保存状態がよく、しかも何回も売り直されているのをブックオフで百円購入。過去ははるかむかしに図書館で借りて読んだ。

 なにをいまさら、のもはや古典だが。現代の情報化文明、世界文化の礎であり、かつ未来への指針と警告と言って過言ではない。

 サイバーパンク界の鬼才フィリップ・K・ディックの短編。名作である。読むと私のような馬鹿はパラノイアに駆られる。これはSFと位置づけられているが、否。ミステリーだろう。

 単に「殺人事件が起きました、名探偵が容疑者のトリックとアリバイを打ち破って真犯人を見つけました」、の推理小説よりははるかに優れている……との私見は偏っているだろうか。

 舞台が「風化しない」世界で、現実現代よりもかなり情報化は遅れているとはいえ、新鮮味がある。というか現代は情報化がけた外れに進んでいるのだが、それもこのような過去の偉人のおかげ。

 全体通し未来世界のディストピア感がひしひしとかかっているが……過去の偉人は今世紀の行く末を早くから危惧したのだろうか。

 これは短編なのであえてネタばらしはできない。ちなみに私は妙なデジャヴを覚え悶絶した。興味があればご一読を。八作品収録の短編集なので充実したお得感もある。

 私はここ一年、最新のSFを購読し、この先人の業績をつくづく感じた。もしなかったら、現代の情報化社会の指針はズレ、異質なものになっていたかもしれないと邪推するくらいだ。だからこそ現代の科学技術の方が過去のこうした先人のSF未来像を乗り越えたジレンマが興味深い。