霊園で墓守をしている青年・日置凪が「うるうの朝顔」の種を出会った人達に渡していく。連作短編集。

 

 

「うるう」は『大きなズレを正すために作られた余り物』ということ。


うるうの朝顔を咲かせた人は過去を追体験する事になるが、追体験中のどこかで1秒間の「うるう秒」が「挿入」される。(稀に1秒間の「削除」があることも)

 

凪から、うるうの朝顔の種をもらった人達が、それぞれ朝顔を咲かせ、追体験していく様が描かれていて。

 

ただの1秒と思いがちだけど、その1秒が実はとても大きいものだと感じさせられる。

 

人の記憶している事は必ずしも事実そのものではなく、自分の心に強く残っている事柄だなと思えた。

 

最後の章は凪が主人公で、それまでの章の伏線を回収していく構成が見事だなと思った。

 

「ズレ」は、人の失敗や後悔といったものを全てひっくり返してくれるものではなく。

 

うるうの朝顔は

「ズレ」に気が付く。「ズレ」を受け入れる。「ズレ」と向き合う。

自分の感情に向き合って、目の前のことに目を向ける。周囲との関係を顧みて、自分を客観視する。

その準備をする為のものであると。

 

たとえ「ズレ」が生じてしまっても、それでも顔を上げて生きる。日々は、そんな一秒の集合体

が印象的だった。

 

ファンタジーだけど考えさせられる事も多く、興味深い物語だったニコニコ

 

 

~心に残った言葉~

 

「いい悪いなんて本当はない。『私にとっていい』とか『僕にとって悪い』ならあるかもね」

 

「確実にいるのは、いい人と悪い人ではなくて、被害者と加害者。確実にあるのは、善意と悪意。悪意はそこら中にある。善意がそこら中にあるのと同じように。ひとりの人間の中でも、全部が混ざってる」

 

「やさしい人ほど言葉は遠回りをして、嵩張(かさば)っていく気がする」

 

「俺さ、居場所って要するに人のことじゃないかって思うことがあるんだよ。実はみんな他人の中に居場所を持ってんじゃないかって」

そうかもしれない。だから、誰かの居場所を奪うのもいつも人なんだ。自分の中だけに居場所があれば、きっとみんなもっと幸せに生きていける。

 

ひとりでいるのと、ひとりでいるしかないのは違う。