Mr. Short Storyです。
 
 今回も銀河英雄伝説について考察して行きたいと思います。

 前回は、ローエングラム朝銀河帝国の軍務尚書パウル・フォン・オーベルシュタイン元帥の最後について取り上げました。

 

 そして、疑惑に満ちた彼の死は、本人が意図して自らを粛清したのだと結論しました。

 

 彼はゴールデンバウム王朝に激しい憎悪を抱き、その深刻度はラインハルトをも上回っていたかも知れません。

 

 

 

 皇帝に最愛の姉を奪われたラインハルトは、帝国に対する復讐を誓いましたが、生まれつき目が見えなかったオーベルシュタインに至っては、劣悪遺伝子排除法を国是とするゴールデンバウム王朝においては、本来なら抹殺されてもおかしくない境遇だったのです。

 

 

 

 劣悪遺伝子排除法自体はマクシミリアン・ヨーゼフ晴眼帝により有名無実化されましたが、それ以降も、ルドルフ大帝が強く信仰していた優生思想は根強く残っていたのは間違いありません。

 

 事実、オーベルシュタインは貴族であり30代で元帥にまで栄達しましたが、にもかかわらず生涯独身だった事は、そう言う風潮がまだ深い影を落としていたと言う事でしょう。

 

 

 

 その彼はゴールデンバウム王朝打倒、それに代わる理想の王朝建設を行動原理とし、最後までそれを貫き通します。

 

 そのための候補者としてラインハルトを選び、その夢はほぼ実現しましたが、いつしか自分が新王朝の中で極めて危険な存在になるだろう事に気付き始めた。

 

 その契機となるのが皇帝ラインハルトの死であり、摂政皇太后ヒルダが主催する新体制の中で自分の居場所はない。

 

 

 

 かと言って、謀略を駆使して己の論理を貫けば、折角の作品ローエングラム王朝は建国早々破綻してしまう。

 

 最悪の事態を避けるために、地球教最後の残党とともに自らを始末する計略を練り、おまけに、瀕死の皇帝をその囮とする事で敢えて退路を断った。

 

 

 

 実際、オーベルシュタインが生き残っても、皇帝ラインハルトを囮とした一件により、少なくとも政治的生命の喪失は免れなかったでしょう。

 

 この辺りにも、王朝の将来のため自らを粛清してしまおうと言う強烈な決意がうかがえるのです。

 
 さて、今回は帝国、同盟双方をより組織レベルから解説したいと思います。

 

※この記事の動画版

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ニコニコ動画 銀河英雄伝説解説動画第12回ローエングラム陣営ではなぜ若手が育たないのか?【霊夢&魔理沙&妖夢】 - ニコニコ動画 (nicovideo.jp)


 

 

 

若いパワーが時代を切り開く

 ローエングラム陣営は、ゴールデンバウム朝時代、アスターテで勝ったラインハルトが元帥府を開いた時にその基盤が出来ています。

 元帥に昇進した彼は、身分の低い若手から有能な人物を積極的に登用し、彼らは提督としてラインハルト陣営の中核集団を構成します。

 

 

 そして、皇帝となったラインハルトの死に際して、彼等の生き残りは全員元帥に叙せられ「獅子の泉の七元帥」と呼称されます。

 

 

 彼らはほぼ例外なく、ローエングラム王朝誕生と共に新帝国の上級大将、もしくは元帥として軍の最高幹部となっています。

 彼らの若いパワーが、銀河に新時代を開いたと言えるでしょう。

 ですが反面、そのローエングラム王朝は人材面で大きな問題に直面していました。

 それは、大将級以下の若手が育っていないという意外な弱点でした。

 

 

 

粒ぞろいのローエングラム陣営

 ですが、この問題もある意味贅沢な悩みではありました。

 ラインハルトと対決した自由惑星同盟はアムリッツァ会戦で主要な戦力と提督達を失い、ラインハルト側よりはるかに深刻なマンパワー不足に陥っていました。

 

 

 

 その影響は深刻で、ヤン・ウェンリーですらウランフやボロディンと言った、有能な将帥の戦死を惜しんでいます。

 これに対しローエングラム陣営では、ミッターマイヤーに代表される元帥・上級大将クラスが非常に有能かつ忠実で、優れた逸材がそろっていました。

 

