土屋産婦人科
とりあえず、検査ということで、家から一番近い産婦人科に行くことにした
以前にも来たことがある
―おふくろが、”琴子が妊娠した”と、確かめもせず大騒ぎした時だ―
待合室の長椅子
うつむいたまま一言もしゃべらない琴子
こういうときのこいつは…
「…ねぇ 入江君…」
琴子が、少し顔をあげてゆっくりと話し始めた
「…あのね …またね また今回も」
「違ってたら?」
何を考えているかは、すぐに想像できた
「えっ?」
長椅子に座って初めて琴子がおれの顔を見た「ちょっと考えたらわかるよ おまえの考えそうなことくらい」
ため息をひとつついて
「またおふくろ達をがっかりさせるんじゃないか… 最悪を考えたんだろ? …まだ結果も聞いてないのに」
…そう
琴子はそういうやつだ
自分のことより、いつも周りのことを優先して考える
今回も
―「おまえ 妊娠してないか?」―
このおれの言葉は、琴子にとって嬉しい一言だったに違いない
その証拠にここに来るまでの道のりは、笑顔が絶えなかった
(『惡作劇2吻』最終回のビデオ撮影のシーンをご想像ください…←このシーン、とっても好きです)
ここに来て、この長椅子に座ったとたん、琴子の顔が
笑顔だった琴子の顔が、一瞬でくもった
何を考えているかなんて、すぐにわかった
今回も、妊娠しているかもしれないという、自分にとって嬉しいことよりも、おふくろ達の気持ちを優先したに違いない…
…おれは、琴子の顔をゆっくりと覗き込んだ
そして、言ってやった
「このおれが確信したんだぜ」
おれの言葉を聞いて琴子がゆっくりと目を閉じた
そして…
「わたしすっごく安心した ありがとう」
この長椅子に座って初めて琴子がほほ笑んだ
―琴子を安心させてやりたかった
自分のことより、おふくろ達のことを想ってくれる琴子を
いつも自分のことよりも、俺たちのことを想ってくれる琴子に
…笑顔でいてほしい
とは、口に出してはとても言えそうにないけどな
「入江さん 入江琴子さん」
診察室から、看護婦が琴子を呼ぶ声がした
つづく