いまの日本に感じた危うさと希望
──年齢を重ねて見えたもの、そして手放したくないもの
この一年、社会の動きや制度の変化を追ってきました。幸いにYahoo!ニュースなどのメディアにも掲載の機会をいただき、多くの議論にも触れました。
後期高齢者となった今、年長者の特権として率直に申し上げたいことがあります。
見えてきた課題は、実は一つの根っこに集約されると思われます。
何を守るのか。何を求めるのか。
そして、その目的に適した「手段」を選べているのか。
情報を集め、選択肢を検討し、ルールに従って意思決定する、という当たり前を守ることです。
政策の決定でも、経営判断でも、実務の現場対応でも、ここが揺らいでいると感じます。
■マイナ保険証 ― 誤解が社会を誤らせる
厚生労働省・デジタル庁のPRやそれを受けたマスメディア、SNSでは「便利になる」「医療が良くなる」「保険証は使えない」といった誤解が拡散されました。
実際は、次のとおりです。医療従事者や健康保険関係者ならば周知のことでしょう。
「マイナ保険証でデータに基づくより良い医療が受けられる」⇒マイナポータルの情報には遅延・限界があり、この情報のみに依存したら薬の飲み合わせ事故すら生じかねません。→ お薬手帳併用が必須です。
「手続きなしで高額療養費の限度額を超える支払いが免除される」 → 健康保険証や資格確認書でも一言申告するだけで同様の対応が行われます。
保険証は失効するわけではなく、当面利用可能とされました。資格確認書の発行拡大と合わせ、保険証廃止は事実上頓挫しているのです。
「健康保険証はなりすまし受診の温床」→ 根拠薄弱なガセネタです。健康保険証廃止を正当化するための後付けの理屈とさえ思われます。むしろ、マイナンバーカードと4桁暗証番号でなりすましは簡単にできます。マイナ保険証はなりすまし防止にはならないのです。
市民の健康を守るため何をすべきか、を忘れ、マイナンバーカード普及が自己目的化され、そのため健康保険証を廃止する、という倒錯した道筋をたどってきたのです。
■内部通報制度(公益通報者保護法)
制度は強化されましたが、依然として“勇気ある個人の犠牲”に依存しています。
内部通報制度は、勇気ある通報者が身の危険を顧みずに通報してくるのを、経営者が口を開けて待っている、という仕組みであり、最後の命綱にすぎません。
経営者・管理者なら、自ら兆候を察知する仕組みを構築すべきです。
通報を待つ経営 → 兆候をつかみに行く経営へ
例えば、従業員アンケート/現場訪問/内部検査など複数の目と耳で、日常の業務の中で不正・不祥事の兆候を察知して対応する仕組みを構築すべきです。
■こども関連業務従事者の性犯罪歴等確認の仕組み(日本版DBS(Disclosure and Barring Service))
日本版DBSは「手続き論」が先行し、守るべき子どもの安全が後景に退いているように思われます。
「職業選択の自由」という言葉に振り回されて、制度の目的を見失っているのです。
それを言うなら、経営者・事業者には採用の自由があります。採用時に問題行動のないこと、今後もしないことを誓約させればよいのです。後日問題行動が発覚すれば、重大な経歴詐称として解雇も可能になるでしょう。
このような誓約書の活用は審議会でも取り上げられ、有効な方法と位置付けられています。
マスコミでは、DBSの仕組みの解説だけが取り上げられ、誓約書活用という実務の重要な知恵が無視されています。
その根底にあるのは、子どもを守るという一番大切な目的が失われているように思われます。
仕組みを作るなら、「誰を守るのか」を曖昧にしないことです。
制度より目的。あなたはどう感じますか。
■「働いて 働いて・・」
働き方改革の労働時間規制は「国家として死ぬような働き方は許さない」という政策です。「柔軟な働き方」は死ぬような働き方を許すものであってはなりません。軽々しく「裁量労働制の適用拡大」等に進むべきではないと思います。
低賃金・長時間労働者を前提にした粗雑な経営こそがこの国の生産性向上を妨げてきたように思われます。事業者への厳しい規制こそがイノベーションを生むもとになるでしょう。
■選択的夫婦別姓という問い
家族の絆は、姓が異なれば壊れるほど弱いのでしょうか。
姓は統一か別姓か──家庭が選べる余地があってよい。国家が強制する問題ではないでしょう。
兄弟姉妹の姓が違うのは子供がかわいそう、という議論も、一つの価値判断であり、人に強制する問題ではないでしょう。たとえば、「子どもが二人生まれたら、一人はお母様のご実家の姓を継いでほしい」という夫婦の願いは、国家が禁止すべきおぞましいことなのでしょうか。
少子化対策としても、選択肢を閉ざす理由は乏しいでしょう。
一度立ち止まり考えるべき問いだと思います。
■その他現場で起きていること
カスハラ対応は「現場任せ」では限界 → 初動対応の基準を作り警察を含む外部連携の仕組みを構築しておくことです。従業員を守るのは経営者・管理者の責務です。
不正・不祥事対策は“制度より気風” → 疑問を素直に口に出せる職場づくりを根本に据えるべきです。
熱中症対策は“命を守る即時対応” →いざというときの報告体制と指揮系統の明確化です。
制度や罰則を語るだけでは前に進みません。
いま必要なのは、現場が躊躇せずに動ける仕組みです。
■社会と技術の転換点:生成AI
生成AIは、もはや専門家だけの領域ではありません。
知識の壁が下がり、誰でも調べ・整え・検証できる時代になったのです。
誤情報に対抗する力にもなります。
“まず勉強してから”では追いつかないスピードで生成AIは進んでいます。一度使ってみることを強くお勧めします。;
適切に使えば、市民の判断力を支える道具になります。
恐れるより、理解して備える段階に来ています。
■結びに代えて
法律でも制度、あるいは実務の対応でも、立ち返りたい原点があります。
何を守るのか。誰のためなのか。
手段は目的に沿っているのか。
ここを押さえて、冷静に考えていけば、日本社会はきっと輝きを取り戻すでしょう。
年長者の務めとして、今後も諦めずに語り続けたいと考えております。
2025年12月31日:Facebookストリーミングでも公開しました。