夕食を家族で囲んでいたある日、父が突然、テーブルの上に置いてあったガラスのコップを殴りつけた。

普段通り、会話もなく静まり返った食卓に突然響いたその音に、私は一瞬で体がこわばった。

当然、ガラスは割れ、父の手には小さな切り傷ができて血が

滲んだ。

その血を見た瞬間、父は血管迷走神経反射を起こし、白目をむいて倒れ込んだ。


私は呆然としながらも、心の奥底でこう思っていた。

「こんな暴力的で、アンガーコントロールが全くできず、情けない人が自分の父親だなんて、心底恥ずかしい」と。


父はいつも、何の前触れもなく突然怒鳴ったり突然物を殴ったりするので、父が近くにいるときは常に緊張状態で気が張り詰めていて、落ち着ける瞬間などなかった。


暴力的なのに、肝っ玉は超小さく、自分のわずかな血を見ただけで倒れるという無茶苦茶さも奇妙でおぞましかった。

母は大慌てで救急車を呼び、家の中は一気に騒然とした。

わずかな切り傷と血。自分で物に当たって作った切り傷から出た血を見て失神する父。

医療費の無駄。自分でガラスを殴って血が出て倒れて大騒ぎして救急車。

なんて迷惑で情けない父なんだ。

そして、その程度の怪我でパニックになって大騒ぎする母。


その時の私は、心の中で静かに「この家は地獄だ」と呟いていた。

首藤はるか