新」の文字を刻みました。実行委員会を構成する同窓会と大学が考案した言葉です。この「未来への革新」へ向けては高いハードルがあります。

 いま、福島大学は大掛かりな「全学再編」を進めています。既に共生システム理工学類の定員を40人増員するとの方針が明らかにされていますが、文系については経済経営学類と行政政策学類の統合が模索されています。こうした動きに対して信陵同窓会は、歴史と伝統のある「経済」の名称を残すとともに、今後の改革案を遅滞なく同窓会に示して欲しい等を要望しています。

 経済経営学類と行政政策学類が統合となれば、同窓会はどうなるのか、100年余の伝統を誇る「経済」と昭和63(1988)年開設で36年の歴史がある「行政」。信陵同窓会に対して「行政」の同窓会「阿武隈会」。この二つの同窓会の存立をどう図っていくかが大きな課題となってきます。信陵同窓生は全国に1万3000人。世代を超えて同窓会に結集し、ハードルを乗り越えていきたいと思います。ご支援をお願いします。

 

信陵同窓会長 略歴

菅野 建二(かんの・けんじ)

1950(昭和25)年4月生まれ。福島県川俣町出身。

1969(昭和44)年3月 福島県立福島高校卒業

1973(昭和48)年3月 福島大学経済学部卒業  大学21回。

福島民友新聞社常務取締役編集局長・論説委員長などを歴任。

令和3年7月~令和6年7月 福島信陵会会長を務める。

 

筆者は、商売柄、日本経済新聞系のテレビ東京やラジオNIKKEIの番組を視聴することが多い。

最近は、リアルタイムを逃してもあとで動画配信などで再生することができるので重宝している。

以前、「記事の中の香川大OB(47)」で取り上げたフリーアナウンサーの八木ひとみさんが、今年夏からBSテレ東の「NIKKEI NEWS NEXT」のメインキャスターをしている。

 

 

       BSテレ東 投資&経済の目利き塾

 

2022年にしばらく産休されたことは担当されていたラジオNIKKEIの「カブりつきマーケット情報局」を通じて知っていたが、同時期に早稲田大学でMBAを取得すべく悪戦苦闘をされていたというのは最近AERAで知った。

筆者も、やはり同じ年代の頃に高松の社会人大学院で学んだ経験がある。気楽な独り暮らしの独身管理職時代においても、仕事と授業の両立というのは当たり前にキツかった。当時はまだオンライン授業は普及していなかったため授業は対面のみ。それでも車通勤が普通の地方都市には終電の制約などないため、先生によっては日付が変わるまで、文字通りのエンドレスだった。午前零時になると経済学部の正門が閉まるので、その前に各人が構内に停めていた自分の車を駐車場から一度出す。その作業が途中の休憩時間だった。学部から進級してきた若い学生に交じって、高松の財務局や国税局、経済産業局の職員、あるいは地元企業の役員や公認会計士といったさまざまなバックボーンを持つ同級生たちが居て、終わった後には先生に引き連れられて経済学部長室のドアをノックし、そこで帰宅する前に眠気覚ましのコーヒーをいただいたりもした。今思い返しても、実に寝不足に悩まされた院生時代であった。まして、八木さんのように仕事と子育てと学業を鼎立させるとなると、その大変さは想像を絶する。

もともと香川大学では法学部を卒業した八木さんであるが、上京後はBS局の「TBSニュースバード」にはじまりずっと経済畑のキャスターとしてキャリアを積まれていた。そのため、これから先を見据え、それだけの犠牲を払ってでも「いまやるべき」と思われたのだろう。

 

>AERA 2024年7月8日号より

 

早大大学院でMBA取得の八木ひとみアナ 午前2時までオンラインでのグループワーク、4時出社の2年間で得たもの

 

大学院などで学び直しをする社会人学生にとって、学びの時間を確保するのは容易ではない。どのように仕事と勉強を両立したのか。大学院で得たものは何か。早稲田大学ビジネススクールで学んだ経済キャスターの八木ひとみさんに聞いた。AERA 2024年7月8日号より。