 

 そして、彼らを率いるラインハルト自身が、戦争でも政治でも当代一流の天才だったのです。

 キルヒアイスを失った痛手は大きいですが、彼は貪欲な人材収集でそれを埋め合わせ、その手は敵方の将帥にも及んでいました。

 

 

 こうして見ると、ローエングラム王朝が人材難なんてありえないと思えて来ます。
 
 ですが、その実内部では人事面において深刻な矛盾が生じていたのです。

 

 

 

人類史上未曽有の成長神話

 そもそもラインハルト陣営自体が、人類史上最大のスピードで拡大した超成長組織でした。

 その大本はラインハルトが元帥府を開いた時にさかのぼります。

 この時彼は、宇宙艦隊副指令長官として、帝国艦隊の半数を率いる身分に過ぎませんでした。

 

 

 それが、アムリッツァで同盟軍を破った事で正式に宇宙艦隊司令長官となり、その後リップシュタット戦役が発生すると、帝国軍最高司令官として正規軍を掌握しています。

 

 

 

 更に、貴族連合軍を倒す事で帝国宰相に就任。

 

 引き続き帝国軍最高司令官も兼務していたので、政軍の大権を併せ持つ独裁者として帝国に君臨するに至ったのです。

 

 

 

 後にラグナロック作戦でフェザーンと自由惑星同盟を制し、オーディンに帰還後ゴールデンバウム王朝を滅ぼし、ローエングラム朝銀河帝国を建国。

 

 皇帝に即位し銀河の覇者となります。

 

 

 

 そして再び同盟領に大侵攻をかけ、マル・アデッタで同盟最後の宇宙艦隊を撃破し、首都星ハイネセンを制圧。

 

 冬薔薇園の勅令で自由惑星同盟の滅亡を宣告し、銀河統一事業はほぼ完成を見ます。

 

 

 この間わずか数年であり、帝国の一部局から全人類を支配するまで未曽有の拡大をし続けたのです。

 

 残るは独立を宣言したエル・ファシル政府とイゼルローンを奪回したヤン一党のみでしたが、その支配領域と人口に鑑みて、ヤン・ウェンリーの知名度を除けば取るに足らない勢力に過ぎなかったのです。

 

 

 

下剋上

 この急拡大に応じてラインハルトの部下達も急速な昇進を見せています。

 例えば帝国軍の双璧とうたわれたミッターマイヤーとロイエンタールは、ラインハルトの元帥府に参加した時は中将として一艦隊を率いる身でしたが、ローエングラム王朝成立により元帥に昇進。

 

 

 前者は宇宙艦隊司令長官、後者は統帥本部長から新領土総督にまで出世しています。

 

 


 オーベルシュタインも准将から帝国元帥・軍務尚書の要職を占めています。

 

 

 ラインハルトが登用した提督達のほとんどは、平民、もしくは下級貴族の出身であり、能力はあっても門閥貴族が幅を利かす旧王朝では日陰者の身分でした。

 なので、彼等は乱世に乗じて立身出世、下剋上に成功したとも言えるのです。

 

 

 

手柄と栄達

 さて、ミッターマイヤー達はローエングラム王朝成立により、今まで特権階級を攻撃する側だったのが、手に入れた既得権を守る側に回ったのは否定できない事実です。

 事実新帝国において、制式艦隊を率いて作戦したのは、この元帥・上級大将クラスに限られています。

 彼らはまだ若く、全員が20代、もしくは30代で提督の称号を帯びていました。

 

 

 ですが、彼らがいかに若いとしても、その下により若い層がいる事実は否定できません。 

 

 

 そうです。

 ローエングラム王朝創立時、既に組織としての成長の限界は見えていました。

 フェザーンを攻略した時点で、残る主要な敵は自由惑星同盟のみであり、しかも彼らはアムリッツァの痛手から回復していません。 

 

 


 ラインハルト陣営は能力主義・実力主義であり、彼の部下達は戦争で手柄をたてたからこそ、ここまでのスピード昇進が可能でした。

 と、言う事は、戦乱が収束し、同盟のような強大な敵が消えてしまえば、その可能性も潰えてしまうのです。
 

 

 

 

