Mr. Short Storyです。

 

 今回も銀河英雄伝説について考察して行きましょう。

 

 前回は、この記事の中編として、アムリッツァ決戦を原作準拠で再現してみました。

 

 そして、その中で同盟軍が、これまで私達が思っていた以上に大兵力を残していた事、そして、帝国軍は思いの外厳しい戦いを強いられていた事を解き明かしました。

 

 疾風ウォルフことミッターマイヤーですら旗艦が被弾する程でしたから、戦闘の苛烈さがうかがえます。

 

 だからこそ、イゼルローンの同盟遠征軍総司令部は、最後の一戦にかけたのでしょう。

 

 これに対し、戦争の天才ラインハルトは、本隊と別動隊を用意し、指揮統率の効率化と柔軟な作戦運用を心がけた事も触れました。

 

 

 兵力比で劣る以上、作戦と運用、そして各艦隊の果敢な戦闘で優位に立とうとしたのでしょう。

 

 事実、これまでの前哨戦で同盟軍を撃破した帝国軍は、士気で、そして何よりも補給面で圧倒的優位に立っていました。 

 

 反面、同盟軍は総司令官ロボス元帥が前線に来ず、第五艦隊司令官アレクサンドル・ビュコック中将が最先任として、前線を統括しただろうと述べました。

 

 

 けれども、2000万人、135000隻の大軍を有機的に運用するのは至難の業で、単純な作戦で臨んでいる所からも、その苦心がうかがわれます。

 

 さて、今回は黒色槍騎兵艦隊の猛攻を受けて、第八艦隊が壊滅した時点から解説しましょう。

 

 

 これにより、帝国軍の勝利、そして同盟軍の敗北は、ほぼ確定になりました。

 

※この記事の動画版

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沈黙の第十三艦隊

 第八艦隊は同盟軍の中央を占め、前線の要となっていた事は、前回の記事で触れました。

 

 そこが崩壊した事は、同盟軍が左右に分断され、最早有機的な連携は不可能になった事を意味しました。

 

 

 第十三艦隊を率いるヤンは、これを支援すべきか相当悩みましたが、自軍の生き残りを優先し、砲撃で支援するに留めています。

 

 第八艦隊は黒色槍騎兵艦隊の攻勢を支えきれず壊滅し、戦局は決まりました。

 

 

 黒色槍騎兵艦隊を率いるビッテンフェルト中将は、返す刃で第十三艦隊をも葬ってしまおうと、全艦に近接戦闘を命じ、武装を交換させます。

 

 

 この時、一瞬の隙が生まれました。

 

 

 

頼れる後輩

 黒色槍騎兵艦隊に生じた僅かな隙をヤンは利用し、猛攻撃を開始。

 

 

 今度一敗地にまみれたのはビッテンフェルトの方でした。

 

 

 この逆転劇の裏には、とある人物が関わっていたのは間違いありません。

 

 アムリッツァ開戦前、同盟軍残存艦隊は再編を行いますが、これにより、第十艦隊の生き残りは、第十三艦隊の傘下に入っています。

 

 そして、ウランフ提督戦死後、退却戦を指揮したのが、ヤンの後輩ダスティ・アッテンボローでした。

 

 

 その第十艦隊は、黒色槍騎兵艦隊と激戦を演じていたので、かなりの戦闘データを蓄積していたでしょう。

 

 戦闘経験のある将兵と、そのデータ。

 

 貴重な財産を持って、アッテンボローはヤンに合流していたのです。

 

 この会戦における彼の働きは記述されていませんが、後の活躍を見ると、頼りになる存在だったのは間違いありません。

 

 アッテンボローは後々に至るまで、黒色槍騎兵艦隊と名勝負を演じています。

 

 そして彼は、上官のウランフと味方の大半を、アムリッツァ前哨戦時に失っていました。

 

 

 彼とビッテンフェルトとの因縁は、早くもこの時にさかのぼる事が出来るのです。

 

 

 

訪れる破局

 ビッテンフェルトの敗北により戦局は再び覆され、同盟軍は持ち直すチャンスを得たかに見えました。

 

 しかし、破局はすぐにやって来ました。

 

 キルヒアイス率いる別動隊三万隻が、遂に同盟軍の後背に回り込む事に成功したのです。

 

 

 しかし、彼等の前には、4000万を数える機雷源が道を阻んでいました。

 

 

 ですが、帝国は同盟に先んじて、指向性ゼッフル粒子の開発に成功していました。 

 