 

BSテレ東「NIKKEI NEWS NEXT」でメインキャスターを務めるなどテレビやラジオで活躍中の経済キャスター、八木ひとみさん。

 私生活では2022年7月に出産。21年度から早稲田大学ビジネススクール(大学院経営管理研究科)で学び、育児と仕事を両立させながらMBA(経営管理修士)を取得した。

「2年間、ずっとお祭りに行っていたみたいな感覚でした」

 八木さんは、社会人学生として過ごした濃密な時間をこう振り返った。共に学ぼうという熱い思いを持つ社会人が集まると、こんなに活気に満ちた空間やポジティブな関係性が生まれるのか。そんな発見の連続だったという。

「ビジネスの専門分野はみんなバラバラ。それぞれのバックグラウンドが違うからこそ、互いに異なる視座を提供し、高め合おうとするんです」

「意識の高い人たち」。そう言うと、使う場によっては否定的なニュアンスも含んでしまうが、大学院で出会った社会人コミュニティはまさにそういう人たちの集合体だった。誰かが夢や目標を語ると、必ず肯定的に受け止め、その実現に向けてどうアプローチすればいいのか意見を出し合う。八木さんがそこで得たのは「自己効力感」だったという。

「自分を肯定する力を持つ人はたくさんいると思いますが、自分はきっとできる、という自己効力感は大学院生活を経てすごく高まりました」

 大学院進学を思い立ったのは20年の年末。趣味が「居酒屋さん巡り」というほどの飲み会好き。それがコロナ禍で中断を余儀なくされ、夜の時間がぽっかり空いた。その時、先輩の経済キャスターたちから「この道でやっていこうと思うのであれば、しっかり学んだほうがいい」と勧められていた選択肢が不意に浮かんだという。

 

「このチャンスを逃すと、勉強しようという気にはおそらくならなかったと思います。体力的にも無理がきくぎりぎりの時期だろうなと考えました」

 経営学の基礎から応用まで体系的に学べる経営管理研究科で、平日夜と土曜日に開講する「夜間主総合」プログラムに在籍した。社会人の学びの特徴は「本気度」の強さだと感じるという。自分でお金を出して働きながら学ぶのだから、何一つ無駄にはできない。いかに効率よく勉強や情報収集できるかに注力したという。

「そのあたりは学部生の時とは時間の流れ方が全く違います」

 大学院の平日の授業が終わるのは午後10時。それから帰宅後、授業によってはオンラインでのグループワークなどが午前0時前後に始まることもあった。終わるのは午前1~2時。八木さんは当時、BSテレ東の朝の生番組に出演するため月~金曜日は午前4時に出社しなければならなかった。さらに、ラジオNIKKEIの生放送のレギュラ―番組を週3本。ほかにもイベントや番組終了後の延長配信、証券会社の動画にも出演し、フリーアナウンサーとしてフル稼働していた。昼間に30分でも隙があれば寝ていたという。そんな中、どうやって学びの時間を確保したのか。

「とにかくスキマ時間をフルに活用し、移動中もパワーポイントを作ったり、自宅のキッチンにパソコンをおいて作業したりしていました。座ると寝てしまうので立ったままやっていました」

 履修単位を落とせなかったため、出産1週間後には自宅からオンラインで授業に出席していたという。こうした苦労の末に得られた成果は何だったのか。八木さんは経済キャスターの仕事に生かせるスキルにとどまらず、次のキャリアに向けたヒントを得ることもできたと明かす。

「将来、今とは別の道に進もうと思った時、ビジネスの上で自分が興味のある分野は何なのか、ある程度、範囲を絞り込むことができました。企業の人材育成の手法として注目されるコーチングなどの勉強は今後も続けていきたいと考えています」

 親しく交流したゼミのメンバーとは今も定期的に集まり、互いの近況報告をしているという。「同志」との絆もほかでは得がたい財産だ。(編集部・渡辺豪)