Side JK
練習後の更衣室で、ヴィヒョンと2人になった。さっき感じた腹立ちが収まっていなくて、僕は半ば憮然としたままヴィヒョンに近づいた。
「ん?何?何だ?」
ヴィヒョンを壁際に追い詰めて、壁に手をついた。表情を変えないヴィヒョンに、僕は顔を近づけて言った。
「ヴィヒョン、僕とキス…しましょう」
そう言った途端ヴィヒョンは嬉しそうな表情になって、てっきり驚かれると思っていた僕は面食らった。
「マジで?練習、付き合ってくれるのか?」
「は?何の練習?」
僕が怪訝な顔をして身を離すと、ヴィヒョンも怪訝な顔になった。
「あれ…ジミンに聞いたわけじゃないのか」
「何も…聞いてないけど…」
「いやー、俺さ」
ヴィヒョンは珍しく言い淀んだ。
「好きな人が出来てさ…男、なんだけど…」
『キャー』とおどけながら両手で自分の頰を挟むヴィヒョンの言葉にどきん、と胸が跳ねる。
それって…
やっぱり、ヴィヒョンはジミニヒョンのこと…
そして、ジミニヒョンも、ヴィヒョンのこと…
僕は何も言えなくなって、暗い顔で黙っていた。ヴィヒョンはそんな僕に気づいていないのか、話を続けた。
「そんで、ジミンに練習させて、って頼んだんだよ…キスの」
「は⁇ 」
キスの…練習⁈
「ジミンに頼んだら断られて…でも俺が勝手にキスしちゃったから怒っちゃって…練習してくんなくなっちゃった」
ジミニヒョンとキスの練習…
ってことは、ジミニヒョンのことが好きでキスしてたわけじゃなくて、
他に好きな人がいるのかあ…
僕は脱力して、安堵のため息をついた。よかった。ヴィヒョンと好きな人を取り合うなんて、したくない。
ヴィヒョンはジミニヒョンに怒られたのを思い出したのか、しばらくしょんぼりとしているようだったけれど、ややあって口を開いた。
「だから、ジョングギが練習してくれるんなら…」
「ヒョン」
僕はヴィヒョンの言葉をさえぎって笑った。
「そういうのはやめましょ。キスは本当に好きな人としなきゃ」
ヴィヒョンは一瞬、大きな目をさらに大きく見開いた後、微笑んだ。
「お前ら、同じこと言うんだな」
え…
『お前ら』って…
「ジミンも同じこと言ってた」
ヴィヒョンはくくくっ、と面白そうに笑った。
ジミニヒョンも…
胸が温かいものがじんわりと広がっていく。願わくば、ジミニヒョンがそう言ったとき、考えてくれてたのが僕だったらいいのにな。考えるとすごく会いたくなって、僕は早く宿舎に帰ろうと思った。
「ヴィヒョン、僕は練習してあげられないけど…その人と上手くいくといいね」
僕が親指を立てて見せると、ヴィヒョンはにこ、と笑って「頑張る」と呟いた。