アニメ紹介と小説やってたりします。


今回は小説で。



Prologue


少年は、人間ではない。

SPRING-WEST01739N

そう名付けられた彼は、堕天使である。

天使の、欠陥品。

感情を持たない、失敗作。

廃棄処分のはずだった、問題作。

そんな彼を焼却予定地のゴミ山から拾ってきたのは、彼の妹となる神内まりなの父、神内財閥会長だった。

「SPRING-WEST01739Nを、処分せよ」



「あ。やっとおきた(てへっ)」
小さな声。
「・・・・・・」
目の前に、小さな女の子がいて、ベッドで寝ていた僕のことを覗き込むようにして微笑んでいた。
柔らかい輪郭、くっきりとした瞳、金のロングヘアー。純白のリボンを頭につけ、白とピンクのチェックの服を着、白のフリルのミニスカートとニーソックスを履いたその女の子は何となく、神話に出てくる天使を連想させるような雰囲気を醸し出していた。
「えっと、・・・・・・」
頬を真っ赤にして、必死に何かを言おうとする女の子が視界いっぱいに映る。
「どっか、いたいところとか、ないかな?」
「・・・・・・」
「えっと、・・・・・・どこも、いたくないかな?」
必死にがんばる女の子。全身に、力が入っているように見えた。
「・・・・・・特には・・・・・・ない、けど・・・・・・」
ぎこちない片言を返して僕は再び黙り込んだ。
「そう、よかった」
女の子は、嬉しそうに笑うと、僕の寝ているベッドに腰をおろし、
「えっと、・・・・・・よろしくね。おにぃちゃん(にぱ)」
と、すでに真っ赤の頬をさらに赤くしながら僕の頬に小さくキスをした。・・・・・・。普通は、ここでどういうふうに感じるのだろう。対応に困った僕は、
「え、えっと、・・・・・・ごめんね。」
自然にそのセリフが口をついて出てきた。
「え、・・・・・・なんでおにぃちゃんがあやまるの?」
「僕、・・・・・・誰だか分からないし・・・・・・なんでここに居て、なんで君の隣に居るのかも何も分からないし・・・・・・それに、・・・・・・感情・・・・・・ないから・・・・・・えっと・・・・・・ごめんね・・・・・・」
そう、僕には、感情がなかった。何も感じないのだ。目の前の女の子と僕が寝ていたベッドが同じものに感じていた。そもそも、本当に生まれたのか、それとも製造されたのかすら、明らかではなかった。
「そんなこと気にしなくていいから!」
下を向いて静かに言った僕に、その女の子は強い口調で返した。
「そんなこと、きにしなくても・・・・・・いいから」
もう一回、同じセリフ。今度は少し涙を含ませた声で。
「そんなの、いくらでもおしえてあげるから。いまからでも、ぜんぜんだいじょうぶだから。」
話しながら、女の子の瞳からじわりじわりと涙が溢れる。
「だから、だから、・・・・・・そんなことで、じぶんをきずつけないで。そんなおにぃちゃん、・・・・・・まりなはいやだから・・・・・・」
話し終わった女の子の顔は、すこしだけ涙で濡れていた。
「だいじょうぶだから。まりなが、ずっとそばにいるから。ずっとそばで、おにぃちゃんのことみてあげるから。だから、おにぃちゃんは・・・・・・」
優しい声で、女の子は僕の手を握って、涙顔のまま、僕に笑いかけた。
「そばにいてくれるだけで、いいから・・・・・・」
そして、優しく、両腕で、ぼくを包み込んだ。
「・・・・・・」
やっぱり、何も感じなかった。窓から差し込んでくる輝く陽光も、天井を掠める小蠅も、目の前の女の子の口から発せられる声も、そして僕を包み込む女の子の腕の温もりも、全て部屋の中を十分以上に埋め尽くす空気に等しかった。
「いまはまだでも、ゆっくりなら、だいじょうぶだから」
だんだんと強くなってゆく、僕を抱きしめる腕。
「なんで、君は僕の側にいるの?」
頭の中には、唯一、その質問だけが詰まっていた。
「だって、まりなの、ゆいいつの・・・・・・おにぃちゃんだから」
おにいちゃん?兄のことだろうか。けれども、ぼくの記憶にはこんな女の子も、妹がいたということも、そもそも、今までの記憶が、まったくの皆無だった。
「おにぃちゃんは、なにもしんぱいしなくてもいいから。だから、・・・・・・」
