誰だってこんな経験があるはずだ。
ありとあらゆるポケットの内に潜む音楽の中から
その日たまたま選び出した音楽を
細い二つの線を通して耳の奥まで届けている
今日はなんだかいつもよりテンポが早くないか
(ゆっくりに聴こえるときはその曲を受け入れたくないという心理の反映だ、と勝手に思ふ)
良い調子だなぁと自由気ままなもの想いに耽る
電車の中にいる人々は皆善人に見えて、自分の世界を邪魔してくる者はいない
そして何かの拍子に誰かと目があったりすると
急にどきりとなったりする
電車を降りるといつもの光景が眼前に広がる
ホームでは降りる方を優先に、といった内容のアナウンスが流れている
音楽と混ざり合った駅員の口調はどことなく単調な悲しみを醸し出している
それは、私のしたいような、解釈なのだろう
苦しいのは、悲しいのは、途方に暮れてるのは、
自分だけじゃない、
そういった感覚を確かめたい、というのは人間の基本的な欲求なのだろうか
こうして外に出てみても、結局納得のいく「確認」は得られることはないのだが――
いつもの通りを歩く
ティッシュを配る呼び込みの人たちは一生懸命その仕事をこなす
私はなぜかティッシュをもらいはぐる
欲しいものはなかなか手にはいらないのだ
なぜか手にはいるのは夜のアルバイトの情報誌だったりする
メガネを洗う機械がある
私はそれに自分のメガネをつっこみ
浄化してもらう
メガネと一緒に自分の頭の中も浄化してくれないかと願いながら
メガネをつけると視界はクリアだった
裸眼よりクリアだった
それは人工的な明白さだった
私は通りを歩き続ける
ある瞳に出くわすことを恐れ、そしてほのかな期待を抱きしめながら
音楽は相変わらず規則正しい音色を続けている
音楽には音楽の世界があるのかもしれない
続けなければならない苦しみ
やめることを許されない苦しみ
交番を曲がる
男女が歩く
女が歩く
私が歩く
珈琲やさんを過ぎて
大学が見えてきた
見なれた大学
こんな大学、溶けてしまえばいい、と思っていた
それは一瞬の出来事だった
目の前には私の知っている誰かさんが2人いた
2人で向かってきた
次の瞬間、奇妙な会釈がなされた
何が起きているのだかわからないまま、頭が勝手にぺこりと動いたのだ
一瞬の出来事で、何が起こったのか分かったのは随分あとになってからだった
私の耳の奥では相変わらず音楽が流れている
私はそれが居心地の悪い雑音へと変わっていくように感じた
気持ちが悪くなった
女の瞳には偽善が満ち溢れ
男の口元には戸惑いという名の薄笑いが漂っていた
ただ歩いているだけ
そうだ
そう言い聞かせた
私は歩を進めた
そうすることがその当時考えられる精一杯の、最善の策だった
問い詰める資格は消えていた
どうしたのですか、などと聴くだけ無駄だと分かっていたのだ
彼らは角を曲がった
2人の背中が消えていった
怒りをこめて振り返れ、
怒りをこめて振り返るな、
前者はイギリス出身オズボーンの戯曲で、後者はロックバンドのオアシスの歌詞にある
私はこのとき、怒りという感覚は忘れていたが ―それは後からふとやってきた―
振り返ってしまったのだ。つまり「怒れる若者たち」のふるまいを踏襲したのだった。
メガネなんか、洗うんじゃなかったよう
ちくしょう
こんな場所、ぐるぐるに溶けてチョコレートにでもなってしまえばいいと思った
いやチョコレートなんて良い御身分ではない
溶けて混ざってぐるんぐるんの着色料満天卑猥なピンク色の飴にでもなれ
と本気で思った
私の左側のむねの奥のあたりは、溶けてるんじゃないかと思うくらい
ぐるんぐるんと音がした
まだ耳の中を疾走する音楽に負けないくらいの大きさを主張しながら
この曲は、
そんなだれかさんの鼓動が混ざっているのかもしれない。
長く書きすぎちゃった。
でも、音楽のイメージを思い出し、塗りつぶしたかった。
