誰もがしっていそうで知らない事実。旧世紀1999年、日本の秋葉にアンゴル・モエの大王が降臨し既存の七大邪悪に新たに加わった。

 ひとたび足を踏み入れたら帰れない世界、それが萌えの道……八番目の、そして最強の邪悪。この力の前には誰しも逆らえない。

 とにかくその年に生まれた女の子が漢語で八の八、●●の歳(自主規制)になる今年のハロウィンといえば……

 

「トリックオアトリート!」

 と、くぐもった声。自宅で一人いたずらを考えていた天下無双の魔女っ娘、千秋(ちあき)の携帯の検索エンジンに誰何が走った。個人認証……千秋は驚いた。

 まさか魔王を上回る能力だなんて!? ……こんな数値で引っかかるのは世界広しといえどかれ、時雨(しぐれ)さましか……

「やあお久しぶりです、千秋さん。最近私も出番少ないですね。」

 あ、こいつがいたか。人間サイズのハムスターのスター、公星(きみほし)ちゃん。無人島に一人連れていくなら、絶対にこの子よね。100kgあるとされるその身体はずんぐりむっくり、美味しくたっぷり食べられそう。

「お久しぶり! ハムちゃん、今夜は大勢集めてパーティーにしましょうよ。だからその前にお風呂入ってね」

 公星は快諾して湯船につかった。絶好のチャンスである。

 

「……このお風呂なんか好い香りがしますね、硫黄の……え、温泉卵ですか。なるほど熱いわけだ。もう少し温度下げていただけませんか? このままでは私のぼせあがってしまいます」

「もちろん、ゆであがるのを待っているの」

「そうですね、温泉卵いただきましょうよ」

「ハムちゃんといっしょにね」

「楽しく夕食できそうですね」

「ハムちゃんはいい子よね、いままで怒ったことないのかな」

「怒りは憎しみにつながり、自分自身を傷つけるものですよ」

「さすが人……公格者ね。私なんかとは創造主の器が違うわ」

「ところでもう上がってよいですか、このままでは私火傷しそうです」

「あとしばらく火を通さないと。まあ生でも食べられるはずだけれど」

「え! まさかこんな素敵な夜に私を食べようと?! そんなひどい……」

 公星は悲痛な声を上げると、湯船から出ようとした。しかしむろんその巨体は拘束済みである。

 

「ハムちゃん、別れは言わないわ。みんなの血と肉になるんだものね!」

「そんな……私は大火傷を……おおやけど……拙者は……まだ……」

 ここで公星は全身に気合をいれていた。そして一喝。「公怒! はむすたあ・なっこう!」

 ズ……ドゴゴゴゴ……   地の底をゆるがすような衝撃波と爆音がとどろいた。

「鮮烈屑流閃! 天上天下唯我独尊剣! 苦く切ない悲しみの……ジャイアンぐ・フィンガー! 燃えた拳でハムスター公星拳!」

 叫ぶハムスターの繰り出す鉄拳……もとい、肉球の手とともに、千秋宅は砕け散った。木っ端みじんである。というかすごい破壊力。半径50mはクレーターと化した。

 

 後の祭り……公星は自由を勝ち取り去っていった。ああ、せっかくのハム肉パーティーが……

 しかし無敵の超能力者(だから無傷)の千秋は楽観的である。

「家壊れちゃったから、時雨ちゃんの家に泊めてもらおう。絶好の口実よね♪」

 ちなみにその後「無辜の罪なき民家」を破壊したハムスターが指名手配されたが、平和に慣れされた市民のみんなは警察のマスコットキャラクターと信じて誰も警戒しなかった。

 

 (終わり)