私は今、本当に幸せです。
でもね、一度だけ…たった一度だけそっちに戻らなきゃダメなのかもと思ってしまった事があるの。それが、彼のためなのかもしれないと…。
でも、それは間違いだって、彼が教えてくれたわ。一生彼と一緒に居て良いのだと…。
あの日の朝、起きたらチェ・ヨンも子供達も居なかったの…。家政婦さんに聞いたら、チェ・ヨンが子供達も連れて行ったみたいで…。今日は、のんびりお過ごし下さいってチェ・ヨンからの伝言があったわ。
その日は病院も休みの日で、突然時間が出来たから逆に悩んじゃって。何しようかなって考えてたんだけど、特にする事もないから、また町にボランティアに行こうって思ったの。
でも、その日に限って誰も居なくて…。トクマン君もテマン君も…。
歩きは危ないけど、馬なら良いかなと思って、出掛けようと思った所に、ジフ君がたまたま来てくれたの。どちらへって言うから、町に行きたいと言ったら、休みだから付き合いますよって言ってくれて、後ろに乗ってくれたの。
チェ・ヨン以外の人と馬に乗ったの初めてで、ちょっと緊張しちゃったわ。
でも彼はさすがよね。そんなに緊張しなくても大丈夫だから、寄り掛かってくれって言われたわ。モテるから言う事もスマートなのよね。
町に着いたら、みんなの病や怪我を診て回ってたの。
ひと段落ついた時の事だった…。少し離れたところにある、今で言えば洋品店かな、そこからチェ・ヨンが出て来たの…。ミンジュンと一緒に。
あっと思って声をかけようとしたら、すぐ叔母様も出ていらして…。ハヌルと手を繋いで居たわ…。そして、もう一人…。女の人が出て来たの…。その人がパダの手を…。
何がなんだかわからなくて…。チェ・ヨンはその女の人に頭を下げて居たように見えた。しばらくそのまま動けなくて…。
突然誰かに腕を引かれ、誰も通らないような細い路地に入り込んだの。そして、泣かないで下さいと抱き締めてくれたわ…私…泣いていたみたい…。誰っ?て思ったらジフ君だった…。
ジフ君が、女はそんな風に泣くもんじゃない、もっと声を出して、文句を言いながら泣いてくれって。私、自分でも気付かないうちにボロボロ涙が出てたみたい…。見てるこっちが辛くなるから、今日は俺の胸を貸しますから…。それに医仙様があそこで泣かれては、目立ち過ぎますって。
きっと医仙様、何かの勘違いですよ、大丈夫です。あの医仙様しか見えてない大護軍なんですからと…。
私もそう思うわ…でももし私がここに居なければ、彼にはもともとの運命の人が居たはず…。なんかそう思ったら突然、私がここにいたらいけない気がして来たの、お母さん…。
ジフ君にお礼を言ってその後…馬に乗って天穴へ行ってみたくなって…開いていないのは知ってるわ。でも、そこへ向かおうとしたの…。そしたらジフ君が馬に飛び乗って…。危険なので一緒に参りますって。
ジフ君…チェ・ヨンに怒られるわよって言ったら、このままお一人で行かせた方が怒られますからと…ジフ君たら、この時スリバンに言って、チェ・ヨンに連絡が行くようにしていたみたいね。
トクマン君とは違うのよね。仕事は抜け目なく、きちんと出来るタイプ。
私ね、天穴に向かう間もずっと泣いていたみたいなの…心が苦しくて痛かったのは覚えてる…。何も考える事が出来なくなって…。さっきの光景が何度も頭をよぎるの…。ジフ君が袖口で何度も涙を拭ってくれてた…。
彼、多分わざと馬をゆっくり歩かせていたのね。すぐにチェ・ヨンがチュホンに乗って追いついて来たの…。
チェ・ヨンが、隣に並んで、こっちに移るように言ったわ…。でも下を向いて首を振るのが精一杯…。涙がこぼれ落ちた。胸が苦しくて…。
チェ・ヨンに腕を掴まれたから振りほどこうとしたけど、彼の力には叶うわけがなくて…。結局チュホンに移動させられ、後ろ向きに座らされて…。
下を向いて居たら、手を繋いでくれて…俺が信じられませぬかって。首を振ると、じゃあなぜ天穴になど?ってぎゅーって手を握りながら聞いてきた。
ちゃんと話さなきゃと思ったの。お母さん…。
泣き過ぎてチェ・ヨンも、良くわからなかったかもしれない。でも話さなきゃいけない事は言えたと思うの。
さっき、女の人と一緒だったあなたを見た…。叔母様も居たし疑っているわけじゃないの。ただ、私がこの時代に来なければ、もともとのあなたの奥様になるはずだった人が居て、あなたも全く別の人生を歩んで居たのかもって気付いたら、私はあなたとこのまま一緒にいても良いのか、私はあなたのなんだろうって思って…。天穴に行けば答えがわかるかもと…。
また怒られると思った。でもチェ・ヨンは優しく抱き締めてくれて…。あなたは俺の全てです。イムジャが天穴をくぐりたくば、俺も一緒に子供達を連れてくぐるまで。あなたの居ない世など、なんの未練もありませぬ。ただそれだけです。わかりましたか?さぁ、もう家に帰りましょうってジフ君が居るのにキスしてくれたわ。涙でグチャグチャの私に…。
家に帰ったら、叔母様がいらして。チェ・ヨンと子供達が私に誕生日プレゼントをくれたの!かんざしと服よ。その時子供達も同じ服を着ていたわ。
いつも、イムジャは子供とお揃いが…と言うので、今日一緒に連れて行き、急ぎ作らせました。一緒におった女子ですが、丁度イムジャと背格好が同じ位の武閣氏がおったので、叔母上に頼んで来てもらったのですって……
叔母様が居たのに彼に抱き付いてキスしちゃったわ!チェ・ヨンにサプライズプレゼントもらえるなんて…
本当に嬉しかった。プレゼントももちろんだけど、彼の気持ちが…また、泣きそうよ、お母さん。
愛おしいって涙が出るわね…。
もうミンジュンも12歳になったわ。私の背を追い越されそうよ!チェ・ヨンに似てるからとても大柄なのね。顔はね、内緒だけどチェ・ヨンより良い男かもしれないわ。12歳にして恋文が毎日届くわよ、ふふ。また、手紙書くわね!
1371年3月 ウンス
ーあの子はまた、チェ・ヨンさんにご迷惑かけて…昔から思い込んだら突っ走る所があるから…。良い所でもあり、悪い所でもあるわね…。
ーあぁ、でも本当に幸せそうだ…。ウンスの居ない世に未練はないと、あの有名な大将軍様が…。ウンス…良かったな。

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