大人の保健室 ~未成年の方は保護者同伴で~ -4ページ目

大人の保健室 ~未成年の方は保護者同伴で~

基本 下ネタ

たまに政治とか時事とか。

脈絡も何も無い 落書きです。

「菅原伸吾さんの携帯電話で間違いありませんでしょうか?」


未登録の電話番号から掛かって来た電話の向こうからは

やはり聞いた事の無い女性の声。


不審に思う僕に、「ああ、又か」という耳慣れた言葉が掛けられる。

「○×病院ですが・・・。」


親父に違いない。 今度はどこの病院で、何の症状が出たんだろうか。

心配という様な表現とは程遠い、「やれやれ」という気持ちで

「ああ・・・。」

と、切羽詰った様子の見知らぬ女性に気の抜けた返事を返す。


病院から電話が掛かって来るのは既に僕の中では日常茶飯事。

週末にでも様子を見に行けばいいだろう。

病院なんだから放っておいても死にはしない。


仕事中だという事もあり、煩わしそうに電話に対応する僕に対し、

逆に女性の方が怪訝な態度となった。

恐らく彼女はこう思っている。 

「父親が病院に運ばれてるのに・・・。」

その感情は理解出来るし、嘘でもそういう態度をとるべきだとは思う。


しかし五人兄弟で三男の僕が何故か一手に親父の面倒をみているという

やり切れない怒りと、ひっきりなしに親父からかかって来る電話、

決して裕福ではない僕に対する金の無心などなど・・・。


あらゆる事情から親父という存在を疎ましく思っていた時期でもあり、

今の会社で本社配属を果たした直後の大事な時期でもあった事で、

「今すぐ病院に来て下さい。」と告げたその看護婦と思しき女性に

僕は「すみませんが、今は就業中なので後日伺います。」と返した。


非常に驚いた様子の女性は、「困ります」と食い下がった。

どことなく、ただごとで無い様な雰囲気を感じてはいたものの、

僕にとっては「いつもの事」であり、駆けつけたらぴんぴんしてる

親父の顔を見て溜息をつくという事態は容易に想像出来ていた。


「とにかく急いで来て下さい。」

半ば感情的にそう告げた女性の雰囲気が何となくこれまでの電話と

違って聞こえた為にふうと一つ深い溜息をつき、ゆっくりと席を立ち

しばし悩んだ後、「重い」会長室の扉をコンコンとノックした。



ワンマン経営を実践する我が社の会長は非常に人間を 選り好みし、


もしも彼に嫌われたらそこで 「アウト」。



即座に退職に追い込むという噂は嫌という程聞かされていたのに加え、

彼がいかなる理由であろうとも 「遅刻」 「早退」 「欠勤」 を嫌う

という事は良く知っていた為にその扉を開くのには勇気が必要だった。



本社配属一ヶ月余りの僕にとって、しょっちゅう倒れる親父の為に

早退を申し出る事は大変なリスクを伴うものであり 今後、

何度こんな事があるかも分からないのにという気持ちで一杯だった。


振り向いた会長は思いの外機嫌が良く、僕の言葉を黙って聞いた後

黙って一度だけ頷いた。「行って来い」という意味の様でほっとしたが

それでも、「今日だけでは済むまい」という気持ちから、

気持ちは晴れる事無く、どんよりとした空模様と同じ気持ちで

車を走らせ、「一応」急いで病院へと向かった。



「どうせ死にはしないのに・・・。」



56歳という年齢の割りに、重度の糖尿病の為ボロボロの体を

何度も目の当たりにしながらも僕の中では



「このおっさんは長生きする。」本気でそう思っていた。



自分の親が死ぬ・・・??



そんな事ぴんと来るはずも無いのに加えて、親父は本当に

毎週の様に自主的に「緊急」入院をしては、医者の制止を振り切って

2日程ベッドで寝ては家に帰るという何とも人騒がせなおっさんで

僕以外4人もいる 「親父の子供達」 は相手にすらしない。


33年連れ添った後にあっさりと離婚し、元の「他人」へと戻った

僕の母親など論外。 「解放された」と諸手を挙げて喜んでいた。


子供が親父に苦しめられようが知らぬ顔・・・。



そういう母親を見るにつけ、親父が不憫にもなり逆に母親を忌まわしく

思う僕の気持ちは自然と兄弟達と逆の方向に向かい、半ばやけくそな

気持ちで「ただ一人」親父の面倒をみる事になっていた。





「この後 仮に全て手術が上手く行ったとしても・・・




 お父さんとはもう二度と会話をする事は出来ないでしょう。」




夜中の12時過ぎ。 



駆けつてから8時間以上も経った病院は職員以外には僕しかおらず

コトリとも物音のしない廊下へ急いで向かおうとした僕の背中に

医師の言葉が突然突き刺さった。 「まだ帰るな」という事らしい。


たった今「手術は成功した」という言葉を吐いた この医者の

その口から出たとは思えない理解不能な言葉を僕の頭の中で

何とか整理しようとするも、その作業は不可能だった。


「今・・・大丈夫だと言ったじゃないですか。」


「いえ、大丈夫だとは言っていません。手術は・・・成功しました。」



そこまで聞いて、ようやく事態を半分程飲み込んだ僕の体中からは

大量の冷たい汗が流れ始める。


「そこまで・・・ひどいんですか?」



手術が終わったのだからもういいだろうと、

とにかく一刻も早く帰ろうとして廊下に向かった体は、もう一度医師に

向き直り、さすがに神妙な表情に自分がなっているという事を何故か

その時の僕は妙に客観的に、落ち着いて感じていた。


「心ここにあらず」



そんな言葉を冷静に思い浮かべている変な自分がそこに居た。



「こういう状態を言うのだろう・・・心ここにあらず・・・。」



医師の話を聞き半分以上は理解しながらも、呪文の様に心の中で

繰り返しそんな妙な言葉を呟くおかしな自分を

更に客観的に見て笑うおかしなもう一人の自分。 



そして更にそれをおかしいと思う自分・・・。 


「ココロココニアラズ・・・。」



脳は自然と現実逃避をする為に空虚な心の中に何か面白いものを

求めようと必死になっている様だった。







親父の話をします。



今日からまた 何回かに分けて、親父の紹介をしたいと思います。



笑いあり失笑あり (笑うばっかりか)



そんな日記になればとは思っていますが、

いきなり暗いスタートですみません。

死に様が余りに衝撃だったので、

ショッキングな書き出しにしたかったんです。



ま、今日はこの辺で。



自分の親父を切々と語るなんて


何か肛門を拡げて見せるあの時の様な感じで照れますが


まあ


たまにはいいでしょうか?



何話になるか分かりませんが、しばしお付き合い願えれば



幸いです。




思い出し憂鬱になりそうな 第8話