「今の部屋、まだイスがないんですよ」
あんみつも食べ終わり、空腹が満たされ始め、
緊張感も溶けていた。
せんせいは呆れかえっている。
パソコンをかちゃかちゃ動かしだした。
何やらぶつぶついっているので、私はせんせいのそばに近づいた。
パソコンの画面を見ると、
イケアとか、ニトリとか、楽天とかのサイトで、
イスと机のセットの相場を調べてました。笑
「せんせいは、お値段以上ニトリで何か買ったことあるんですか」
「ないです」
「ですよねぇ。笑」
そんな会話をしていた。
そういって、パソコンをいじる先生の手。
シャツが肘のところで折られている。
部屋は、相変わらず、きたない。
ソースと、コーヒーミルクと、鉄腕アトムの小さいフィギュアと、
わけのわからんものがゴチャゴチャおいてある。
そして、いつもの、手ぴかジェル。
奥の方には、整髪料らしきもの。
男の人なんだな、とふと思う。
この位置にくると、よく見える。あらゆるものが。
鉄腕アトム(おそらくペットボトルについてくるキーホルダー)のそばに、
金色の鈴のついた、ブルーの小さな箱。
私は目を疑った。
私がばれんたいんに差し上げた、ブルーの箱だった。
飾っているのか。 (To be,
ソースと同類なのか。or not to be,
それが問題だ。 that is the question.)
微妙な線だったけれど、人間は、物事を良い方に
解釈する、という選択肢を持っている。
私は、それだけでうれしくなり、舞い上がった。
そんな私の視線旅行など気付く様子もなく、せんせいは黙々と調べている。
(さすが研究者?笑)
せんせいの腕はとても、きれいだ。
半世紀生きたとは思えないぐらいきれい。
私の視線はイケアでもニトリでも楽天でもなく、
先生の腕にあった。いつもきれいだなぁと感心していたその腕に。
「結論、イケアが一番安い。
ただ、電車賃考えると、そんなことないかもしれません」
先生はついに結論を出した。笑
結論もそっちのけ、
今度は、
机の上にあった、扇子に目がいった。
私も、落ち着きないよなぁ、と自分につっこみを入れながら。
「扇子、使ってらっしゃるんですか」
「はい」
先生は、バッと真っ白な扇子を開いて見せた。
「おぉ」思わず私は声をだした。
「記念にあげます」
二つのうち、一つを私に渡してくれた。
「ありがとうございます!」
内心、やったあ、おそろいだと勝手に舞い上がった。
「そこに何か、書けばいいですよ」
真っ白な扇子なので、何か書く余地がある。
「えっ せんせい何か書いてください、サインでも、メッセージでも笑」
「いや、価値がさがります」
「そんなことないです」
結局、書いてはくれなかったけれど、
私が嬉しさでほわーんと舞い上がっていることに変わりはなかった。
マンガとかで、あるキャラクターに「お花」が散っていることってあるでしょう。
あぁいうのは、まさに、こういう時なんだろうな
と思った。
扇子の開き方を教えて下さったとき、
手と手が触れた。
どきっとした。
あほですね。
笑っちゃいますね。
不思議ですね。
今日は、その感触を何度も思い出した。
一人じゃない、
と感じた。