古いファイルを見ていたらカナダに来てすぐの頃に書いたものが出てきた。
懐かしいなぁ。昔はもう少しものを考えていたんだなぁ…と懐かしかったので記録のために転載します。
----
TELUS World of Science Calgary(通称サイエンス・センター)にて森林関係のイベントがあり、州から環境保護課がマウンテン・パイン・ビートル(Mountain Pine Beatle、MPB。通称パイン・ビートル)や森林火災等についての展示をしてくださった。
パインビートルはカナダで猛威を振るっている松枯れの原因。ブリティッシュ・コロンビア(BC)州を中心に問題となっており、ここアルバータ(AB)州でも被害の大きさとあわせて時々新聞をにぎわせている。
松枯れの原因であることとパインビートルの名前から、勝手に日本の松枯れの原因となっているマツノマダラカミキリと同種だと勘違いしていた私は、展示されていたパイン・ビートルをみて驚いた。
「なんだ、この小さな鼻の短いゾウムシのようなやつは」
話を聞いてみると日本とは原因となる生物も違えば被害の様子も違う。
日本の松枯れがマツノマダラカミキリが運び屋となっているマツノザイセンチュウという線虫による病害であるのに対し、パインビートルはシロアリのようにマツ材を食べて枯死に至らしめる、言わば食害なのだそうだ。
従って対処法も違ってくる。
日本では下刈りや栄養剤の注入などでマツの抵抗力をあげようとする方法を聞いたことがあったが、もしも枯死の原因が食害であるならばこの方法は使えまい。原因となる虫の駆除が中心になるのもうなずける。
本題に入る前にカナダでの森林管理の背景に触れる。
カナダでは森林は州の財産であるという考えから、森林保護などのマネジメントは国レベルの事業ではなくて州レベルの責任である。
つまり州による独自のプラン・研究・調査・対策があるために州を超えた協力という話になりにくいとのことであった。
森林をどう使うかを考えていればよかったときには州の状況を踏まえた臨機応変な対応ができるとして歓迎される方法ではあるが、パイン・ビートルのような話になると国レベルでの一貫性のあるプランが必要になるのではないか、との感想が上がっていた。
さて、実際に話を聞いて感じたのは、アルバータ州では何故この病気が発生したかの原因を追究する事よりは、どうすれば蔓延を防ぐ事が出来るのか、どう森林を回復させるか、ということを第一に考えているということであった。
これはBC州との状況の違いからくるのではないかと思う。アルバータ州もパイン・ビートルの被害を深刻に受け止めてはいるもののBC州ほどの被害が出ないのも事実である。
これはひとえに冬の気温の違いにある。
アルバータ州では冬の気温は-15℃前後であり、時に-30℃になる事もある。パイン・ビートル は-15℃が2週間以上連続すると死ぬといわれおり、そのため冬も比較的暖かいBC州(東京の冬と変わらない)のように越冬した虫による被害が少ないのである。
そうであるからして、季節的・短期的な対応で良いと捉える事になるために、対処療法で充分であるという意識に繋がるのかもしれない。
今年(この記事を書いた2008年当時)になってパイン・ビートル が問題になっているのは、昨冬が暖冬で-15℃が連続する事が少なかったので成虫が充分に死ななかったためとのこと。
ということは、冬が温暖でパイン・ビートルが越冬するようなBC州では基礎研究にも力を入れているのではないか、というのが私の予想ではあるが、実際のところはどうであろうか。
職員の話によると、パイン・ビートル対策は3つのパートに分けられる。
1. 調査
虫の成長段階に合わせて何度か行う
2. 駆除
薬剤散布をすることもあるが、基本的にはダメージを受けた木を燃やすようだ。もともとビートル駆除とは別に森林の管理のために人口山林火災を起こすので、それに松枯れ被害の状況を加味して検討しているというところか
・ 植生回復(植樹)
調査は州の調査機関とアルバータ大学、カルガリー大学との共同で行われているとのこと。
植樹の話が出たところで、単一の植生が病気の蔓延の原因になっているのではないかという質問をぶつけてみた。
畑にしても水田にしても、単一の種が多く生息する場所では、それに壊滅的な被害を与えるような病気が発生するのは常ではないのか。
種の多様性がないために被害が広がりやすい上にダメージも深刻になるのではないか。
もしも単一の植生が病気の蔓延の原因ならば、植生回復といって松を中心に植樹をするのはいかがなものか。
そもそもアルバータの自然な植生はマツなのか。
遷移の最終段階は何だと考えるか?
