銀河英雄伝説。アニメにも漫画にも宝塚歌劇にもなったこの傑作は、主人公とされるラインハルトが『常勝の天才』で、ライバル役とされる敵のヤンが『不敗の魔術師』と呼ばれる。
これについて「主人公が常勝なのに、ライバルが不敗だなんてありえないだろ!」と、内容を知らずに頭ごなしに侮蔑する教師がいたらしい。とある生徒が感想文にいちゃもんつけられたとか。銀英伝読んでみれば、このジレンマがみごとに食い違わず描かれている名作だと気付くのに。
おまけに図書委員の図書室広告では、「二十歳で元帥に、二十三歳で皇帝になった銀河の王子様の物語」……とかって、決定的に誤解しているし。
たちが悪いのは、原作を知りもしないで断片的に伝え聴いただけで軽薄に嘲笑するヤツだ。リア知人に数人いるが。
オーベルシュタインやフェルナー、バグダッシュのような確信犯なら裏切り者と呼んでもまだいいが(おそらく彼らは否定しない)。しかしファーレンハイトやメルカッツ、グリーンヒルやムライにロイエンタールのような人を安易に裏切り寝返り卑怯者と馬鹿にするヤツの神経が知れない。ほんとうに銀英伝見てみろよ!
リンチを卑怯者と呼ぶのはやむないが、かといって生き残った兵士道連れに無駄に戦死したほうがいいはずもないし(だとするとヤンもそこで死んでいる!)。フォークは国を滅ぼし敵味方数千万とヤンを殺した最低とはいえ、まだまだ小物。
自称愛国者の売国奴トリューニヒトこそいちばんの悪役であることを把握していない(この悪役ぶりの徹底さには、美学すら感じられ、他の多々いる悪役がかすんで映る)のに、アニメ漫画版のルックスがかっこいいだけで、気付かない。
それでいて軽薄にラインハルトをシスコン野郎、キルヒアイスを飼い犬野郎と呼ぶのだから始末に悪い。ヤンを受け専の逃げ遅れ、アンネローゼをツンデレ女王だなんて、どんな低俗同人誌からの受け売り知識だ?
負けが見えると、猛将気取って「全軍敵艦隊に特攻せよ!」なんて放言抜かすとはパエッタ・ムーア・ゼークト並みに愚劣過ぎる。そのくせビッテンフェルトを逃走野郎の死に損ないと呼ぶなど……そいつは経済学部のはずなのだが……そこで必須科目とされるランチェスター法則くらい、工学部中退の私でも知っているぞ。戦闘シーンの一部ばかりかじり見るとこうなるのだな。
そんなヤツはおいて。さて。自称リベラル派の左翼なんかは戦記もの、と聞いただけでアレルギー反応を起こし、知りもしないのにこれを低俗な作品と決めつけるが。
この作品はむしろ自由民主共和制の理想を追い求めるのが根底にあり、銀河帝国皇帝となる野心家の主人公ラインハルトより、その気なら独裁者にもなれる実力を持ちながら、辺境の一軍人として民主制の種をかたくなに守る敵将ヤンの方がはるかに読者からの人気が高いのだ。
誤解が絶えないのはあまりの超大作だし、テーマが広く深く重すぎるからだろうか。