『エレベーター』第1話





以前、仕事場から歩いて10分程の所にあるマンションに住んでいました。


そのマンションは、1階と2階が6部屋で、3階から14階までが4部屋の
細長い14階建てのマンションでした。


山手通りという車の通りの多い幹線道路に面しておりますが、
マンションの裏側は住宅地ということもあり、夜はとても静かな所でした。


私の住んでいた部屋はそのマンションの9階です。


ワンルームマンションですがトイレとお風呂が別ということと、十分な広さがあり、
何よりも高層階なのに安いという所に惹かれて決めました。


通常、高層マンションは上にいけばいく程家賃が高くなるはずですが、
そのマンションは、9階以上が8階以下よりも安いという
ちょっと変わったところがありました。

入居前に不動産屋さんに訪ねたところ、マンションの裏手100m位のところに
小さなお墓がありまして、8階までは隣のマンションに遮られて見えないのですが、
9階から上の階は見通しがよくお墓がよく見えるから、若干安いということでした。


私自身、特に霊感が強いとか霊に対しての怖さもまったくと言っていい程無いので、
悩むこと無く即決しました。





そのマンションは、エレベーターを降りると外が見渡せる開放された廊下があって、
エレベーターに並んで、右側にそれぞれの部屋の玄関があるという造りになっています。











お墓が近くにあるということなど忘れて住み始め、半年位たったある日の朝。




それほど大きなマンションではないのでエレベーターが1台しかなく、
その日も1階に止まっているエレベーターを呼ぶ為にボタンを押して
しばらく待っていました。

すると後ろに気配を感じ振り向くと、20代前半の若い女性が立っていました。
9階は1フロアに4部屋と少ないので、今まで一度も隣人に会ったことが無かったから、
びっくりして思わず朝なのに「こんにちは」と間の悪い挨拶をしてしまいました。

しかし女性は、表情も変えず挨拶も返してくれずこちらをずっと見ていました。
何か自分が悪いことをしたような気持ちになり、
上がってくるエレベーターを待つ為、前に向き直ろうとしたその時、
女性が立っている後方に、以前聞いて忘れていたお墓が見えました。
見えたというより、女性の後方に急に浮かび上がってきたように感じました。
女性の後方にあるいろいろな景色の中で、お墓だけがくっきりと。


半年位も忘れていて、今まで気付いて見えていたにもかかわらず、
特に気にも止めていなかったお墓が目に入ってきました。


恐怖体験などしたこともなく、霊なども見たことがなかったので、
そのような存在は一切信じてない私だったのですが、
急に怖くなり、ちょうど来たエレベーターに急いで乗り込み前を向くと、
先程まで後ろに立っていた女性は、すーっと部屋の方に戻っていきました。


エレベーターのドアが閉まり、1階のボタンを押して下降している間、
今のは何だったんだろうと考えてみましたが、霊の存在を一切信じていない私は、
またお墓の存在も忘れ、忘れ物をしたことに気付いた女性は、慌てて部屋に戻ったのだと
ごく自然な解釈をして、その日は仕事に向かいました。




つづく・・・