彼らによると、単一の植生が「パイン・ビートル発生の原因」かはともかくとして「被害蔓延(森林破壊)の一因」であろうことは話題になっているとの事。
また、アルバータ州の森は基本的にはラーチ(カラマツ)とあと一種類(英語力不足により聞き取れず、時間の関係で再確認できず)あると思われるので植生調査をすすめ、亜高木・低木層の状況を踏まえた何種類かがミックスされた植栽を検討しているとのことであった。
森林火災が自然現象(アルバータ州での森林火災の半数以上は落雷が原因)なのと同じく、パイン・ビートル も自然の営みの一部である以上、完全撲滅は期待していない。
それよりも、これが植生やその遷移にどういう影響を与えているのかを今後の調査もあわせてみていきたい、と更なる目標を示された。
完全撲滅を考えていない、自然保護と保全は違うのだ、何が自然かは人が何を期待するかとは違う次元の問題なのだ、と言う職員の姿は私には眩しく映った。
こういう道もあったのだよなぁ…でも、そうするとカナダには来てなかっただろうな。
職員は若い女性だったのだが、こういう若い人が真剣にこの問題に取り組んでおり、バランス感覚を伴ったものである事が感じられ、アルバータ州の森林管理の将来は明るいと思った。
さて、日本の森林管理の状況は如何であろうか。
こちらは今回いただいたGovernment of Alberta / Sustainable Resource Development のWebsiteアドレス。
-------------------
リンクは現在はなくなっていました。州の政府が変わってから無くなったのか、移動しただけなのか?
現在はAgriculture and Forestryのサイト でパイン・ビートルについて見られるようです。
この記事を書いてから、すっかりこの問題から遠のいていたので、現在の様子はわかりません。そのうち時間を作って現状についてみてみたいと思います。
いまは国レベルの対策がとられているかもしれないですね。
こちらはNatural Resources Canadaのサイトより借用したパイン・ビートルの写真です。
そしてこちらは小諸市のサイトより借用したマツノマダラカミキリ(日本のマツクイムシ)の写真。
懐かしいなぁ。昔はもう少しものを考えていたんだなぁ…と懐かしかったので記録のために転載します。
----
TELUS World of Science Calgary(通称サイエンス・センター)にて森林関係のイベントがあり、州から環境保護課がマウンテン・パイン・ビートル(Mountain Pine Beatle、MPB。通称パイン・ビートル)や森林火災等についての展示をしてくださった。
パインビートルはカナダで猛威を振るっている松枯れの原因。ブリティッシュ・コロンビア(BC)州を中心に問題となっており、ここアルバータ(AB)州でも被害の大きさとあわせて時々新聞をにぎわせている。
松枯れの原因であることとパインビートルの名前から、勝手に日本の松枯れの原因となっているマツノマダラカミキリと同種だと勘違いしていた私は、展示されていたパイン・ビートルをみて驚いた。
「なんだ、この小さな鼻の短いゾウムシのようなやつは」
話を聞いてみると日本とは原因となる生物も違えば被害の様子も違う。
日本の松枯れがマツノマダラカミキリが運び屋となっているマツノザイセンチュウという線虫による病害であるのに対し、パインビートルはシロアリのようにマツ材を食べて枯死に至らしめる、言わば食害なのだそうだ。
従って対処法も違ってくる。
日本では下刈りや栄養剤の注入などでマツの抵抗力をあげようとする方法を聞いたことがあったが、もしも枯死の原因が食害であるならばこの方法は使えまい。原因となる虫の駆除が中心になるのもうなずける。
本題に入る前にカナダでの森林管理の背景に触れる。
カナダでは森林は州の財産であるという考えから、森林保護などのマネジメントは国レベルの事業ではなくて州レベルの責任である。
つまり州による独自のプラン・研究・調査・対策があるために州を超えた協力という話になりにくいとのことであった。
森林をどう使うかを考えていればよかったときには州の状況を踏まえた臨機応変な対応ができるとして歓迎される方法ではあるが、パイン・ビートルのような話になると国レベルでの一貫性のあるプランが必要になるのではないか、との感想が上がっていた。
さて、実際に話を聞いて感じたのは、アルバータ州では何故この病気が発生したかの原因を追究する事よりは、どうすれば蔓延を防ぐ事が出来るのか、どう森林を回復させるか、ということを第一に考えているということであった。
