(2016/3/25 初記)

 ふさふさした茶色い毛並みの美しい愛玩動物に思えて、公星は育ちすぎである。なんと人間の背丈ほどあり、ずんぐりむっくりしている。単独行動をとることも、四天王と呼ばれる四体で動くことも、あるいは無数に繁殖するとも、目撃談ではされる。
 この獣の知性は極めて高い。各種の学術並びに、芸術、武術……果てには魔術に長ける万能主義だ。人間でいうなら自給自足の農耕をしながら、賢者であり技師であり画伯であり詩人であり戦士であり、なにより魔法使いだ。人語を解し性別年齢不詳のキューキュー声で話す。
 きれい好きで砂浴びでいつも身体を清め心地よい太陽のにおいのする毛皮に包まれている。各種の趣味が大好きで、自己の錬磨に余念がない。
 温和で愛の詩の歌唱が得意で、荒廃した無秩序な世の中に心を痛め、調和のかけ渡しに常に気をもんでいる気高い性格なのだ。昼間はおとなしく朴訥だが、夜になると饒舌な流しの楽師と化す(単に夜行性との説もある)。
 しかし怒らせると極めて比類ない剛毅な戦士となりうる。公星の肉球の手の拳撃は強烈な上技量巧みで、勝てるのは生来の天敵、猫だけである。猫といっても人間以上の大きさ……実質虎くらいでなければ公星は倒せない。
 そんな公星は極めて友好的で、人間の仲間とともに一団を結成し、世の中の邪悪と欺瞞に立ち向かった英雄譚すら記録に残されている。
 肉は極めて美味であると知られ、これを狩ろうとして返り討ちに遭い、自滅した人間は多いという。
 ふだんは砂浜や砂丘に住んでいるが、時には人間の皮をかぶり人に化けて人里を闊歩するとも賢者の伝えには聞く。
 この獣についての情報はまだ謎に包まれている。これからの究明が待たれるところだ。