~その⑧からの続き~
※今回は尾篭な内容が含まれていますので、飲食中の方はご注意下さい。
免疫グロブリン製剤の点滴を始めてから4日目、その日の分の点滴が終わり、夕方になった頃から身体が少し楽になってきた。だるさと、痺れや手足の動きの悪さは相変わらずだが、熱っぽさがなくなり、意識がハッキリしてきた。
そこで、俄かに催したのが便意だった。気がつけば、入院してから丸5日以上も便秘状態になっていたのだ。なぜ、こんな話をするのかと思うなかれ。手足の自由の利かない患者にとって、トイレというのは、大変な作業なのだ。自力では立てないほど脚にダメージを受け、腕は思うように上がらず、握力は左右とも10kg程度まで落ち込んでいる状態。病室外のトイレには、どうあがいても行けず、小用は尿瓶で足せるが、大きい方はベッドの脇に据えられた、大人用の簡易トイレ(赤ちゃん用のおまるの大きいやつ)で行なわなければならない。しかも、ベッドからの移動は、男性看護師が、ベッドに腰掛けた状態の僕の身体を正面から抱え上げ、簡易トイレの便座に座らせるしかないのだ。それから、カーテンを引き、誰からも見えないスペースで、ズボンとパンツをずらし、用を足し、看護師から預かったトイレットペーパーで後始末をする。しかし、尻を持ち上げるのも、手を使うのも、ギランバレー症候群の症状が進んで、動かず、力が入らず、おまけに痺れまであるものだから、どうにもままならない。しかも、4人部屋の病室中に異臭が漂い、事前に他の3人の患者には謝ってはいるのだが、なんとも肩身の狭い、気まずい状況に陥ってしまう。事が済めば、今度は何とかズボンをずり上げ、手元まで持ってきておいたナースコールのボタンを押して、再び看護師に来てもらい、ベッドまで戻してもらう。最後に汚物の処理をしてもらって、ようやく終了。この間、なんと30分近くも要してしまうのだ。病気だから仕方がないと言えばそれまでだが、トイレ1回が大イベントになってしまう現状に、恥ずかしく、情けない気持ちになってしまった。実は、この先1週間程度、この状況が続くことになるのだった。
この翌日に、免疫グロブリン製剤の点滴が終わり、その次の日(発症から10日目、入院から8日目に)に起床すると、両腕の動きが僅かながら改善し、利き腕の右手の握力が(その日のリハビリの時に測ると)25キロ程度まで戻り、ペットボトルを自力で開けられるようになった。ギランバレー症候群は、症状の進行が止まってから回復に向かうことは把握していたので、前日は休日だった主治医のM先生が回診に来ると、毎日している質問をぶつけてみた。
M先生、「おはようございます、調子はどうですか?」
僕、「ぼーっとした感覚は、日に日に無くなって、ハッキリしてきました。腕が少し動くようになって、握力が戻ってきて、ペットボトルが開けられるようになりました。でも、脚は全くダメですね」
M先生、「一昨日から、トイレを使われているんですよね」
僕、「はい、看護師さん達や、他の患者さん皆に迷惑をかけてしまい、情けないです」
M先生、「気にすることは無いですよ。それに、ほんの少しの期間の辛抱ですからね」
僕、「先生、気分がスッキリしてきて、握力が戻って来たということは、今度こそ、症状の進行のピークを超えたんじゃないですか?」
M先生、「うーん……、絶対とは言い切れませんが、そう見てもいいでしょう」
僕、「本当ですか?(頷くM先生)ありがとうございます」
実は、この時点では、転院先のリハビリ専門病院での5ヶ月間を含めて、7ヶ月に及ぶ入院期間の最初の1週間が終わったに過ぎず、この先一度は絶望の淵まで追い込まれることにもなる。しかし、この時の僕は、「後は回復するだけだ。絶対に完治して、歩いてこの病院から退院して見せる」と考えていた。
ところが、免疫グロブリン製剤の点滴が終わった後に行った、血液検査(採血)について、M先生が思いもよらない結果を告げたのだ。
M先生、「○○さん(僕のこと)、実は、白血球の数がかなり減っているんですよ。それで、今のところ理由が分からないので、原因を突き止める為に、骨髄穿刺の検査をしなければならないんです」
僕、「えっ!あの、白血病の人なんかがやる検査ですか?僕に、その疑いがあるんですか。それに、この前やった腰椎穿刺と違って、ものすごく痛いんですよねぇ」
M先生、「痛みは、個人差がありますし、昔と比べてそれほどではないですがねぇ。とにかく、やらなければなりませんね」
僕、「そうですか、分かりました」
M先生、「では、準備ができたら行ないますので、このまま待っていてください」
一難去ってまた一難。症状の進行が止まって、これからリハビリをがんばろうと、気合が入っていたのに、出端をくじかれた気分だった。このブログを書くに当たり、ネットで調べたところ、僕に投与されたのと同じタイプだと思われる免疫グロブリン製剤の詳細を説明するサイト(リンク先、副作用の5項目参照)には、副作用として、白血球の減少が認められたとの臨床結果が記載されている。ということは、この時、副作用以外の病気が疑われる、何らかの所見があったということなのだろう。そんなことは全く知らない僕は、例の通り、誓約書(同意書)にサインして、しばらく待っていると、前回、腰椎穿刺の検査を行った時と同じ先生が看護師を伴って病室に現れた。指示されるままにうつ伏せになり、今度ばかりは、かなりの激痛を覚悟しなければならないと考えていた。
以下、その⑩へ続く
では、また。