人は生活(ライフ)をしていくなかで、様々な足跡を電子記録(ログ)に残す。
「ライフログ」である。
銀行の出入金記録や鉄道の乗降履歴もそうだ。
見るに忍びぬライフログもある。
今月一日、母親(28)にゴルフ練習用具で殴られ亡くなった…略…は、生後すぐ乳児院に預けられた。
以来、親元と児童相談所を行ったり来たりの成育歴は「虐待史」と言っていい。
芥川龍之介の短編「河童」に、夫が出産間近の妻のおなかに声をかける場面がある。
「お前はこの世界へ生まれて来るかどうか、よく考えた上で返事をしろ。」
子供はこう答える。
「僕は生まれたくはありません。」
神奈川県でも、2児が母親の手にかかって亡くなった。
子に「生まれてよかった」と言わせる人の世にせねばなるまい。
…略…は亡くなる2日前、運動会で放送係を担当していた。
友達に囲まれ、秋晴れのような笑顔を浮かべていた姿が目撃されている。
悲しいだけの人生ではなかったと、少女のライフログに加えたい。
行政で、学校で、社会全体で、命を救えなかった無念と反省も込めて。
読売新聞 平成24年10月10日付朝刊『編集手帳』より