朝が来た。大量服薬したためずっと眠っている。たまに起きても記憶が定着しないまままた寝ている。今日は何日か、何曜日かもよくわからない。とりあえず分かっているのは今日主治医からの説明があるということ。11時半からということでその時間にDちゃんが来ると言っていた。ということは今日は仕事を休んでいるのだろう。悪いことをしているな、と少し思ったが元凶はDちゃんにあると思い直して何も考えないことにする。
朝から採血。刺されるのってこんなに痛いのか、と思う。点滴のルートも手関節付近に入っていたので手を動かすとなかなか痛い。患者の気持ちを知る。朝御飯も思ったより味が濃くてびっくりした。薄味とばかり思っていたから。おぼえてられないのでとりあえず写真を撮った。

11時半になり、Dちゃんから着いたよ、とメッセージ。デイルームに行くと居た。大丈夫?と体をさすってくれる。この人なりに心配してここに来てくれたのだろう。仕事もかなり休んでくれているし、色んな思いがあるけれど素直に受け取ろうと思う。そうこうしていると主治医が来て説明をしてくれた。病名は急性薬物中毒。搬送された時から今までの血液データも見せてもらったけど、落ち着いていてほっとした。Dちゃんは後遺症の有無、飲んではいけない薬はあるのか、など細かく聞いていた。やっぱり心配してくれているのか、と感じる。
そして退院が決まった。点滴を抜いてもらって、持ってきてもらった服を着た。まだ少しふらつく体をDちゃんに支えてもらって支払いへ。6万円近くかかる。きつい。母にも電話した。心配してくれていたけど、来なくていいと伝えた。Dちゃんと話し合って、どうしようもなければ来てほしいと言った。分かってくれる母で良かったと思った。
携帯を見るとたくさんのメッセージが入っていた。仕事の件、今日は月曜日だ、しまった、と思ったが何だか話が通っている。後からDちゃんに聞くと私の鞄から診察券を探して入院した旨を伝えてくれたそうだ。助かる。しかも今週はお休みさせてもらえるとのこと。一番仲の良い先輩にだけ真意を話しておいた。口も固くて信頼できる先輩だから。しかしDちゃんは私の両親には伝えていないようで…言いようがないか、と納得するしかなかった。
そして長い長いメッセージがDちゃんから届いていた。まだ頭がぼんやりしていたので後から読むことになるのだけど、真摯に今回のことに向き合っていてくれたようだ。またゆっくりと話をしたいと思う。そしてそうこうしていると携帯の電源が切れる。ギリギリに連絡しておいた親友Rが仕事帰りに届けにきてくれた。本当に助かった。会えなかったけど。後日お礼をしたい。Rは私の弟にコンタクトを取って、私の母に連絡してくれていた。焦った電話が母から来る。ここはDちゃんがすべきだろうと心から思う。まぁ言えないか、とも思う。葛藤する。
Dちゃんは今日も明日も休みを取ってくれたようだ。先週の葬儀からすると長い休暇だ。この休暇の間に私のことを真剣に考えてくれるのだろうか。また離婚を言い出すのだろうか。
もし言い出すのなら、次こそと思う。
飲んでからは最後だと言わんばかりにDちゃんにお礼を述べた。嫌だったことも伝えた。お金なんて欲しくなかった、そんなことより早く帰ってきて一緒に笑い合いたかった。友達の家が羨ましかった。対等に話せるようになりたかった。お金を稼いだ方が偉いなんて言われたくなかった。私があなたと結婚したのは、仕事でつらいあなたを支えたかったから。プロポーズしてくれる男性だって本当はたくさんいた。看護師だから一人でも生きていけた。それでもあなたのためになりたかった。

ここでぶつりと記憶は途切れている。

目が覚めたときは知らない天井だった。右手首には点滴が入っていて、紙オムツがはかされていた。私の下着はどこにいったのだろう。もちろんDちゃんもいない。ひとりだ。ここはどこだ。そして何で私は生きているんだ。動こうとして起き上がると看護師がやってきた。胸元に転倒虫(呼び方は沢山ある。動いて服から外れるとナースコールが鳴る仕組み)が着いていて外れたようだ。心臓付近には心電図もついていた。付き添われながらトイレへ。真っ直ぐ歩けない。足が縺れる。時計を見た。薬を飲んでから16時間が経っていた。どうして私はここにいるんだろう。
ベッドに戻ってしばらくすると看護師がやってきた。「覚えてる?」と聞かれたけど全くわからない。「あと1時間遅れていたら死んでたのよ」と言われた。何でもDちゃんが救急車を呼んでくれたようだ。何も覚えていない。
だんだん意識がはっきりしてきた。家近くの病院にいるらしい。親友Nのアドバイスに沿って覚えてることを書こうと思う。
Dちゃんと喧嘩したんだった。しかも内容が楽しく昼食食べてた時に不意に無言になって「不幸な気持ちになった」とか言い出したんだ。どうしようもないし、私に落ち度もない。何で楽しい時間を相手に台無しにされなきゃいけないんだ、と怒る。家に帰ってからも怒る。全部の予定をふいにされたから。そうしたら逆ギレされて「もうやっていけない。我慢できない。離婚だ、終わりにしよう」と言われた。ああ、もう無理だと思った。どれだけこの人に心を砕いても寄り添っても、意味がないんだって。
お守りのように持っていたフルニトラゼパム10錠(20mg)を一気に飲む。これはアメリカでは危険なため販売が禁止されている。日本でも麻酔のようにしか使われない。以前不眠で大変だった時にもらった薬だった。その時ですら1錠飲んだだけで電車に乗れば終点まで辿り着くのを3回繰り返し、家に着いてからも3時間記憶がない。家の中はぐちゃぐちゃになっていた(おそらく片付けをしようとしたんだろう)。
危険な薬なのは分かっていた。何度も握り締めて泣いたことがある。でもこれを飲んだらどうなるかわからなくて、飲めなかった。それでも今回はどうしようもなかった。Dちゃんに心を砕いて寄り添ったつもりだった。それでも離婚だと言われるならもういい、と思った。
フルニトラゼパムを20mg飲んだ。しぬつもりだった。気づいたら救急車にのって、目覚めた時には知らない病院で点滴とおむつと心電図がついていた。ここはどこなんだろう。フルニトラゼパム20mgで死ねなかったのか。しにたかった。
今日は何曜日だったんだろう。もう、疲れた。