大金持ちの如月氏の邸宅に、泥棒が近づいていた。泥棒は凄腕のピッキング犯で、どんな扉も簡単に開けてしまえるのだ。下調べは済んでいる。いまは留守のはずだ。
泥棒は、如月氏の家の扉を調べた。錠前に、ピックを差し込んで、鍵を左に回す。カチリ、と音がした。しかし、扉は開かなかった。気付いたが、錠前にはメーターがついており、今は4294967293を指していた。
泥棒は気付いた。旧式のアナクロ錠ではなく、電子ロックなのだ。もう一度、右に鍵を回してみる。メーターは4294967294を示した。
どうやら、この鍵を開けるためにはメーターを特定の数値にしなければいけないらしい。しかし、ピッキング動作を繰り返すなど、人目につく。そんなことはできない。
この錠前を開けるには、解錠番号を知った上で高速回転をする特製の鍵が必要なようだ。
そんな手間をかけるくらいなら、この家は諦めた方が賢明だ。窓を破っても、このくらいの屋敷には警報装置がついているだろう。泥棒はそそくさとその場を離れた。
数時間後、如月氏は自宅に帰ってきた。
如月氏は鍵を使い、扉を閉める方に回した。
「おや、開かないな」
如月氏はメーターが変わっていることに気付いた。そしてほくそえんだ。
「また、泥棒がやってきたらしいな。この鍵はメーターを0にしなければ、開かないのさ。いまどき32ビットの旧式品だがね。FFFFFFFF……」
如月氏はあと二回、鍵を右に回した。メーターは0となった。
扉が開いた。
二進数32ビットでは、2の補数計算から4294967296は0となるのだ。