「乾杯!」

 今年の10月30日は休日だった。この記念日に、都市の中に位置する居酒屋の外の広場で、総勢数十もの「彼ら」は集い。各々の前に置かれた大ジョッキ……ならぬ、酒樽に頭を突っ込んでビールを飲み、みな一気に樽を空けた。

 直ちに次の酒樽がみなの口元に運ばれる。肴は野生の獣のあぶり肉だ。みな豪快にかぶりつく。それぞれ地に伏せ、両翼をたたんで優雅に長躯をしならせる。

 ふだんはマスターに従い私情は挟まない「彼ら」も、このときばかりは酔いが回ってくると饒舌になっていた。

 

「我が名はシザーズ……わたしがいちばん活躍している飛竜ではないかな?」

 と、両の翼を広げ余裕でいうと。周りから賛同を認める嘆息の声がいくつも起こった。しかし、一騎が物柔らかにいう。

「ええ、わたしとの一騎打ちでは負けましたがね」

「ふん、ブレードか。おまえはそういうがな、戦闘でもっとも重要なのは速度なのだ。進退の主導権を握れる、決定的な力だ」

「それをいうなら」割って入る快活な声。「シザーズ、あなたはわたしにはかないませんよ、七割方は……ああ、わたしはニードル。過去多々の竜騎兵に愛されました」

「恐縮ですがね、もし決闘するのであれば……」ブレードはおどおどといった。「ニードル、シザーズ。あなたたちはわたしには及びません。背に抱く竜騎兵さえかのような勇者なら」

 これに笑うシザーズだった。「仕込み杖の軍士、ソードケイン卿ダグアだな。たしかに我はかなわなかった……あの最高位の撃墜王、レイピアの技量ですら」

「あのとき……逆が生き残れば歴史は変わったでしょうね。ダグアはわたしからあなたに乗り換え、そして悪鬼との決戦に打ち勝ち魔剣と飛竜を封印した」

 ニードルは思わしげだ。「そうでしたか……その戦役にはわたしは参加していませんね。ただ二振りの魔剣誕生と、時の鎖の断ち切りには立ち合いました。光栄です」

 かぶりを振るブレードだった。「魔剣フレイムタンとアイシクル誕生は、同時に王国建国の戦いでもありましたね。あの戦争は壮絶なものでした。それに比べたら、決闘前のシザーズとの連携作戦など児戯に過ぎません」

 シザーズは意に介さないようだ。「ふふ、わたしなど誕生時は飛竜最高傑作と称賛されたものだ。あのときの最初のマスターは剣崎涼平。次に新庄真理だったな。融合絽の惨劇後は……ペオース・ウィンも好きマスターだった。騎士ジャッジ・エアフリートも」

 ニードルも懐かしんでいる。「ジャッジですか。かれがジャンクと呼ばれていたころは、かれはわたし一騎で空賊団に戦いを挑んだものです。それからティナお嬢様や才色兼備のソングも」

 ここまで無言だった巨竜アクスもやっと口を出した。「才色兼備、か。わたしのマスターは美形が多い。太刀の女騎士シャムシール卿フレイルや真理の賢者トゥルース、それからチャクラムちゃんやサーナママ……」

 ブレードは意地悪くいった。「なぜあのひとりを無視するのです? シャドーではない方」

「郷士ブラジオン! かれは最悪だ。忘れようとしていたのに……」

 どっと一同は爆笑した。と、一騎が口をはさんだ。

「わたしはスレッジ。まあ不相応な乗り手がいましたよ、横島直人……あいつはいけない」

 と、ここで新たな一騎が疑惑げだ。「え? 邪な男ですか? かれは義理を知る戦士でした。戦術には長け……常に味方の退路を確保する。わたしはゴースト。邪鬼は懐かしい……」

 うなるシザーズだった。「ふむ、涼平と対照的だな。涼平は負けが見えても味方が全員退却するまでは前線に留まる」

 ブレードは断言した。「速度にやや劣るわたしは、退路など考えません。戦い抜くのみ」

「ほう、強気だな、めずらしく。酔いが回ったか?」

 アクスがフォローする。「違う。わたしやブレードのように、速力に劣る竜に選択権はないのだ。しかしその分わたしは攻防両面に勝る」

 ニードルは寂しげだ。「それらの……各々の竜の特性を最大限に引き出してくれたのは、博徒にして商人、カスケードでしたね。他にもいますが、彼ほどではない。夭折が悼まれます」

「死、か。人間には限界がある。限られた、それでも大きな意志を貫いて人生。しかしわれらに寿命はない。今日はとことん飲もうではないか!」

 

     (終)