これはBC州との状況の違いからくるのではないかと思う。アルバータ州もパイン・ビートルの被害を深刻に受け止めてはいるもののBC州ほどの被害が出ないのも事実である。
これはひとえに冬の気温の違いにある。
アルバータ州では冬の気温は-15℃前後であり、時に-30℃になる事もある。パイン・ビートル は-15℃が2週間以上連続すると死ぬといわれおり、そのため冬も比較的暖かいBC州(東京の冬と変わらない)のように越冬した虫による被害が少ないのである。
そうであるからして、季節的・短期的な対応で良いと捉える事になるために、対処療法で充分であるという意識に繋がるのかもしれない。
今年(この記事を書いた2008年当時)になってパイン・ビートル が問題になっているのは、昨冬が暖冬で-15℃が連続する事が少なかったので成虫が充分に死ななかったためとのこと。
ということは、冬が温暖でパイン・ビートルが越冬するようなBC州では基礎研究にも力を入れているのではないか、というのが私の予想ではあるが、実際のところはどうであろうか。
職員の話によると、パイン・ビートル対策は3つのパートに分けられる。
1. 調査
虫の成長段階に合わせて何度か行う
2. 駆除
薬剤散布をすることもあるが、基本的にはダメージを受けた木を燃やすようだ。もともとビートル駆除とは別に森林の管理のために人口山林火災を起こすので、それに松枯れ被害の状況を加味して検討しているというところか
・ 植生回復(植樹)
調査は州の調査機関とアルバータ大学、カルガリー大学との共同で行われているとのこと。
植樹の話が出たところで、単一の植生が病気の蔓延の原因になっているのではないかという質問をぶつけてみた。
畑にしても水田にしても、単一の種が多く生息する場所では、それに壊滅的な被害を与えるような病気が発生するのは常ではないのか。
種の多様性がないために被害が広がりやすい上にダメージも深刻になるのではないか。
もしも単一の植生が病気の蔓延の原因ならば、植生回復といって松を中心に植樹をするのはいかがなものか。
そもそもアルバータの自然な植生はマツなのか。
遷移の最終段階は何だと考えるか?
彼らによると、単一の植生が「パイン・ビートル発生の原因」かはともかくとして「被害蔓延(森林破壊)の一因」であろうことは話題になっているとの事。
また、アルバータ州の森は基本的にはラーチ(カラマツ)とあと一種類(英語力不足により聞き取れず、時間の関係で再確認できず)あると思われるので植生調査をすすめ、亜高木・低木層の状況を踏まえた何種類かがミックスされた植栽を検討しているとのことであった。
森林火災が自然現象(アルバータ州での森林火災の半数以上は落雷が原因)なのと同じく、パイン・ビートル も自然の営みの一部である以上、完全撲滅は期待していない。
それよりも、これが植生やその遷移にどういう影響を与えているのかを今後の調査もあわせてみていきたい、と更なる目標を示された。
完全撲滅を考えていない、自然保護と保全は違うのだ、何が自然かは人が何を期待するかとは違う次元の問題なのだ、と言う職員の姿は私には眩しく映った。
こういう道もあったのだよなぁ…でも、そうするとカナダには来てなかっただろうな。
職員は若い女性だったのだが、こういう若い人が真剣にこの問題に取り組んでおり、バランス感覚を伴ったものである事が感じられ、アルバータ州の森林管理の将来は明るいと思った。
さて、日本の森林管理の状況は如何であろうか。
こちらは今回いただいたGovernment of Alberta / Sustainable Resource Development のWebsiteアドレス。
-------------------
リンクは現在はなくなっていました。州の政府が変わってから無くなったのか、移動しただけなのか?
現在はAgriculture and Forestryのサイト でパイン・ビートルについて見られるようです。
この記事を書いてから、すっかりこの問題から遠のいていたので、現在の様子はわかりません。そのうち時間を作って現状についてみてみたいと思います。
いまは国レベルの対策がとられているかもしれないですね。
こちらはNatural Resources Canadaのサイトより借用したパイン・ビートルの写真です。

そしてこちらは小諸市のサイトより借用したマツノマダラカミキリ(日本のマツクイムシ)の写真。