 これにより、機雷源に穴を開けたキルヒアイス艦隊は、同盟軍の背後に殺到。

 

 

 ここに戦局は決し、前後から挟撃された同盟軍は雪崩を打って敗走します。

 

 

 味方を全滅から救うべく、ヤンの第十三艦隊が殿を引き受けました。

 

 

 

奇跡の脱出

 この時ヤンは、後にお家芸となる一点集中砲火戦法を駆使し、追いすがる帝国軍に痛打を加えています。

 

 

 そして、味方の退却を支援しつつ、自身の逃走路を確保するため、既に消耗を極めていた黒色槍騎兵艦隊に狙いを定めます。

 

 しかし、首尾よく逃げ切れると思った矢先、キルヒアイスがカバーに乗り出し、退却路は塞がれてしまいます。

 

 

 万事休すと思われた時、パニックに襲われた味方艦が演算無しでワープしてしまい、帝国軍に混乱が生じます。

 

 

 その僅かの間隙を突いて、第十三艦隊は重囲を脱し、イゼルローンへの帰途につきます。

 

 

 

 

 ヤンはこの戦いでも勲功を挙げました。

 

 ですが、この時ばかりは、偶然が味方しなければ、生還は絶望的だったでしょう。

 

 それ次第で、後の歴史は間違いなく大きく変わっていた。

 

 だとすると、彼自身の人生においても甚大な影響を与えた戦いでした。

 

 

 

史上最大の戦い終結

 こうしてアムリッツァ会戦は終結しました。

 

 参加した兵力は

 

 帝国軍 艦艇:100000隻 将兵:1200万人

 同盟軍 艦艇:135000隻(推定) 将兵:2000万人

 

 

 被害は

 

 帝国軍 艦艇:10000隻以上(推定) 将兵:100万人以上(推定)

 同盟軍 艦艇:67500隻以上(推定) 将兵:1000万人以上

 

 同盟軍第八艦隊:壊滅

 帝国軍黒色槍騎兵艦隊:残存兵力旗艦以下数隻

 ミッターマイヤー艦隊:旗艦被弾

 

 

 原作より、同盟軍の未帰還率は7割に達する程であり、生還者は1000万人に満たずとされているので、この戦いで半分は失われた事になります。

 

 対する帝国軍で、最も甚大な被害を受けたのは黒色槍騎兵艦隊でしたが、相次ぐ戦闘で旗艦以下数隻を残すのみと言う惨状でした。

 

 

 私は以前の記事で、第十二艦隊が、旗艦以下八隻にまで撃ち減らされた事について触れました。

 

 しかし、この場合は、司令部が味方の撤退を援護し、その結果孤立したのが原因で、何割かはアムリッツァまで逃げ切れただろうと結論しました。

 

 ですが、黒色槍騎兵艦隊の場合は、その戦いぶりに鑑みて、本当に艦艇のほとんどを喪失したのは間違いないと思います。

 

 

勝者と敗者

 黒色槍騎兵艦隊は同盟軍第十艦隊、そして第八艦隊と立て続けに壊滅させますが、後に第十三艦隊の逆襲を食らい、退路を確保しようとするヤンに狙い撃ちにされ、数少ない生き残りさえもあらかた倒されてしまいました。

 

 

 これだけの激戦を演じたのですから、ほぼ全滅していてもおかしくはないのです。

 

 なので、帝国軍は最低でも一個艦隊を喪失し、1万隻以上の艦艇と100万人以上の将兵が失われた事は間違いないでしょう。

 

 それを踏まえても帝国軍の大勝利なのは間違いなく、ビッテンフェルトを処罰しようとしたラインハルトも、キルヒアイスの諫言により彼を許しています。

 

 

 また同盟軍は、前哨戦の段階で既にウランフ、ボロディン両提督を失い、貴重な一線級将帥の層に大きな穴が空いてしまいました。

 

 対するに、帝国軍は主だった将帥を一人も失っておらず、ローエングラム陣営初の総力戦で、提督達は貴重な経験を積み、成長の機会を得られたのです。

 

 

 

同盟の命運潰える

 自由惑星同盟軍はこの戦いで2000万人以上も失い、敗残の列を連ねてイゼルローンに帰還しました。

 

 

 元々同盟は、社会インフラを運営する人材が不足しつつあり、軍でも民間でも事故やトラブル、不具合が激増していました。

 

 

 特に、30代40代の中堅エンジニアの枯渇は深刻で、そのために、20才以下と70才以上で回さざるを得ない所すらありました。

 

