イムジャを起こし、その後ろに座り俺に寄りかからせると少し楽になったようだ。痩せた身体が痛々しい。大丈夫よ、ありがとうと俺にもたれたあなたのか細い身体を、後ろからそっと抱く。あなたの香りが愛おしい。
この頃強く抱き締めると、青アザが出来てしまうのだ。イムジャに聞いても、歳のせいよと笑って答える。また、この方は俺に心配かけまいと嘘をつく。
あなたの嘘などすぐにわかります。どれだけの時を俺達は、共に生きたと思っているのですか。
毎日風呂に入れるとき、抱き上げるイムジャの身体は…日に日に軽くなり別れの時が近いのだと、俺の心は焦り狂おしい程に締め付けられる。俺も一緒に逝っても良いですか?何度、喉元でその言葉を飲み込んだか…。
ハヌルとパダを大声で呼ぶとすぐに来てくれた。ハヌルが脈を診る。パダと顔を見合わせ、パダも脈を確かめる。二人は、下を向いてしまう。
イムジャの呼吸が浅く遅くなる。
私が居なくても…ヤケにならず寝てばかりいないで…ちゃんとご飯も食べるのよ…輝きながら生きて…そう言ってイムジャが俺に手を伸ばし頬に当てる。なんて冷たいんだ…。その手を俺の手で暖める。俺を置いて逝かないでくれ。
息をするのも苦しそうだ…パダとハヌルに俺の事を頼むとイムジャは言う。俺の心配など無用です、イムジャ。
イムジャの最後の言葉、俺は忘れません。
心にしかと刻みつけました。
約束通り、最後まで守ってくれてありがとう…本当に私は幸せだった…いつまでもあなただけを愛しているわ…チェ・ヨン…
俺も、あなたと出逢ったその時より、イムジャだけを愛しています。死してなお、あなただけを求めるでしょう。
イムジャに最後の口付けをする。
ふっと微笑みそのまま眠るように、俺の腕の中で天へ旅立って逝ってしまわれた。
冷たくなっていくイムジャをこの手に抱き、我知らず涙がとめどなく溢れて来る。口付けをして、息を吹き込めば俺の元へ戻って来てくれるかと、何度も何度も試してみたが、ハヌルに止められた。
父上…母上はもう逝ってしまわれたのです。もう、安らかに眠らせてあげて下さいとパダが言う。
そのまま、どの位イムジャを抱いていたろうか…。足から小刀を抜き、俺もこのまま…イムジャの元へと思ったが、きっとあの方はそんな俺を許して下さらぬ。
せめてあなたのかわりの形見にと、いつまでも美しかった柔らかな白髪混じりの赤い髪を一房…切り取った。
その後の事は良く覚えておらぬ。
俺は一人になってしまった…。
それからしばらくした後、死んだようにひっそりと息だけしていた俺に、夢の中でイムジャが怒りだす、約束を守らぬのかと…。また足の脛を蹴られてしまった。
俺はまた、あなたの蹴りで生き返る事が出来ました、イムジャ。
生ある限り、力強く生きて参ります。
ですが、そちらへ参った時は、またきっすをお願い出来ますか?
イムジャと共に過ごした年月を今、くるくると思い出しています。いつも横にはあなたが居た…。感謝の言葉しかありませぬ。死にゆく為に生きていた俺の人生を、こんなに心躍る温かなものに変えて下さった。
俺は武士の誓いを守れましたか?
あなたの髪を胸に抱き、早くの迎えを待ちわびる日々。
俺は本当に幸せでした。
俺の妻はかくも美しい天女である。
死してなお愛しています、イムジャだけを…。
永遠に共に…。

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