えっと、・・・・・・どうすれば、いいのだろうか。・・・・・・。
そして、女の子に抱き締められたまま、暫くの時間がすぎ、女の子の涙もカラカラに乾いた頃、
「えっと、それじゃあまずはじこしょうかいからしよっか」
そう言うと、今まで泣いていたのとは一変し、まりなは僕の前に立って高々と自分の名前を言った。
「まりなは神内真理撫。まりなってよんで、おにぃちゃん。えっと、おにぃちゃんの名前とかは・・・・・・ゆ・・・・・・ごめん。いやだよね、昔の名前なんか・・・・・・」
いきなりテンションを下げたまりなは済まなそうに謝った。
「別に、どんな名前でもいいよ。まりなの好きな様で・・・・・・」
名前とかは、気にしなかった。そんなに、気にしてもいなかった。ただ、目の前のまりなは、そうでもないらしく、僕がまりなにそう言うと、まりなは、
「だめだよ、そんなの!」
と抗議するように言った後、新しく名前をつけてあげる、といって、少しの間をあけて、はりきって
「春風優。おにぃちゃんとまた逢えたのが春で、あとは・・・・・・優、おにぃちゃんだから・・・・・・。えっと、どうかなあ、おにぃちゃん・・・・・・?」
と、自信満々のキラキラした瞳の、いかにもと言わんばかりの顔つきのまりなが、僕の顔を上目遣いでみつめながら、返事を待ち焦がれていた。
「えと、・・・・・・う、うん。いいと思うよ、・・・・・・」
「ほんとにゆうちゃんでいい?」
何度も確認するように、まりなは僕の顔を覗き込んできた。すこしだけ、近い気がする。鼻と鼻は、今にもぶつかりそうなほどに。
「うん・・・・・・。優で、いいよ」
「やたっ。じゃあきょうからおにぃちゃんはゆうちゃんだねっ(にぱ)」
自分の考えた名前が気に入られ、喜んで笑ったまりなは、相当可愛くて思わず少しだけ見つめてしまった。
「それじゃあおにぃちゃん、あさごはんにしよっか・・・・・・て、おにぃちゃん?」
「え、あ、うん」
曖昧な返事で答えた僕の腕を掴んだまりなは、勢いよく飛び上がり、僕が今まで寝ていた部屋を飛び出し、階段へと嬉しそうに向かった。
時々、僕のほうをちらちらと見るまりな。何かを言い出そうとして、詰まっているようだった。
「えっと、おにぃちゃん。えと、・・・・・・」
階段をおりている途中で口篭りながら話しかけてきたまりなに、1階の方から上がってきたメイド服姿の少女は、遮るようにして何かを言った。
「・・・・・・。危ないですわよ。まりな様。階段を走りながら駆け下りては。先月もこれで大怪我をなさったんですから。」
「はぁい。あしたからきをつけまーす」
やる気のこもっていないまりなの返事に、メイド服姿の少女は少し顔をゆがませ、きつい口調でもう一回注意を促した後、呆れるようにしてため息を尽きながら階段を上ろうとした際に、僕に気づいたらしく、
「あ。これはこれは。始めまして。挨拶が遅れました。ここの邸宅でメイド及びまりな様の世話係をしています、みつきと言います。どうぞよろしくお願いします。・・・・・・ぇと、・・・・・ゆ・・・・・・」
「ゆうちゃんだよ」
「失礼しました。ゆう様。改めて、よろしくお願いします」
と、途中まりなの助言も借りながら、懇切丁寧にお辞儀までして自己紹介をしてもらった。
「えと、僕の方も、よろしくおねがいします」
軽く会釈をする。
「それでは、私は部屋の掃除がありますので、これで失礼させていただきます。また後ほど」
一礼して、みつきさんは2階へと上っていった。後姿は、とても嬉しそうだった。
「ふぅ。それじゃああさごはんたべにいこっか(てへ)」
何故かみつきさんがいなくなった途端にまりなは安堵の息を漏らして、急ぎながら1階へと走った。てくてくと走るまりなの姿は、とても幼くて、いかにもという感じに、とても可愛らしかった。まあ、そういう僕も、まりなと大体同い年ぐらいだったが・・・・・・。
・・・・・・なんで、こんなに気が高まるのかな・・・・・・。どうしたんだろ・・・・・・たの、しいって言うのかな、多分。でも、なんでかな・・・・・・。今まで、感じたことのない、この気持ち、どうしたんだろ、本当に・・・・・・。
頭の中を駆け巡る不思議と奇妙。それらは交互に僕の思考を阻害した。