 長引く戦争により、多くのエンジニアが軍に持っていかれ、民間部門は人材面で急速にひっ迫していたのです。

 

 人的資源委員長ホワン・ルイは、軍の技術者を最低400万人民間に戻すよう提言しています。

 

 

 にもかかわらず同盟は、アスターテで150万人、アムリッツァでは2000万人も喪失してしまいました。

 

 宇宙艦隊はハイテク機器の塊である以上、そこの搭乗員は、メカニックやエンジニアが大半を占めている。

 

 

 そう考えると、同じ損失でも、どれだけ同盟の経済と社会が甚大なダメージを受けたのかが良く分かります。

 

 熟練したメカニックやエンジニアがごっそり失われてしまったのだから。

 

 なので、仮にアスターテやアムリッツァが無くても、自由惑星同盟は、経済やインフラを維持出来なくなり、国力を維持出来ず、遅かれ早かれ滅亡していたでしょう。

 

 ですが、アムリッツァがその時期を大幅に速め、引き返す道をふさいでしまった事は事実です。

 

 民間部門に400万人のエンジニアすら調達できない状況で、2000万人も犠牲にしているのだから。

 

 

 

アフターアムリッツァ

 アムリッツァ会戦は、帝国、同盟、フェザーンのパワーバランスを変えただけではなく、その未来をも決めました。 

 

 

 

 ラインハルトがアムリッツァで未曽有の大勝利を収めた直後、皇帝フリードリヒ四世が崩御。

 

 帝都オーディンに帰還したラインハルトは宇宙艦隊司令長官に任じられ、爵位を侯爵へと進めます。

 

 

 そして、皇帝亡き後の政局を巡り、ラインハルトVS大貴族連合の権力闘争が始まろうとしていました。

 

 これに対し、自由惑星同盟では、敗戦の責を取り、サンフォード政権が総辞職。

 

 国防委員長トリューニヒトを首班とする暫定政権が成立します。

 

 

 同時に軍部でも、統合作戦本部長シトレ元帥と、遠征軍総司令官を務めた宇宙艦隊司令長官ロボス元帥が辞任。

 

 フォーク准将は精神疾患により予備役に編入。

 

 後任の統合作戦本部長には元第一艦隊司令官のクブルスリー大将が、宇宙艦隊司令長官はビュコック大将が就任。

 

 そして、最大の戦果を挙げたヤンは、大将に昇進の上、イゼルローン要塞兼駐留艦隊司令官として、国防の第一線に立ちます。

 

 

 この様に、帝国、同盟二大勢力は、どちらもアムリッツァを契機に政治、軍事双方に及ぶ激動を経験し、その影響は、歴史をアムリッツァ以前と以後で区別出来る程決定的でした。

 

 既にどちらも、古い時代に戻る事が出来ない。

 

 特に同盟は、その滅亡まで、アムリッツァの呪縛に苦しむ事になります。

 

 仮にラインハルトが大侵攻をかけなくても、自由惑星同盟は財政、経済面で破綻を来し、軍事力の回復も出来ず、遅かれ早かれ国家機構は崩壊していたでしょう。

 

 やはり同盟の命運を決したのは、このアムリッツァだったのです。

 

 

 

神々の黄昏の先駆け

 最後に、軍事面におけるこの戦いの意義を考察して、締めくくりとしましょう。

 

 とりわけ大きな収穫を得たのが帝国軍でした。

 

 なぜなら、後にラインハルトは貴族連合軍と戦い、フェザーン、そして同盟を制圧しますが、その都度彼は、10万隻、1000万人規模の大軍を動かしています。

 

 

 彼は二度に渡り、自由惑星同盟領への大遠征を発動していますが、アムリッツァ会戦での経験やデータが参考にされた事でしょう。

 

 事実、史上初めて彼の艦隊は、同盟首都ハイネセンまで攻め込みますが、遠征距離が一万光年に及んだにもかかわらず、大きな破綻を来しませんでした。

 

 

 確かにビュコックの抵抗や神出鬼没のヤン艦隊は手ごわい存在でした。

 

 ですが、それらを相手にしてなお、帝国軍の補給や通信、そして将兵の士気は維持されていました。

 

 焦土作戦により、兵站が崩壊した同盟軍を反面教師にしたのは間違いないでしょう。

 

 だとすると、この史上最大の決戦は、ラインハルト、ひいてはローエングラム陣営に貴重な軍事的ノウハウをもたらしてくれた事になります。