新型コロナ、もう1つの命の危機
自殺者数「4月の謎」から
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これが正しいとすれば、GDPが減少した影響を受けた2020年4月には自殺件数が増えてもおかしくなかったとも考えられる。
しかし、実際には増えず、むしろ大幅に減った(写真:PIXTA)
「前年同月比19.7%減の1457人」――。
それは意外な数字だった。
警察庁が5月20日に集計した4月の自殺者数(暫定値)だ。
自殺死亡率は人口10万人あたりの自殺者数で、厚生労働省「人口動態統計」に基づく。
なぜ意外だったのか。
ここ数年、自殺者数は減少傾向にあり、「減った」こと自体は珍しくない。
異様なのはその減り方だ。
自殺者数には季節で異なり、例年3月や5月が最も多く12月が最も少ない。
そのため、同じ4月で比較してみると、2015年に2094件、2016年に1880件、2017年に1940件、2018年に1825件、2019年に1814件。
それぞれ前年同月比で計算すると、2016年は10.2%減、2017年は3.2%増、2018年は5.9%減、2019年は0.6%減。
今年4月の「19.7%減」がいかに大きな減少だったかお分かりいただけるだろう。
もう1つの数字を併せて見ると、この数字はますます異様に映る。
6月8日に発表された2020年1~3月期の実質国内総生産(GDP)改定値は年率換算で「2.2%減」だった。
言うまでもなく新型コロナウイルスの感染拡大により、経済活動の大部分が事実上凍結されたことによるものだ。
一般に、経済状況の悪化と自殺者数の増加は相関関係にあるとされる。
グラフ「失業率と自殺死亡率の関係」の通り、自殺者が急増したのが1998年。98年は自殺者数が前年比で35%も増えた。
97年は消費税増税があったほか、バブル崩壊後の不況で山一証券が破綻した年だ。
しばしば言われる「経済が減速すると自殺者が増える」。
これが正しいとすれば、GDPが減少した影響を受けた2020年4月には自殺件数が増えてもおかしくなかったとも考えられる。
しかし、実際には増えず、むしろ大幅に減った。
一体、なぜなのか。
新型コロナによる経済活動停止の影響が企業業績や雇用に直接表れるのはこれからだろう。
ただ、この大幅な自殺者数の減少は続くのか。
潮目がどこかで変わるのだろうか。
本連載のための取材は、新型コロナの緊急事態宣言下にあったこの4月の自殺者数の「謎」を調べてみることから始めた。
自殺者数が累計で14万~27万人増えるという試算
4月末に、実現しないでもらいたいと願わずにはいられない不気味なシミュレーションが発表された。
京都大学レジリエンス実践ユニットの発表によれば、4月時点の推計では新型コロナウイルスの感染拡大が1年間で収束した場合は向こう19年間で自殺者が累計約14万人増える。
2年間で収束した場合は27年間で約27万人増える、というものだ。
社会にとって、莫大な損失と言っていいだろう。
感染症による直接の死と併せて、この自らによる死についても、日本は向き合うことが求められる。
この連載では、こうした専門家たちの知見を取材しながら、経済との関わりにおいて自殺という現象を改めて考えていきたい。
1998年の再来に警鐘を鳴らす上記のシミュレーションの詳細については次々回の記事で触れる。
新型コロナウイルスは、目を背けてきた社会のゆがみを浮かび上がらせ、加速させている。
自殺を防ぐにはそうしたゆがみにも目を向ける必要があるかもしれない。
自殺総合対策大綱では、自殺は個人の自由な意思や選択の結果ではなく、
「その多くが追い込まれた末の死」
との基本認識を示している。
自殺の背景には健康問題や過労、生活困窮、家庭環境、いじめや孤立などの様々な要因が複雑に重なり合っていると言われており、簡単には語れるものではない。
ただ、自殺行動に至るまでに追い込む経済社会があったことは否定できないだろう。
行政や民間による対策で自殺者数は減ってきてはいるものの、日本は、1998年以降、G7(主要7カ国)の中で最も自殺率が高いという不名誉な状態を続けてきた。
取材と執筆を同時並行で進めることから記事の掲載が不定期になることをあらかじめお断りしておきたい。
次回は早速「4月の謎」を精神科医にぶつけてみる。
