陸上の川や池の水場に棲む動物としてもっともヒッポは危険である。巨大にして凶暴であり、おまけに傲慢だ。
 強靭な肉体と人間並みの知性を持ちながら、醜いゆえに己を世界でいちばん不幸と信じており、幸せに生きている(と、ヒッポが勝手に信じる)ほかの生き物を憎しみ、復讐の衝動にいつも駆られている。
 普段は魚か小動物(ワニを含む)を食べるが、その口はとても大きく、大食いどころか獲物を丸呑みにする。人間くらい一口だ。
 この獣に関してのとある文献からの、光に当てると石になるとかいう説はでたらめだが、夜行性ではないにせよヒッポの朝は遅い。石には及ばずとも身体の皮革はとても分厚く硬いし。
 現状の不満と過去の愚痴と未来の不安ばかりつぶやきいつも不機嫌だ。この性格がヒッポを孤立した境遇に置いている……ことに、ヒッポ自身はまるで気づいていない。
 おまけに倒錯した宗教を信じ込んでいる。それにより、己がとても偉いと自負し、疑わない。救いがたい魔物である。