Mr. Short Storyです。

 今回も銀河英雄伝説について考察してみたいと思います。

 前回の記事ではマル・アデッタ星域会戦について扱いました。

 

 その中で、ヤンとビュコックはバーラトの和約以降も何らかの形で連絡を取っており、双方は互いの計画や構想を共有した上で、軍事行動を取っていた可能性が大きいと結論しました。

 

 エル・ファシル独立政府と合流後、ヤンの戦力は増大していましたが、それでもまとまった艦隊と戦ったらひとたまりもありませんでした。

 

 

 

 のみならず、イゼルローン奪回作戦とマル・アデッタ星域会戦はほぼ同日時に発生しており、皇帝首席秘書官のヒルダは個人プレイの交錯と断定しましたが、これにより帝国軍の目がヤン艦隊から離れたのは間違いないのです。

 

 この貴重な時間を稼ぐため、ビュコックは一見無謀な短期決戦策を採用した。

 

 

 

 ただし、ヤンはビュコックの方針は知りつつも、彼が同盟に殉じる事までは知らされていなかった。

 

 こう考えると、ヤンがビュコックの死にあれだけ取り乱した事も、新たな視点でとらえる事ができます。

 

 

 

 実際、ビュコックは副官のスーン・スールに自分の敵討ちをしないようにとのメッセージを託し、ヤンの下に送り出しています。

 

 こう考えるとビュコックはヤンと共作しつつ、彼とラインハルトと言う天才用兵家2人を同時に手玉に取った事になります。

 

 さて、今回は再び帝国サイドに戻ります。 
 
 久しぶりに軍務尚書オーベルシュタインを扱いましょう。

 

 私はこれまでの記事で、オーベルシュタインはローエングラム王朝における組織の論理の体現者であると規定してきました。

 事実、ローエングラム王朝は成立して間もなく、しかも極端な武断統治である以上、ラインハルトと彼に心酔する提督たちだけではその暴走に歯止めがかからず、彼の様な人物がいなければ、なんらかの形で破たんしていた危険は十分にあります。

 それをほぼ一人で阻止していたのがオーベルシュタインだったのです。

※この記事の動画版

 

 

 

 

稀代の辣腕家

 オーベルシュタインは謀略にたけた人材を求めるラインハルトにより登用されました。

 その期待通り彼は辣腕ぶりを発揮し、あらゆる敵に、そして時として味方にさえ冷酷非情な策略を駆使して排除しています。

 

 

 ですが、彼はただの謀略家ではありませんでした。

 生まれつき目が見えなかった彼は、劣悪遺伝子排除法を制定しているゴールデンバウム王朝に深い憎悪を抱き、それを滅ぼすべくラインハルトに仕官しました。

 

 

 そして、ローエングラム王朝が成立すると、皇帝ラインハルトによって軍務尚書に任じられ、王朝内で重きをなします。

 彼が単なる謀略家であったなら、ここまで栄達しなかっただろうし、場合によってはラインハルト達の警戒を買って、ラングのように処断されていたでしょう。

 ですが、オーベルシュタインの本質は、先にも述べた通り、ローエングラム陣営内に置いていち早く組織の論理を導入した事にあります。

 

 

 

全ては公儀のため

 彼は、大貴族によるヴェスターラント核攻撃を見捨てるようラインハルトに強く進言し、為政者としての自覚と決断を求めました。

 

 

 キルヒアイスを牽制したのも単なる権力闘争ではなく、組織内に第二のリーダーが誕生するのを防ぐためでした。

 イゼルローン要塞攻略にガイエスブルクを用いる作戦案が上がった時、ケンプとミュラーを司令官にするよう提案したのも、帝国軍の双璧と称されるミッターマイヤーとロイエンタールを意識しての措置でした。

 

 

 

 彼等がキルヒアイスになり代わり、ナンバー2候補者になれば組織のバランスが崩れる。

 

 

 

 オーベルシュタインはそう考え、司令官の人選から彼等を外したのです。

 そして、同盟駐在高等弁務官になったレンネンカンプにヤンを除くよう使嗾したのも、戦乱の火種を未然に防ごうとの措置でした。

 

 

 

正論と私情

 極めつけは、彼がハイネセンに赴いたとき、旧同盟の要人を大勢収監し、イゼルローンのユリアン達を降伏させようとした「オーベルシュタインの草刈り」でした。

 

