今回ディスクレビューするのは

MOROHA『MOROHA IV』





2019年11月8日、私はZepp Diversityにいた。本作のリリースツアーのファイナルをこの目で見届ける、いやこの体で見届けるためである。


MCであるアフロがマイクを口に近づけ第一声を放った瞬間、こちらは呼吸音さえ許されないほどの緊張が走る。



"バカにされるのは 惨めな思いをするのは
俺たちが弱いから悪いんだ"
(#1 ストロンガー)



こんなことをいうのはあれだがMOROHAのLIVEはマキシマム ザ ホルモンやSiMなんかのモッシュダイブ歓迎の現場なんかよりよっぽど危険である。


MOROHAと向き合わない瞬間が1秒でもあればこっちの負け。まるでそんな緊張感。


今回のLIVEでもその緊張感があまりにも重すぎたからか、どなたかが倒れてしまった鈍い音がした。
倒れた方は何も悪くないし、ましてや負け組などではない。しかし、世の中に出るとそんな虚しい音に気付かず気づいても"負け組"と一括りにされることがある。


MOROHAの音楽は何も肯定してくれない。心の奥底にある理性を破壊しにくる。わずかな希望さえもついばむ。


でも、ステージの上の2人は死ぬほどかっこいい。だって私には少なくともそんなことは出来ない。夢も追いかけるし死ぬほど真剣に生きてる。彼女は欲しいが別に貧乏でもないし、童貞でもないし、地方出身じゃないし、失恋で死にそうにもなってないし、幸せなんていくらでもある。


ただ、本当に幸せかなんて私は分からないし、他人に「幸せ」を定義されるのはもっと嫌だ。普通に生きてて自分の魂に「幸せか?俺」なんて問いかけられない。「幸せじゃないよ」って答えが返ってきたら多分怖いからだ。


それなのにズルい。MOROHAはギターとリリックで己の魂にだけじゃなくて、僕らの魂にも問いかけてくるのだ。


ステージ上で目に見えて命を削る姿をまざまざと見せつけて、僕らの分の魂にまで彼らは問いかけてくる。ズルいじゃないか。彼らは「拍手なんかしてもらうよな存在じゃない」と言っていた。


ズルいじゃないか。僕らは2人に拍手をするしか恩を返す手段がないじゃないか。惨めじゃないか。こんなことしか出来ない自分が惨めなことを自覚させるだけじゃないか。


でももっと言えば、上京してもない、貧乏でもない、失恋してもない、童貞でもない。それなのに、MOROHAのリリックとギターの全てが心の奥底に刺さっている自分もズルい。



"「良かった 本当に良かった 故郷を捨ててあの街を捨てて しがみつく手を振り切ってよかった」
言えるようにならなくちゃ"
(#3 遠郷タワー)


"守るってなんだ? 食わしてくって事か?
生きるってなんだ? 息してるって事か?
それもそうでも それだけじゃないな
金さえあれば どうだった?
本当のとこは分からない"
(#4 米)


"いつか河原で拾ったエロ本みたいに
剥き出しの裸の日々を生きるんだ
そうだろ?
なぁあんたは一体いつまでも勇気の童貞を守ってるつもりだ"
(#6 スタミナ太郎)


開始から2時間。汗まみれのアフロと今にも指から血が出そうなUK。『五文銭』を告げるUKのギターイントロが鳴り響いた。



"いつの時代も
選ばれなかった人間は
自ら選びとるしかないんだ"

"声なんて揃えてなんてうたわれてたまるか
誰とも揃わねぇ 俺だけのうただ"

"「売れてる音楽なんか全部クソだ」
いや、そんなのは嘘だ
嘘にできるんだ"
(#10 五文銭)






魂を解放して叫びまくったアフロを観て大粒の涙がこぼれた。我慢していたのに。
やっぱり俺はズルい。あれだけ魂剥き出しで僕たちと戦ってくれてるのに、それなのに泣いてしまったのだ。


ズルい。ダサい。みっともない。感動しにきてなんかいない。MOROHAと己の魂を対峙させるためにここにいるはずなのに…。




Zepp Diversityを出る。涼しい秋風が少し濡れた頬を冷やす。あの会場では最強だったMOROHAの音楽も1歩外に出ればかき消されてしまう。


音楽シーンでみれば、頂点に立っていないという意味ではMOROHAはまだまだ"負け組"だと思う。


でもいい。このアルバムを聴いてまたあの奇跡みたいな瞬間を思い出して自分を奮い立たせる。そしてまたあの2人に戦いに行く。次LIVEに行く時は前の自分よりも強くなろう。MOROHAとそう向き合うと決めた。




『MOROHA IV』
現状のMOROHAを表すのにぴったりな最強のアルバムだと思う。このアルバムならいまの音楽シーンでもMOROHAが一矢報いることが出来るかもしれない。


諸刃の剣がもしかしたらピッカピカの剣に勝つ。勝った瞬間にはMOROHAの音楽がこのうるさい世の中に響き渡る。


もしかしたら、そんな瞬間を「幸せ」と感じるかもしれない。

そのくらいの夢は僕にも持たせて欲しい。



戦友として。