最後の一発。


今までのよりも大きくて、いっそうカラフルな花火が、


ドーン


と打ち上げられた。


『これをもちまして花火大会及びに夏祭りを終了とします。ごみ等をしっかり片付けてお


帰りください。』


最後の花火を以って終了した今年の花火大会。


全く悲しい事ながら、彼女との小洒落た夏祭りデートというわけには行かず、1年に一度


しか合わないという友達ともいえないようなヤツとの花火大会になってしまったわけだ


が、それもまたよしとしようか。


「終わっちゃいましたね。帰りますか」


「そうだな。じゃあまた来年?」


「そうですね。また来年。1年後にまた会いましょう友紀くん」


そういってあいつは背を向けて歩き出した。引き止めるなんて野暮なことはしない。


だがしかし、前言撤回のようだ。あいつはどうやら俺の名前を知っていたらしい。まぁそ


ういう俺もあいつのことは一つだけ知っている。名前じゃない、もっと大切なことかもし


れないし、そうじゃないかもしれない。


もっとも俺はそんなに気にしていないけれど。



あいつは〝人〟じゃない。



ヒュ~~~~~~ドーン。


花火が上がり始める。俺は一人でいつもの場所へと腰を下ろした。するとまもなく、


「お兄さん一人ですか?だったら僕と遊びません?」


「よぉ久しぶり」


「お久しぶりです。ノってくれたっていいじゃないですか」


「んーさっきも言われたし、面倒くさいから」


「なにげひどいですよね貴方」


なーんて言いながらも笑っているこいつ名前を俺は知らない。


向こうだってそうだ俺の名前をこいつは知らない。


こいつと会うのは一体何回目なんだろうか?


毎年、この夏祭りの花火大会のときだけ、たった一時間弱一緒にいるだけなのに、なんで


何年も続いているのか不思議に思う。


でも楽しいからそれでいい。それだけの話だ。


それに名前なんてなくても二人しかいないのだから困らないし、第一このとき以外、町な


どで出会わないのだからお互いの何を知っていようといなくてもなんら変わりはないだ。


「そういえば、どうでした?一年間」


「なんら変わりはないよ。たんたんと毎日を生きている感じ」


「そうですよね。自分とは関係のない世界でなんかあったーって騒いでもあんまし現実味


ないですもんね」


そりゃそうだ。だって隣の県で包丁で刺されて人が死んだとか、闇金が発見されたとか、


そんなような事件は何軒かあったが、実質俺たちの生活には全く関わっていない。しかし


そのような事件が身近であっても困るものなのだが。


「そういうお前はどうなんだよ?」


「僕ですか?僕も今までと何も変わらない1年でしたよ。それはもうこの夏祭りのよう


に、大体同じようなことばかりでしたね」


こいつも俺と同じような答え。要するにこの町はいい意味でも悪い意味でも何も変わらな


い1年が過ぎたということだ。


「いつも思いますが、ココの花火ってきれいですよね」


「否定はないけど、どうした?急に」


「いやね毎年思うんですよ、1年1年何かしら変わっていっている。でも貴方と見るこの


花火は変わっていない気がするんですよね」


気のせいだと思いますがって言いながらひっきりなしに打ち上がるカラフルなひかりを食


い入るように見つめていた。そうかもなって俺が同意してやったらビックリしたような顔


でこっちを向いてきた。でも俺は言ってやった。


「でも世の中変わらないものなんてないよ」って。そしたらこいつは、


「そうかもしれません。ただ僕は世の中に変わらないものが少しは在ってもいいと思いま


すけどね」って言ってきた。それに俺はそれもそうだなと呟いた。呟きが聞こえたのかこ


いつはふわりと笑ってしばしの沈黙。

夏休みも始まり、これから1ヶ月どう過ごすかと学生は思想をめぐらせる。

7月末日。


今日は、町を挙げての夏祭り。


いつもはあまり人のいない商店街も、この日だけはどこから人が沸いてきたのかというく


らい賑わいを見せる。


出店や、近所の学生、団体などの発表、フリーマーケットなどの沢山の催しものがある。


その中でも一番の目玉は、なんといっても河川敷での花火大会だろう。


この花火大会はいわく付きらしい。それに毎年見渡す限り人、人、人、だとか。


コレだけ人がいれば、不思議な出会いもあるわけで・・・。

   

時は夕暮れ、電気もつけていない薄暗い部屋に朱色の西日が差し込んでいる。


本を読んでいる俺にとって目に悪いことは重々承知だが、電気をつけるという動作が面倒


くさいわけで。


パン・・・パン、パンッ。


唐突に三段雷が鳴った。今日の祭りも佳境に差し掛かっているということだろう。あと


2.3時間もすれば花火の打ち上げが始まるなぁと思い。


「そろそろ時間か」


そう言って、今まで読んでいた本を置き立ち上がる。そして、携帯と財布だけを持ち、盛


り上がりが頂点に達しているだろうと思われる祭りに繰り出すことにした。


タイムリミットは、花火が上がるまで。


まぁ、といってもあと2.3時間はあるから夕飯


の調達がてら散策と行こうか。

やはり、祭りの中心部である商店街に来ると住宅街の比べ物にならに程の五月蝿さだっ


た。


日頃からこれほど賑やかならば町の行く末は心配ないんだろうなと勝手な感想を抱きなが


ら歩く。


たこ焼きか、焼きそばか、それともお好み焼きか、あぁ後で何食べようカキ氷?


わたあめ?などと違う方にも意識を飛ばしながら、迷いに迷った末俺が出した答えは、


「おじさん。たこ焼き一つ!」


結局は、折角外で食べるのだから家で作れないものにしようということでたこ焼きにし


た。


でもたこ焼き器さえあれば家でも作れるが、生憎家には無い。ただそれだけの理由。


しかし、優柔不断な俺にとって祭りの出店はある意味地獄だ。


だっていろんな種類のものが所狭しと並んでいるんだから。


「まいどっ、はいたこ焼き一つ。あれ?兄ちゃん一人?カッコいいのにもったいない!」


「ありがとうございます。俺カッコよくないですよ?それにこの後予約入っていますし」


「おっそうかい彼女?」


「まさか友達ですよ友達」


「あらぁ~残念じゃあその友達にもたこ焼き買うならココが良いよって言っておいて?」


「友達で悪かったですね。分かりました。言っておきますよ。ありがとうございました」


まぁしかしながらこれから会うやつを『友達』と呼べるかどうかはよくわからないところ


だが、そのことについてはまだ触れないでおこう。