何度かブログでも書きましたが
僕は高校3年生の夏に3週間ほどの入院生活を送っている。
本来ならば10日ほどで退院の予定だったのだけど、再手術になってしまい
えらい長い入居者になってしまった。
とは言いつつも
内科的ではなく外科的手術の為なのだろうか、
切除してしまえば身体的苦痛も小さくなるので、直ぐにウロウロしだす。
ちょっと目を離すと病室から消えてしまう。
看護師さん達の間では
“病院イチ元気な入院患者”として名を馳せていた。
さすがに午前中の回診時にはベッドで大人しくしているけれど
その他の時間は神出鬼没。
一般外来でレントゲン室を探していたお婆ちゃんを職員のように案内して
そのままレントゲン室前の待合場所で話し込み
看護師さんが探しに来て
「あなたも患者でしょ!」と叱られたこともある。
そんな入院生活の最終日。
夜中にふと目が覚めた。
看護師さんの見回りの気配で起きたのだと思うのだけれど
ちょっとトイレに行きたい気がする。
気がするんだけど、我慢して寝られないこともない。
…できれば、トイレに行かずにいたい。
なぜならば
怖いからだ。
夜中の病院ほど怖いところはない。
いろいろと噂を聞くではないか。
いくら病院イチ元気な入院患者だとしても怖いものは怖い。
モジモジしつつ30分くらい経っただろうか。
意識しているせいか尿意が強くなってきていた。
膀胱決壊カウントダウンが始まっている。
幽霊怖さにお漏らしを是とするか。
尿意を優先して幽霊と戦うか。
さんざん迷ったあげく、トイレに行くことにした。
そこはやはり社会性重視である。
この病院の入院病棟は長方形のロの字型をしていて
長い辺部分に病室が並んでいて短辺部分にトイレがあった。
意を決して病室を出る…その前にドアから顔を出して左右をチェック。
とりあえず人の気配は皆無。薄暗い廊下が左右に伸びている。
廊下に出て静かに歩く。他にも入院患者さんがいるのでなるべく足音をたてないように。
それでも無音は無理なんだけれど
なんかもう1つ足音がしているような気がする。
自分の足音がかすかに反響してるのかもしれない。
そうだ!反響してるんだ!
ははははははははははははは
と自分を励ましつつ
曲がり角を曲がるとトイレが見えた。
トイレのドアを開けて電気を点けて中を覗き込む。
いい加減そろそろ漏れそうな気がするけれど、
時間を掛けての入念なチェックが必要であると思う。
トイレという密閉空間で幽霊と2人きりだけは勘弁だ。
密閉空間ということは、もし何かあったとしても逃げ場が無い。
ルール違反かもしれないけれど、ドアを開けっぱなしで用を足そう。
真夜中だから外を通る人もいないだろう。
さて、いよいよ尿を放つことになるわけだけれども
なるべく最短時間を目指したいところである。
パッと終わらせてサッと部屋に戻りたい。
そういうときは下腹部に力を込めて、通常放出量の数倍を狙う。
最大出力300%で臨めば平時30秒が10秒で終わる計算だ。
300%…
宇宙戦艦ヤマトの最大兵器“波動砲”だってエネルギー充填120%で発射される。
その威力はオーストラリア大陸1つ分が一瞬で破壊される程である。
それ以上の300%で尿を放つのだ。尿道が破壊されてしまうかもしれない。
幽霊に恐れおののいているために。
便器も壊れるかもしれない
てな事を考えてる前に早くしないと漏れる。
気持ち的には500%くらいの勢いで便器と向かい合う。
唸れ膀胱!吠えろ尿道!!
軽快な音をたてながら便器と相対する僕。
「明日のこの時間にはここに居ないんだなあ」と少しおセンチな感情も湧いてくる。
入院生活は決して良いことではないけれど、少し名残惜しい気持ちもある。
複雑な心境であるね…
って、こんな悠長なことを考えてしまうのも
予想以上に尿が膀胱に溜まっていたらしく、なかなか終わらないからだ。
思った以上に時間が掛かっている。
その時!!
僕の波動砲が7割くらい発射されている時点で
トイレの外、廊下で急に人の気配がした。
僕の左後方がトイレのドアなのだけれど…いきなり
「失礼しまーす…」と声がした。
うわっ!!!!
胸がピキーーーーーーンと締まった。
心臓の痛みを感じながら、思わず身体が左に旋回した。
もちろんドア方向を見るためだ。
皆さん。
尿を放ちながら身体を旋回するとどうなるか分かりますか。
そう。
尿は横方向に放物線を描く。
例えるならば、連凧のような動きだ。
隣の便器に飛び移る勢いの大きな軌跡。
僕のは青空がバックではないけれど
ドアからこちらを覗く女性と目が合った。
外科病棟の看護師さんだ。
巡回中に様子を見に来たのだ。
トイレのドアは開けっぱなしになってるし光も漏れている。
滝のような軽快な音も聞こえていたのだろう。
僕を確認した看護師さんは「あ、ごめんなさい」と直ぐに顔を引っ込めたけれど
僕の縦横無尽な波動砲は便器から隣の便器へと自由奔放だ。
始末書レベルの粗相といっても過言ではない。
やっと僕の膀胱は0%になり、ズボンを直し手は洗ったけれど
…
…
スミマセン看護師さん、トイレ掃除します。
僕の連凧を見ていたであろう看護師さんがドアの外で待っていた。
「あ、いいのよ。私が水で流しておくから」
「いや、あの、そういうわけにもいきませんので…」
夜中なのであまり長い立ち話は他の患者さんの迷惑になる。
結局、もう1人看護師さんが来てくれて
2人が水で洗い流し、僕は病室に戻った。
その日の午前中
僕は退院となったのだけど
おそらく引き継ぎを受けたのだろう別の看護師さんが
僕を見てクスクス笑っていた。
申し訳ないとしか言いようがない。

