君といる時くらいは -若き女性社長- | Resistance to Despair

Resistance to Despair

絶望への抵抗

<注意>

この物語はフィクションです。

実在の人物・団体・企業とは一切関係ありません。

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「確かに、社長のサポート的なことも

一部は引き受けておりますが、

商品管理や開発に携わるほうが

今はメインですので…」

 

咲夜の話によれば、昨年の夏に病気で倒れた

先代社長である母の業務を現在引き継いでいるのが

紅野(コウノ)レミリアという

英国出身の父との間に生まれたハーフの女性で、

歳は悟士と3つしか変わらないそうだが、

社長令嬢としてのカリスマ性は

咲夜の入社前から社内で一目置かれる

存在であったという。

 

「私にとってもこれだけ尊敬する

女性上司に出会ったのは初めてでした」

 

悟士にはここまで聞いて

断る理由は思いつかなかった。

 

「咲夜さんがそこまで言うなら、

ご対面の機会を設けていただこうかな。

オレなら、来週はいつでも大丈夫だから…」

 

「ありがとうございます。

では、面接の日時が決まったら

追ってまた連絡しますね」

 

咲夜は表情をより明るくさせながら答えた。

 

 

 

数日後、先方が指定した木曜日の11時に

悟士は紅摩館本社があるビルに向かった。

前回訪れた紅摩市の店舗とは

徒歩で5分程度の距離であり、

3階建てのビルのうち、紅魔館が入っているのは

1階と2階の半分だった。

 

到着し、咲夜に案内されたのは

リフレッシュルームと呼ばれる

20畳ほどの部屋で、

現れたのは槐色のスーツを着た

見た目的には自分と同世代と思えるような

小柄で華奢な女性だった。

 

 

「社長、黒田さんをお連れしました」

「初めまして、黒田悟士です」

 

「紅摩館の紅野レミリアです。

話は咲夜…いえ、月本から伺っております。

どうぞおかけ下さい」

 

レミリアと悟士は側にある椅子に

それぞれ腰を降ろし、

咲夜は部屋を離れ、階下へと降りて行った。

 

「本日はお忙しい中、

ようこそおいで下さいました」

 

「いえ、こちらこそ貴重なお時間をいただき、

ありがとうございます」

 

悟士は先日咲夜と話したことも交えながら、

志望動機とこれまでの自分の簡略的な職務経歴を

書類を見せた上で説明した。

 

「ずいぶんと頑張ったんですね。

現場での専門的な知識や技術を習得し、

新人や若手への教育・指導もしながら

営業も行っていたとなると、

精神的にも体力的にもさぞハードだったのでは…」

 

「そうですね。

BCホールディングスに吸収合併される前は

人出不足ということもあって、

独身でプライベートでは

コレといった目標を持たなかった

自分は便利屋のごとく色々任されましたね
 

咲夜の前職の元先輩ということも手伝ってか、

レミリアもかなりの関心を示している様子である。

 

「念のため、一応伺っておきます。

ウチは女子のほうが多い職場だけど、

それに関して何か抵抗はあるかしら?」

 

「いいえ、大丈夫です。

仕事の上ではジェンダー関係なく、

平等に接することが

私のモットーの一つでもあります」

 

「あと、かくいう私も正式に社長に着任してから

まだ1年にも満たない“新米”です。

よって、自分では気を付けているつもりでも

時にはキツいことを言ったり

頼んだりしてしまうかもしれない。

それでもついてきてもらえますか?

もちろん、間にフォローやクッション役は

きちんと置くようにするけど」

 

「はい、それならこちらも安心して働けます。

偶然とはいえ、せっかく月本さんに

御社を紹介していただいたわけですし、

もしご縁があって採用となったあかつきには

一日でも早く主力となれるよう

できるだけ幅広く業務と知識を

吸収していくつもりですので、

どうぞよろしくお願い致します」

 

悟士は大きく納得していた。

 

前職のA社でここまで謙虚かつ

相手へ事前に気を配れる上長は

お目にかかったことがないし、

給与・各種手当等、条件面において

書類とレミリアの説明を聞いた限りでは、

将来を見据えた先に

A社とは比較にならないほどの好待遇に思えた。

 

 

 

翌日、幸運にも採用通知の

連絡メールが来たばかりか、

週明けの月曜日から出社を要請された。

 

A社を退職後、大苦戦を強いられた

これまでの転職活動を思えば、

妙にあっさりと

受け入れてもらえた気がしたのと同時に、

「せっかくこんな自分を拾ってくれた会社だから、

今度は絶対にしくじらないぞ」と

悟士は覚悟を固めるのであった。

 

〜<戻った忙しさ>に続く〜