「おにぃちゃん」
「なに?まりな」
「だいすき!」
突然、まりなに抱き付かれた僕はどうして良いか分からなくなり、その場で歩みを止めた。それと同時に、頭の中をかき乱していた思考の渦も穏やかに消えていった。
「あ、えと、ごめん、おにぃちゃん。そうだったよね。きゅうにだきついつかれたらおにぃちゃんどうしたらいいかわからなくなっちゃうよね」
ゆっくりと僕から離れたまりなは、再び僕の隣に並んで、手を繋いだ。
・・・・・・・・・・・・。・・・・・・。
「おにいちゃん、あーん。ほらあーん」
「・・・・・・あ、あーん?」
気づくと、僕はまりなの為すがままにされていた。いつからだっただろうか、まりなに階段で抱き付かれてから、意識がもわもわして、気がそわそわしていた。覚えている限りの記憶をたどると、・・・・・・
「わ、きょうオムライスだよオムライス」
ダイニングに着いたまりなは、美味しそうにテーブルの上にのせてある2人分のオムライスを、今にもつまみ食いをしそうな勢いでよだれを垂らしながら凝視していた。
「えっと、これがまりなのでこれがおにぃちゃんの」
自分のオムライスプレートと僕のをそれぞれの椅子の前に並べてしばらくすると、唐突にものすごい勢いで自分のと、おそらくは僕のであろう2つのスプーンを手に取り、大ニコニコで僕をみつめた。
えっと、なに、かな?
状況をつかめていない僕をまりなは無理矢理席に座らせ、持っているスプーンですくったオムライスを僕の口の前に差し出してきた。
「おにぃちゃん。はい。まりながたべさせてあげる」
えっと、・・・・・・。
・・・・・・そして、今のこの状態へと至る。
まりなが手に持っているスプーンがゆっくりと僕の口の中へと伸びてくる。そして・・・・・・
「てへっ。おいしい?おにぃちゃん」
「ぅ、ぅん・・・・・・」
「よかった。じゃあまたいくよ。あーんして、おにぃちゃん」
再び、まりなはオムライスの入ったスプーンを僕の口へと差し出す。そうなると僕はまりなの為すがままに従うしか方法はなかった。
一目見た時から、何となく、まりなを泣かせてはいけないような気がして、きっとこれを断ったら泣いちゃうだろうなって、頭の底で微かに感じていた。
それからしばらくまりなに僕が餌付けされていると、突然まりながオムライスを僕に食べさせる手をとめ、ぼそっと、
「えっと、ねえ、おにぃちゃん。・・・・・・。・・・・・・おにぃちゃんは、ずっと、・・・・・・そばにいてくれるかなぁ・・・・・・」
そんなことをしみじみとつぶやいた。
「えっと、まりながいいって言うなら、ずっと側にいるけど・・・・・・まだ、何も、・・・・・・それに・・・・・・」
正直、何も分からなかった。分からなかったけど、何故かその時の僕には感情が無かったはずなのに、まりなが僕が側にいて欲しいという気持ちだけは、何よりも先に分かった。
「・・・・・・ぁ。ぁりがとね。おにぃちゃん。・・・・・・」
僕に抱きついた途端、まりなは微かに涙を流しながら、泣いた。僕には何でまりなが泣くのかは分からなかったけど、何故か、まりなを抱きしめなければいけないような気がして、そっと、包み込んだ。今日の朝、まりなが僕を包み込んだように。多分、今朝まりなが僕を包み込んだのとは違うと思う、けれども、まりなが幸せそうなら、それでいいんじゃないかなって、勝手に頭が考えていた。
・・・・・・。
「えっと、・・・・・・まり、な?」
気づくと、まりなは僕の腕の中で眠っていた。寝顔は、いつもの笑顔よりも、少しだけ可愛さが増えていた。
「ん。お、にぃちゃん・・・・・・だいしゅき」
寝言?かと思ったが、まりなはすぐに目を開け、僕に微笑みかけた。なんだ、寝てなかったか。起き上がったまりなは僕のほっぺをぷにぷにして、
「だいすきだよ。おにいちゃん」
頬にもう一回キスをした。今度は、さっきほど赤くはなかった。
「まりな様、おっちょこちょいですけど、よろしくおねがいしますね。ゆう様」
後ろから、見つきさんの声が聞こえた。振り返ると、みつきさんは微笑を浮かべながら、僕とまりなを見ていた。
まりなに向き直した僕は、改めて、よろしくおねがいしますと、小声で言った。