~資地計築~ 建築デザイン 木下 稔 -170ページ目

つづいているカレンダー 〜僕が建築と向かい合った日〜④

つづいているカレンダー ~僕が建築と向かい合った日~③ のつづきです。


泥酔してできた謎のプランをもって、恐る恐るF様のお宅へ行きました。

そして、F様にプランについて一通り説明しました。

敷地いっぱい、真四角総2階のF様プランに対し、T字型の平面に3階建というもの。

それでも、このご家族について、僕ができる精一杯を考えたこと。

泥酔していたとはいえ、やはり自分で描いたので必死で説明すれば、それがスラスラと出てきます。

広く使えても、自然光で明るくないとダメなこと、

娘さんが戻ってくるまでの間は遊び心のある豊かな空間にしておくこと、

平面プランの凹凸が外観を良くすること、

あえてキッチンがテーブルを囲む形が奥様を一人にしないことetc.

本当に必死で説明していました。
今でも鮮明に覚えています。

とはいえ

やはり、要望と違うものは違うもので

 
おい!!木下くん君っちゅうヤツは!俺が必死で鉛筆なめなめしながら描いた図面、どこをどう取ってもこれと全然違うやないか~!!

ひ~!やっぱり怒られました!!

「こんな、全然違うもん、 
よう持ってこれたな!!おい!

やっぱりかと思いながら肩を落としているとF様が急に声のトーンを落ち着かせ

「しかしな、木下くん、得心いったわやはりモチは餅屋やっちゅうこっちゃ。法規制とか分らんけど、明るいし、夢もい~っぱいある。しかもうちの奥さんが一人にならん上にちょっとハスになるって所がにくい」

「?ハ、ハァ?」怒鳴られた後だったので相当間抜けな顔だったと思います。

「俺が一生懸命考えたもんもな、こんなん出されたら勝ち目無いやんけ!家族かてこの方がイイって言いよるわ」

「ハァ、ありがとうございます」事態がまだ飲み込めずの中
「オシッ!木下くん、このまま、この通り建てろ!契約や!

「エェ~!!」

いや、まだ見積も出てないし予算が合うかどうかもわからないのに!

その上、どうせダメだろうと本社の設計チェックを受けずに持って来たこのプラン、

まさかの展開に青くなった顔が赤くなっていくのがわかりました。

~つづく~


つづいているカレンダー 〜僕が建築と向かい合った日〜③

つづいているカレンダー ~僕が建築と向かい合った日~② のつづきです。

いよいよ、明日はF様にプランを提出する日です。

当時、僕がいた大手住宅メーカーでは、プラン図は営業が書くものになっており、この時点で法規制などに照らし合わせたチェックを、こんな無知で素人な人間にさせるシステムになっていました。

他の営業マン担当の物件で着工の日、「立ち会いで道路に建物がはみ出る!」

なんていうトラブルをチラホラ耳に入り、それでも何となく許されていたのんびりした時代でした。

そんなことより、何も出来てません。

この方々の住まいをいい物にしようと必死で考えてるんですが、何分、経験や知識がありません。

あるのは住宅メーカーで教えられた限られた浅い知識だけ。


夜中、自宅で方眼紙を広げてウンウン唸りながら、ヤケクソになりお酒をがぶ飲みして考えていました。

黙ったまま一人で飲んでいると、早く酔っぱらうようで、目がグルグル廻りだしました。

それでも、切羽詰まっているので必死に考える、でも、酔いのため朦朧とする。


目覚めれば朝になっていました。


暫くボーっとしてから真っ青になりました

「うわ!どうしよう!寝てしまった!」

絶体絶命です。

と、目を方眼紙に落とすと

このまま肉付けすればプラン成立するという所まで書けた図面が!

奇跡!!

とにかく一目散に会社へ行き、図面を清書しました。

20年前、CADなんて普及しておらず、仮にあったとしても全く使えない素人なので手描きで清書です。


プランは出来ました。しかし問題がありました。

F様が書いたものと、似ても似つかぬものとなっており、しかも2階建てでご希望だったものを3階建てにしていたのです。

しかし、泥酔した結果知らない間に出来たこのプランが、到底悪いものには思えず

また、これ以外に持って行けるものもありません。

覚悟してF様の所へ行くことにしました。

~つづく~


つづいているカレンダー 〜僕が建築と向かい合った日〜②

つづいているカレンダー ~僕が建築と向かい合った日~① のつづきです。

建築予定地に着いた僕を驚かせたもの

それは和風の2階建ての家、別に何の変哲もありません

「木下君、この家、築10年なんや。おやじが俺の為に木材とかくれて建てた家なんやけど、子供部屋とか気に入らんとこあってなぁ云々」

この家、築わずか10年ほどの上、お父様がくださった木材

すべて無節の4寸5分、床柱は南天の1本もので、その床板や天井やその他様々、ケヤキやら桜やら立派なものばかり。

分からない方も多いと思いますが、かなり高価なものや中々手に入らないのも。

新築後、F様に「いやぁ~木下くんの口車にのって、築10年の無節4寸5分でできた家、いとも簡単に『つぶせ!』って言われてつぶしてしもたわ!」と冗談まじりに冷やかされました。

無知とは恐ろしいもので、現在の僕の知識からすると、「えらいことしてしもた!」

というぐらい「もったいない」ことです。

そんな無知で無謀な僕でも、最初に見たときは随分驚いたんですが。

「F様、これ本当につぶして建て直すんですか?」

「つぶさな出来へんのやったら仕方ない。でも、それだけのもんが出来るかどうかや

よく考えたら当時の僕にはもの凄いハードルでした。

しかし、無知で無謀な人間は時としてハードルをハードルと認識しません。

それほどバカだった訳です。

とは言え、そのバカ者はバカなりに一生懸命考えました。

F様のご要望は奥さんと娘さん2人の4人家族。

リッターバイクで颯爽と出かける活動家で多趣味。

そんなF様がおっしゃったのは

「娘2人やろ、そのうち嫁いだら出て行きよる。でもな、木下君、『親のとこ住んだら家賃助かるんちゃうん』っていうように2人のうちどっちかでも戻ってくる家にしときたいねん。ジジ、ババなって2人って寂しいやん」

という、家族を愛するゆえのお気持ちでした。

奥様もすごく可愛い方で、ご主人に対する愛情に溢れておられ、それ以上に感心したのは、F様の方が奥様のことが好きで好きでたまらないという、その後僕の理想のご夫婦像となる姿でした。

そして、初回のプランを1週間後に持っていくお約束をしました。

現場を離れてから、知識も経験も乏しいバカで無謀な若者は、はたと困ってしまいました。

何故なら、既にF様の「夢のプラン」はF様自身でお書きになっており、これを法律に則ると実現不可能。

当時、20年前の大阪は違反建築が横行しており、人によっては「いっぱい、いっぱいまで建てて違反すればする程ええ家」的に考えており、大阪人特有の「どや!」な家が溢れ返ってました。

考えがまとまらない。

時間が経って行く

大手住宅メーカーのコンプライアンスはそんな違反建築祭りの大阪でも逸脱することはできません。

適法の家を考える

施主の要望する形と違ってくる。

無駄に時間を過ごしながら、明日お約束の日という所まで来ました。

~つづく~