 

 

 この一方的な施策について提督達から抗議を受けた時、彼は悪びれる所か、彼等の主張する軍事的手段を否定しています。

 

 

 

 のみならず、帝国や帝国軍は皇帝の私物や私兵ではない、と深刻な命題をも突き付けています。


 その論理は始終一貫しており、それは私情よりも公儀、もしくは効率を優先すべし、というものでした。

 

 特に人命がかかっている事態では、彼ほどより少ない犠牲で最大限の効率を求めた人物もいなかったでしょう。

 ゆえに皇帝ラインハルトに対しても容赦なく、彼と、彼に強烈な忠誠心を抱く提督達から常に嫌われていたのも、もとをただせばお互い正反対の論理で動いていたからであり、必ずしも性格や感情によるものではないのが分かります。

 

 

 もちろんオーベルシュタインにも私情はあります。
 
 それこそが障害者を一律に排除するのを国是としていたゴールデンバウム王朝に対する並々ならぬ憎悪であり、ゆえに彼は、理想の王朝と君主を求めてラインハルトにかけたのでしょう。

 

 

 

ローエングラム王朝の暗部

 ラインハルトはオーベルシュタインの人格はともかく能力を評価し、彼を一貫して重用していますが、同時に人間として好いた事は一度もありませんでした。

 それどころか、彼にはヴェスターラント熱核攻撃とキルヒアイス殉職に、間接的にしろ責任がある以上、いつそれらを材料に排除されてもおかしくなかった筈です。

 

 

 のみならず、彼はラインハルト始め提督達にも容赦なく直言し、それらはいずれも正論でありながら、だからこそ、個人的忠誠心や軍人視点で動く彼らの神経を逆なでする事一たびではありませんでした。

 

 

 しかも裏では、レンネンカンプにヤンを始末するようにたきつけ、ラングを飼って、彼が色々画策するのを放置する等、ローエングラム王朝における暗部を進んで引き受けてもいました。

 

 

 それでいて、ラインハルトや提督達から処断されなかったのは、彼の能力もさることながら、成立間もないローエングラム王朝において、組織の論理と重要性を熟知しているのが彼しかいなかったからなのでしょう。

 オーベルシュタインの正論とは、ローエングラム王朝存続のための正論であり、しかも彼個人としては、それは理想の王朝、そして理想の帝王でなくてはなりませんでした。

 

 

 

畏怖に満ちた存在

 ゴールデンバウム王朝の悪弊については、ラインハルト始め提督達も激しく憎悪しており、自らそれを倒した彼らにとって、この論理を持ち出されれば、容易に反論は出来なかったはずです。

 しかもオーベルシュタインは、個人的欲望や保身で動くような男ではなく、一度ならず敵方への特使や人質など、危険な任務にわが身を差し出す事をラインハルトに提案しています。 

 

 

 この全く保身に走らない所も、格に置いて、他の謀略家とは遥かに違っており、だからこそ彼を嫌う提督達も、不信を抱きつつも、そこは認めざるを得なかったのです。

 ラインハルトは皇后になったヒルダに「自分が理想の帝王として相応しくないと判断したら、オーベルシュタインは自分を排除しようとするかも知れない」と語った事がありますが、これはオーベルシュタインの本質を見事にとらえた見解だったでしょう。

 

 

 確かに、もしラインハルトが長生きし、堕落と腐敗にまみれるようになったら、オーベルシュタインは彼を皇帝の地位から引きずりおろし、皇太子を擁立するなどしていたかもしれません。

 

 

 

疑惑の死

  さて、そのオーベルシュタインですが、主君のラインハルトが不治の病で死ぬ直前、なんと、その彼を囮として、帝国と抗争状態にあった地球教徒の残党を誘い出す策略を実行しています。

 

 

 自分の主君をだしにしてテロリストをせん滅するというのも凄まじい話ですが、その襲撃によって彼は重傷を負い、間もなく死んでしまいます。

 

 

 計算高い彼にしてはあっけない死に方に、これは偶然なのか、それとも殉死を企図しての事なのかと、生前の彼を知る者たちの間で取り沙汰される事になりました。

 ですが、オーベルシュタインと言う男の生きざまと論理に従えば、私は、これは彼が自分の抹殺をはかっての事だったと結論します。

 その詳しい理由については次回の記事で述べたいと思います。

 

 

 

 

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