テレビではダイジェストでしか流れないが、
その旋律は、クラッシックにあまり興味がなくても感動を覚える。
辻井伸行さん。弱冠20歳。
世界3大コンクールといわれる、「バン・クライバーン国際ピアノコンクール」において、
見事優勝の栄冠を得た。
これまでも「音楽家」として世界から認められていた彼が、
日本人と初めて決勝の6人に残り、そして優勝を飾り、
名実ともに世界の頂点に立ったのである。
彼は生まれながらにして「全盲」である。
母親が口ずさむ「ジングルベル」の声を聞いて、
おもちゃのピアノでその音を力強く弾いてみせた。
彼に光を感じる力はなかったが、
心で感じる音を表現する、類稀な力が備わっていた。
「金メダルを誰に最初に見せたいですか?」
「日本で留守番をしている父に見せたいです」
その父親である、医師の孝さんは、息子の快挙の後にこう言っていた。
「一度、家内の顔を見たいって言ったんです。
その後にまた見えなくなってもいいから、一度だけ家内の顔を見たいと・・。
その時はかわいそうだなって思いました・・。」
そう言って、孝さんは涙をぬぐっていた。
目が見えないというハンディを背負って生きてきたご家族の思いは、
健常者に囲まれて生きているわれわれには想像がつかないだろう。
それでも息子の一筋の可能性を信じてピアノを与えたご両親の思いが、
伸行さんの優勝に結びついたと思う。
息子は「両親に一番感謝したい」といった。
母は「私たちの子供に生まれてくれてありがとう」といった。
素敵な家族の絆である。
こんな普通の幸せを感じられることに、また感謝したい。
これから忙しい日々が待っている。
伸行さんはそれを楽しみにしているようだ。
体に気をつけて、世界中を魅了してほしいものだ。
ひとつのことに打ち込む努力は誰もができること。
しかしそれを継続していくことが難しい。
「確かな一歩の積み重ねでしか遠くへは進めない」
イチローの言葉だが、こうして生きていくことが一番大切なのだと教えられた優勝だった・・。