野心家達の末路

 フェザーン自治領を制圧したころから、トゥルナイゼンら若手による野心的な振る舞いが目立つようになります。

 彼らに共通しているのは、あくなき出世欲と一種の焦りでした。

 そして、ほぼ例外なく彼らは悲惨な末路をたどっているのは注目に値します。

 トゥルナイゼンは豪胆な言動でラインハルトの歓心を買おうとしましたが、肝心のバーミリオン会戦で醜態をさらし、以後は閑職に回されます。

 

 

 少しでも功績を上げようと補給船団の護衛を申し出たゾンバルト少将は、任務を怠った所をヤン艦隊の襲撃に会い、自ら放言した通り自決を命ぜられています。

 

 

 惑星ウルヴァシーにおける皇帝ラインハルト襲撃事件の捜査を任されたグリルパルツァー大将は、地球教の仕業という証拠をつかみながら、野心のため真相を隠し、ロイエンタールが反乱を起こすのを止めるどころか、彼に協力するふりをして裏切り、やはり処刑されています。

 

 

 その彼に同調したクナップシュタインに至っては、裏切るより早く乱戦のさなか、戦死と言うあえない最期を遂げています。

 

 

 彼らはラインハルト陣営の中でもとりわけ若く、ミッターマイヤー達初期からの集団と比べれば新興層と言えます。

 彼等に限って、やたら不本意な退場を強いられているのは、果たして偶然なのでしょうか?

 

 

 

2大派閥

 私は以前の記事で、ローエングラム王朝には諸提督を中心とする個人的忠誠派と、オーベルシュタインを代表とする組織派との二つの派閥があり、水面下で互いに角逐している事を考察しました。

 

 

 ですが、これだけではなく、もう一つの軸、ミッターマイヤー等に代表される既得権派と、トゥルナイゼン達に見られる新興層との摩擦があったのではないかと思えてきます。

 

 

 事実、トゥルナイゼンらに対する既得権派の対応は厳しいものがありました。

 確かに実力差はあります。
 
 ですが、失敗を犯した時に与えられるペナルティーが、既得権派と新興層とでは雲泥の差なのです。

 

 

 

処遇に見られる格差

 例えば、黒色槍騎兵艦隊を率いる猛将ビッテンフェルトは、イゼルローン回廊を巡る前哨戦でヤンの罠にはまり、大損害を被った挙句、僚友のファーレンハイトまで戦死しています。

 にもかかわらず、ラインハルトは皮肉こそ言いましたが、彼の罪を問わず、のみならずファーレンハイト艦隊の残りまで与えています。

 

 

 ヤンにイゼルローン要塞を奪われたコルネリアス・ルッツは謹慎の上無任所とされますが、それ以上の懲罰は与えられず、後に皇帝巡幸の随行員となっています。

 

 

 同じくそのヤンの罠にはまったワーレンも、叱責はこうむりましたが、後に地球討伐を任され、汚名挽回の機会を与えられています。

 

 

 それに対してゾンバルトなどは、たった一回の失敗で自殺を命じられているのです。

 

 

 この新興層の代表的人物はグリルパルツァーでした。

 彼は軍人としてのみならず、学者としても活躍し、将来を嘱望されていました。
 
 ですが彼はロイエンタールの反乱を止めず、戦場で彼を裏切り手柄を立てる事を望み、それが発覚して処刑されてしまいます。

 

 

 これ自体はは当然の報いではありますが、反乱を起こした当のロイエンタールは、死後元帥号を返還されるなど、名誉回復がはかられています。

 この点でも既得権層と新興層との間には、その待遇において明確な格差が表れています。

 露骨に言えば、ローエングラム王朝においては、ミッターマイヤー達元帥・上級大将クラスは非常に優遇されている反面、これから成り上がる新興若手層は、冷遇されている感があります。

 果たしてこれは偶然なのでしょうか?

 

 ここまで見てみると、少なくともローエングラム王朝においては、野心や欲望だけで若手新興層が生き残り、そして出世する事は難しいようです。

 

 では、戦乱の収束しつつある銀河で、彼らはどうやって立場を固め、栄達を図るべきなのか?

 

 また、自由惑星同盟での軍幹部はどのような形でキャリアを積んでいったのか?

 

 次回後編ではこれらの疑問について考察して行きます。

 
 

 

 

 

 

 


 

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