南極の冷蔵庫 〜勝手に閉ざす扉〜④ | ~資地計築~ 建築デザイン 木下 稔

南極の冷蔵庫 〜勝手に閉ざす扉〜④

南極の冷蔵庫 ~勝手に閉ざす扉~③のつづきです。

この日、全くコーヒーが売れなかった僕は

宿屋のおやじから

「役立たず!おめぇなんかクビだ!」


そう怒鳴られてクビを宣告されるものだと思っていました。


しかし、戻って来ても「辞めろ」とも言われず、その日を過ごしました。

今になって想像するに

座り込んで動かなかったバイト君たちと比べ

鬼気迫る形相で必死でコーヒーを売る姿に、

宿屋のおやじは何がしかの損得を見つけたのかもしれません。


翌日もまた

「おい、木下くんよ。コーヒー売ってこい。それとな、コーヒーはタダじゃないんだ。無駄にするな、タダじゃないだからな!」

無駄にしたくて無駄にしている訳ではないのです。

しかし、雪山で何の保温もなくコーヒー持って行けばそりゃ5分で冷めるという物です。


いよいよ、僕が野沢温泉を去る日も近いということでしょうか。

この日もヤケクソで、4枚引戸を「パーン」と開きます。

~資地計築~ 建築デザイン 木下 稔


ゴンドラリフト待ちのお客さん達からは、食堂の玄関が3段ほど高いため

まるでステージです。

とにかく、声上げ、馴れ馴れしく並んでいる人に近づき売り込みます。

こんな事でも、2回目になると喋りも良くなってきました。


しかしながら雪が舞い降る中

やはり、1杯のコーヒーを売ることすら出来ません。


宿屋のおやじにも「コーヒー冷めたら売り物にならない、お前のせいで無駄に棄てるばっかりだ!」

「あいつはダメだ」とか「もうクビだ」とか、そう言いながら、廊下を歩き去っていきました。

それでも、わずか2日程で9人辞めさせられたにの、一人で2日持ったと

変な所で自分に感心しつつも

荷物をまとめるしかないかと思い始めていました。

宿屋の主人の機嫌が悪いので、他の従業員もピリピリしていて

機嫌の悪い原因である僕に、話しかけるどころか近づいてもきません。

翌日迎える「奇跡」が起こるまでは…

~つづく~