ありとあらゆるポケットの内に潜む音楽の中から
その日たまたま選び出した音楽を
細い二つの線を通して耳の奥まで届けている
今日はなんだかいつもよりテンポが早くないか
(ゆっくりに聴こえるときはその曲を受け入れたくないという心理の反映だ、と勝手に思ふ)
良い調子だなぁと自由気ままなもの想いに耽る
電車の中にいる人々は皆善人に見えて、自分の世界を邪魔してくる者はいない
そして何かの拍子に誰かと目があったりすると
急にどきりとなったりする
電車を降りるといつもの光景が眼前に広がる
ホームでは降りる方を優先に、といった内容のアナウンスが流れている
音楽と混ざり合った駅員の口調はどことなく単調な悲しみを醸し出している
それは、私のしたいような、解釈なのだろう
苦しいのは、悲しいのは、途方に暮れてるのは、
自分だけじゃない、
そういった感覚を確かめたい、というのは人間の基本的な欲求なのだろうか
こうして外に出てみても、結局納得のいく「確認」は得られることはないのだが――
いつもの通りを歩く
ティッシュを配る呼び込みの人たちは一生懸命その仕事をこなす
私はなぜかティッシュをもらいはぐる
欲しいものはなかなか手にはいらないのだ
なぜか手にはいるのは夜のアルバイトの情報誌だったりする
メガネを洗う機械がある
私はそれに自分のメガネをつっこみ
浄化してもらう
メガネと一緒に自分の頭の中も浄化してくれないかと願いながら
メガネをつけると視界はクリアだった
裸眼よりクリアだった
それは人工的な明白さだった
私は通りを歩き続ける
ある瞳に出くわすことを恐れ、そしてほのかな期待を抱きしめながら
音楽は相変わらず規則正しい音色を続けている
音楽には音楽の世界があるのかもしれない
続けなければならない苦しみ
やめることを許されない苦しみ
交番を曲がる
男女が歩く
女が歩く
私が歩く
珈琲やさんを過ぎて
大学が見えてきた
見なれた大学
こんな大学、溶けてしまえばいい、と思っていた
それは一瞬の出来事だった
目の前には私の知っている誰かさんが2人いた
2人で向かってきた
次の瞬間、奇妙な会釈がなされた
何が起きているのだかわからないまま、頭が勝手にぺこりと動いたのだ
一瞬の出来事で、何が起こったのか分かったのは随分あとになってからだった
私の耳の奥では相変わらず音楽が流れている
私はそれが居心地の悪い雑音へと変わっていくように感じた
気持ちが悪くなった
女の瞳には偽善が満ち溢れ
男の口元には戸惑いという名の薄笑いが漂っていた
ただ歩いているだけ
そうだ
そう言い聞かせた
私は歩を進めた
そうすることがその当時考えられる精一杯の、最善の策だった
問い詰める資格は消えていた
どうしたのですか、などと聴くだけ無駄だと分かっていたのだ
彼らは角を曲がった
2人の背中が消えていった
怒りをこめて振り返れ、
怒りをこめて振り返るな、
前者はイギリス出身オズボーンの戯曲で、後者はロックバンドのオアシスの歌詞にある
私はこのとき、怒りという感覚は忘れていたが ―それは後からふとやってきた―
振り返ってしまったのだ。つまり「怒れる若者たち」のふるまいを踏襲したのだった。
メガネなんか、洗うんじゃなかったよう
ちくしょう
こんな場所、ぐるぐるに溶けてチョコレートにでもなってしまえばいいと思った
いやチョコレートなんて良い御身分ではない
溶けて混ざってぐるんぐるんの着色料満天卑猥なピンク色の飴にでもなれ
と本気で思った
私の左側のむねの奥のあたりは、溶けてるんじゃないかと思うくらい
ぐるんぐるんと音がした
まだ耳の中を疾走する音楽に負けないくらいの大きさを主張しながら
この曲は、
そんなだれかさんの鼓動が混ざっているのかもしれない。
長く書きすぎちゃった。
でも、音楽のイメージを思い出し、塗りつぶしたかった。