Side N
酒が進むにつれて、ジミンに笑顔が増えてきて俺はホッとした。他愛ない話でけらけら笑いながら俺の腕に手で触れたり、肩にもたれかかってきたりするジミンはいつも通りすごく可愛かった。
しかし、俺…全然そういう相手として意識されてないんだろうな…
俺が「好きだ」と言ったことも忘れてるんじゃないだろうか…
ジミンは変わったカクテルをオーダーして、ステア(=かき混ぜること)に夢中になっている。彼は、ピンクのグラデーションのカクテルをスプーンでくるくる混ぜてきれいな色になるのを見て満足そうに笑った。
「これ、色可愛いですね」
満面の糸目にドキ、と胸が鳴る。
ああ…俺がもう少し恋に慣れた奴なら、
「お前の方が可愛い」とかさらりと言えるんだろうか…
「可愛いな」
いろんな意味を込めて言うと、ジミンはまた微笑んだ。一口飲むと、「飲んでみてください」と俺にグラスを差し出した。俺が一口飲むと、「ふふっ」と笑うから俺が怪訝な顔をすると、「ごめんなさい」と言って破顔した。
「ナムジュニヒョン、ピンクのカクテルとか似合わないなって」
「これが似合うのはジニヒョンくらいだろ」
俺が言うと、ジミンはまたけらけら笑った。
「ふう、久しぶりに2人で飲むの楽しいですね…帰るの面倒になってきました」
ジミンは唇を少し尖らせて、カクテルグラスにまたステア用の細いスプーンを入れてくるくる混ぜた。
「ここの下のホテル泊まったら帰らなくていいぞ」
冗談で言ったつもりだったけれど、ジミンは俺を見て、「いいんですか?」と聞いた。
「…いいんじゃないか?連絡だけ入れておけば」
「じゃあ泊まっちゃおうかな…部屋空いてますか?」
俺がスマホを取り出したのを見てジミンはそう尋ねながら、俺のスマホを無邪気に覗き込んでくる。
このカジュアルさ…
ジミン、マジで、俺が「好きだ」って言ったの忘れてんだろうな…
少しためらいはあったものの、ホテルのHPを見たらツインの部屋が空いていたから予約を入れた。
「空いてたよ…予約した」
「ありがとうございます。これで気にせず飲めますね」
ジミンは茶目っ気たっぷりにそう言うと、首を傾げて微笑んだ。
酒がさらに深まるにつれ、ジミンとの会話は曲作りや他のミュージシャンについての考察など、普段できない真面目な話に移っていった。真剣に話すジミンを見ながら、俺は頭の片隅で引っかかっていることがあった。
ジミンと2人で泊まる…
弱ってるジミンにつけ込むような真似はしたくないから、何もしないつもりだけど…
さっき見たばかりのジミンの涙を思い出す。俺が気になっているのはジョングクのことだった。なぜ別れたのかはどちらにも聞いていないけれど、2人とも涙が途切れないのは気持ちが切り替えられていない証拠だろう。ジョングクがリハーサルの途中やふとした時に、ジミンを見て涙ぐんでいるのを俺は知っていた。
ジョングクに、伝えておくか…
このままジミンと2人でこのホテルに泊まったって、全く問題はないだろう。だけど俺は、なんとなく、ジョングクに伝えておくのがリーダーとして「筋を通す」ことになる気がした。俺たちは友達だけれど、メンバーでもある。そしてメンバーでもあれば、友達でもある。どちらの意味でも、すごく大事な人達だ。ジミンがトイレに立った隙にスマホを取り出す。
しかし…頭、固いのかもな、俺…
自嘲気味に一瞬笑うと、指先を動かした。
「今オリエントホテルのバーでジミンと飲んでる。今日はそのままジミンと泊まる。一応伝えておく」
送信すると心が軽くなった。ジミンが席に戻ってきて、俺を見て微笑んだ。
