おれたちの部隊は辺境の村をそっくり出払って、一大逃避行に移っていた。荷物が多すぎる反面、消耗品が少なすぎる。ひたすら歩く(部下の兵士は荷が多いからたいへんだな)その途上。
「打開策はあるのか、直人。相手はこちらの幾千倍……」
神官の涼平は、おれにしつこく聞いてくる。兵士に聞こえぬよう『聖域の場』魔法を張り外部に漏れないようにして。ちなみに場の中は幹部六名の内、この場にはおれ、涼平、真理の三人。
「兵士をまとめてついてこい。他に手はあるか?」
そう、とんだ危機だった。ついに、妖術師軍の大攻勢が始まった! ほんの一部だけで百万を超す圧倒的大多数で迫る骸骨戦士・悪鬼混成軍。窮地に立たされる女将軍千秋師団。おれこと直人は参謀として撤退戦の策を案じるが……
涼平は意見していた。
「いくら不可能はない超能力者、千秋が女将軍としてその心身のスタミナには限界があるからむしろ危うい。戦力は一個師団半の、一万を超える兵士を率いるとはいえ。これでは死の彷徨だ。食料が足らないのだ! 名誉の戦死以前に餓死の恥辱を浴びるぞ」
そう。飢えた兵士と村人抱えてよろけて歩き、敵に襲われる間もなく共食いの自滅で野たれ死んでしまうのが見えている。
しかし……どうみても真理は対策があると確信している。これは理解しがたい。どこかに秘密の補給倉庫でもあるというのか?
真理の意図はまさにそれだった。軽く言い放つ真理。
「絶好のリゾートが待っているわよ。城塞都市ケネロー」
ここで映像が虚空に表示された。映るは灰色の高く幅広く頑強そうな外壁……視野はその外観をひとしきりぐるりと見せながら、真理は解説した。
……鉄壁の要塞。辺境最大の独立城塞都市ケネロー自治領。人口数千名の小さな町だが、その女子供老人含むすべてが自警団。外へ向け火砲その他により恐ろしく堅牢な守りを備え、しかも駐屯地として、兵士三個師団は入り半年は維持する設備がある。
つまり王国上層部はこれを頼ることを前提に一個師団援軍にしたのだ。いま兵士は半個連隊に加え民兵を動員し、独立指揮ではあるものの王国別地区からの一個師団と地元に近い出の集まる一個旅団に再編成した。……
これらを詳細に教える真理だった。おれたちはここに希望を託した。しかし、懸念する。そこまで強行軍でも一昼夜……不慣れな雑兵どもを率いてたどり着けるか? 骸骨戦士悪鬼に容易く叩かれる危険が……一息に飲み込まれかねない。
ここで千秋が嬉々として発言した。
「自然思いつくのは、そのケネローとやらから救援を受けることね! 信じ難いハイテク兵器を備えているのだから、一息に蹴散らせる戦力を投入してくれるはず」
ここでどっと場は歓喜に包まれたが。
やれやれ、そうきたか。なにも解っていないな、千秋のガキ。おれは進言する。
「もしそれが叶うなら、ケネローはとっくに悪鬼や妖術師の軍隊を辺境から駆逐しているはずだ」
真理も苦々しげに語った。
「そうなの。ケネローは独立独歩にして永世中立勢力。正当な代価、なんらかの見返りを与えないと動いてくれないのよ。さらに悪いことに」
ここで真理は言葉を切り、首を振った。そして強く言う。
「王国の財政が破綻したわ、事実上。王国通貨の価値が無くなったの!」
とんだ災難だ! しかし、これらを事前に知っていた真理は考えがあるのか?