(ジョングク×ジミン)です
Side JK
どうしよう…
とっさに声をかけてしまった…
僕はその少年の手首を掴んだまま、夢中でその場を離れた。アパートメントのある通りから少し進んで右に曲がると、木々に囲まれた小さな公園がある。そこまで来て、僕はやっと安心して歩みを止めた。そのとき、まだその少年の手首を握っていることに気づき、慌てて手首を離して謝った。
「ご、ごめんね、急に」
「ううん、ありがとうございます」
途端ににこっと笑う彼の真白な肌と、笑って見えなくなった瞳に見惚れた。
「困ってたから…助かりました」
少年はにこにこ笑ってそう言ってくれたから、僕はホッとした。
「お餅…配達中だった?あ…ってか、何歳…ですか?」
ぱっと見た感じだと年下に見えたけれど、お餅を配達しているということは学生ではないのかもしれないという考えが頭をよぎった。韓国では、年上にタメ口をたたくなんてもってのほかだから、あらかじめ確認しないといけないのだ。
「19歳です」
「わ、年上…なんですね、ごめんなさい」
目の前で微笑む少年が2歳も年上で僕は焦った。とてもじゃないけれどそうは見えない。だけど嘘を言っているようにも見えなくて、僕は顔の前で手のひらを合わせた。
「ふふ…大丈夫だよ。助けてくれてありがとう…あ、そうだ」
その人がそばのベンチに自分のリュックを下ろして、ごそごそ中を探り出したのを見ながら僕は大変なことを思い出した。
僕、「ジミナ」って呼んじゃった…
年下なのに…
年上にそんな呼び方をするなんて、両親や先生に聞かれたらこっぴどく叱られるだろう。
「ごめんなさい、僕、さっき失礼な呼び方…」
「あ、いいよ、そんなの。助けてくれたんだし。ほら、お礼にこれあげる…」
彼はにこにこ笑いながら、お餅を2つ取り出した。思わず受け取ってしまう。
「あの人、いつも朝ごはん食べてけ、ってしつこいんだ…だから本当に助かった」
彼はアパートメントの方角をちらりと振り返りながらいたずらっぽく笑った。
「ありがとな…えっと…名前…」
「ジョングクです」
慌てて言うと、その人はまた柔らかく微笑んだ。
「ありがとう、ジョングク。僕はジミン…って、さっき僕のこと『ジミナ』って呼んだから知ってるか」
僕が青ざめていくのを見て、その人はけらけら笑った。
「ふふっ…冗談だよ。ありがとう」
ジミンさんはそのまままたリュックを背負った。
「じゃな。それ僕が作ったから、美味しいはず。早めに食べてな?」
そう言って手を振り、踵を返して行こうとすらから、僕は思わずその手首をまたぎゅっと掴んだ。
「へ…?」
「わっ…あの…ごめんなさい、その…」
きょとんと僕を見上げるアーモンドみたいなきれいな形の瞳にどぎまぎして、僕は言葉を失った。
何してんだろ、僕…
さっきの人と同じじゃないか…
ただ、まだ一緒にいたくて…
「えっと…一緒に食べませんか?お餅」
これじゃ本当にナンパみたいだ。言ったとたん、かあっと頰が熱くなった。