今回レビューするのは

WEEZER『VAN WEEZER』(2021)






2019年に『Weezer(Black Album)』を発売、『Weezer(Teal Album)』をサプライズリリースして世間のWEEZER熱が高まってる中で、すぐに「The End of the Game」を先行配信するという脅威のリリーススピードでファンを驚かせたWEEZER



その曲がもろVAN HALEN。アルバムの名前も「VAN WEEZER」。『Weezer(Teal Album)』において、往年の名曲たちをドストレートにカバーしたのにも関わらず、なぜかWEEZERの曲に聴こえてしまうマジックを披露したばっかだったために、「これはもしやVAN HALENの『1984』をまるっきりオマージュするのでは…?」とネットはザワついたわけである。
そして2020年にGreen DayとFall Out Boyとの3バンツアーを発表。「The End of the Game」の最高のイントロから始まってスタジアムが大揺れするのを想像しては、待ち遠しくなっていた(日本への来日は発表されていなかったので、正確には妄想で止まっていたが)矢先である。


2020年のコロナショックで『VAN WEEZER』の発売は1年延期、ツアーも延期が発表された。


これだけの過去最高レベルと言ってもいいリリース間隔を考えれば、クオモの頭の中に湧き出てくる曲たちが急に行き場を失ったことは容易に想像出来る。


そして



2020年10月6日



Edward Van Halenがこの世を去った。




まさに伝説だった。Van Halenというバンドが、Edward Van Halenという男が、ロックに遺したものはあまりにも偉大だった。



発売を1年延期せざるを得ない状況になったことで、このアルバムに"Van Halenの追悼"という意味を、少なくともリスナーは持たざるを得なくなってしまったのである。


そんな中で2021年に発売された今作…



と思いきやまさかの別のアルバムをサプライズリリース!!!!!


『OK HUMAN』

今度はRadioheadのオマージュ!
しかもギター一切なし!!!!!





は!?!?!?


パワーポップを築き上げたWEEZER


まさしくSlashとは別の角度で "泣き虫ロック" "泣けるギター" を鳴らし続けたバンドがギターを手放したのである。


そしてファンは気づいたのである。


「WEEZERはギターがなくても泣ける」


思えば「Weezer(Teal Album)」で"WEEZERらしさ"の凄さに気づいていたはずなのに、このアルバムによって彼らがどんな手法を使ってもWEEZERを成し得ることを改めて痛感してしまったのである。



と同時に


次の『VAN WEEZER』でのギターで、あまりの落差にファンはどれだけ興奮すればいいんだ
と心配になるレベルのハードルの上がり方をしてしまったのである。




そして満を持して発売された今作




WEEZERとメタルはあまり合わないのではないか…とも少し考えるが、リヴァース・クオモ(Vo.)は大のKISSファン、ブライアン・ベル(Gt.)はBlack Sabbathのファン、パトリック・ウィルソン(Dr.)はVan Halenの大ファン、スコット・シュライナー(Ba.)はMETALLICAの大ファン…という源流を考えれば別に不思議なことではない。
ただ、今までのWEEZERにメタルが繁栄されてこなかったというそれだけの話である。




それを踏まえて今作を聴く。


あえてジャンルで分けるとすれば…本作は全くメタルじゃない。むしろWEEZERお得意のパワーポップ、ハードロックなのである。


でも箇所箇所を見れば、速弾き、ヘヴィなリフ、メタル的要素が多く見られる。


「The End of the Game」はまさしくVan Halenの「Eruption」だし、「Blue Dream」はイントロはOzzy Osbourneの「Crazy Train」のまんま
「1 More Hit」は途中でMETALLICA的スラッシュメタルが展開される
メタル好きからすればもはや笑いが止まらないレベルのオマージュの数々である。



なのに



なのにだ



こんなにもオマージュが豊富なのにアルバム全体ではメタルにならない



なぜこんなにも遊び心満載で、楽しそうに演奏するWEEZERが思い浮かぶアルバムなのに…


なぜ私はこんなにまた泣いているのか…。




そうか




WEEZERはメタルバンドになれなかったんだ。




青春時代に浴びるほど聴いたであろうメタルの名曲の数々をおそらくメンバーは必死に練習しただろう。でも、イケてない俺らがメタルを弾いてもOzzyみたいに、Van Halenみたいにかっこよくなれない。



そんな葛藤から生まれたのが
"泣き虫ロック"
だったのではないだろうか。



憧れに手が届かない絶望をパワーポップという新たな音楽に落とし込む
何も上手くいかない現実に対する絶望に対して、ロックファンはWEEZERを重ねて熱狂したのだ



10年、20年経って、みんな歳をとり現実を受け入れたのに


WEEZERはまだあの頃の青春をロックンロールしてみんなは熱狂する



そして30年経った今回
WEEZERはあの頃憧れたメタルを自分たちなりの解釈でWEEZERなりに昇華した



「Weezer(Teal Album)」でのBlack Sabbathの「Paranoid」のカバーを最初聴いた時は、ただのカバーだと思っていたけど、今作を聴いてから改めてこのカバーを聴き、サマソニでの演奏を思い出すとそんなものじゃなかった



あの頃憧れたけどなれなかった大人に、この歳になってもWEEZERはなろうとしている


こっちを感動させようなんて気持ちは多分1mmもない


メタルバンドにはなれなかったけど、WEEZERはメタルで育ってこんなにかっこよくなれたんだぜ!Van Halen聴いてくれよ!Ozzy聴いてくれよ!俺らあんたらに憧れてこんなにかっこよくなれたんだぜ!とクオモは子供のように純粋な気持ちで披露したかっただけかもしれない。



そんな純粋さがアルバムを通して伝わってくるから、全くメタルじゃないのに、青春時代のメタルへの憧れをこちらが受け取れる。
「Blue Dream」のイントロで「Crazy Train」のイントロを引用しても全く不快にならない。




このアルバムはパロディーやオマージュを超えた"愛情"であり"偏愛"なのだ。


誇張して言うなれば

メタルバンドになれなかった少年時代のWEEZERのメンバーへの、おじさんになったWEEZERからのアンサーであり応援歌であり、ラブソングなのだ。


だからこんなにも遊び心に溢れた曲たちを愛おしく思う。美しく思う。綺麗な涙を流せる。


どんなメタルバンドにもこのメタルへの愛情はマネできないから死ぬほどかっこよくて胸がアツくなる。





こんな風に思えるのも、Ozzy Osbourneなり、KISSなり、IRON MAIDENなり、METALLICAなり、王道のメタルの伝説たちが第一線で戦い続けてるからなのだろう。こんなヘンテコなアプローチのメタルでも、かっこいいって堂々と言えるのかもしれない。



確かにVan Halenは死んでしまった。



でもまだたくさんの伝説が生きている。








Ozzy、あんたはまだ死ぬなよ。