作戦を折衷して、敵の上空からまきびしを投下することに決定した。こいつは廉価手軽にして悪辣な罠で効果てきめん。同時に背面の風上から毒ガスを流す。すると位置的に、敵は進退ができなくなり自滅する。落石の計と鉄砲水の計もたたみかける。

 退くも死進むも死。迫る敵にはおれたちの突撃銃掃射が待っている。戦とは正を持って対峙し、奇を持って勝つ(これは何度も繰り返す兵法の初歩)ものだ。

 後は言わずもがなのこと。妖術師の残兵の始末。普通の悪鬼なら逃走させても良いのだが、相手は悪魔に魂を売った身、そう逃がせない。降伏する敵のみ捕虜にする。

 これらはおれが仕切るまでもなく、逢香と涼平が手回ししてくれた。真理と千秋は眠っていることだし、おれもくつろごう。

 というわけで一人、宿の席で火酒を頼みなみなみと味わう……って、強烈な酒をなみなみ飲むところがおれらしい。睡魔がやってきた。身を任す。

 と、安眠をたたき起された。逢香がしきりに危機を告げる。

「敗残兵に逃げられたわ! バンブーボート、竹の船よ、手軽なジャンク船! 長持ちはしないけれど、コストと労力からすれば画期的な作戦ね」

 してやられた! うかつにも油断して酒で寝落ちした時の奇策とは。もっともおれが起きていたところで対抗策は執れなかっただろうが。

 馬鹿な……水計の鉄砲水を逆手に使い、一気に水流に乗って脱出しただと!? これでとなり村の井戸水は枯渇した……貴重な拠点なのに放棄せざるを得ない。しかし水不要な骸骨戦士の軍なら駐屯できる。とんだ災難だ。

 なんたる醜態。先手を与えただけでなく、ごっそり戦果奪われた。涼平の白魔法なら、何千体いようが一撃でほとんど塵にできる雑魚骸骨とはいえ。神官戦士はそう多くない。まして真理は戦場に行く稀有な魔法使い、それも美少女なんて……

 ここは逃げなくては! 村人を全部王国の都市へ引き上げる! 田畑は焼き払い、橋はすべて落とす。急げ、敵の増援が押し寄せてくるぞ! しかし口に出してはパニックが襲うな。兵士の士気は低すぎる。ならば犠牲になってもらうか。は、おれも残忍だな。痛い目に遭わないとわからないだろうからな……

 これらを吟味していたとき、監視偵察兵が上伸してきた。

「後方より援軍です!」

 やはり来たか! 挟み撃ち。これは……いかに退くか?! ……あれ?

「……我らは将軍ブラジオン旗下の王国機動歩兵師団です。千秋少将の指揮下に入ります」

 逢香は唖然と語っていた。

「一個師団を超えるなんて。これは極端に彼我戦力が違う。まるで立場が変わったわね、こちらが三倍以上も決定的に多数だなんて……」

 しかし涼平はいぶかしげだ。

「しかし、敵司令官……それとも参謀の戦術腕は天才的だ。奇正の使い分けが見事。この采配、直人にも見抜けなかった。増援はどうせ不慣れな雑兵、ここは退くか、直人?」

「いや、犠牲が出ることは解るがここは攻めるときだ。ここで千秋将軍の部隊が全滅しても、王国軍の優勢は動かない。ならば負けても敵連隊を二割も削れれば上等」

「過激なことをいうな。向かってくるのが精鋭の実戦部隊なら、たしかにそれだけ失えば戦力は半減以下だな」

「違う。おれたちが狙うのは敵の補給線だ。骸骨騎士に大悪鬼幾千、あんなめちゃ強い敵兵正面から相手にできるかよ。ここは撤退させて動けなくさせるに限る」

 涼平は了解し、臨戦態勢に入った。同じく前線指揮官の逢香が尋ねる。

「悪い芽は摘んでおくに限る、か。前線指揮はまかせてね」

「深追いはするな」

「直人、厳しいわね。いつものゆるさがない……なに焦っているの」

 ここで本音を言うようでは、おれなんて参謀はもちろん盗賊の一種、ペテン師失格だ。敵は反撃の機会をうかがっているのだ。これは間違いなく……

 焦土作戦! おれたちの軍を縦伸陣に引き延ばして、包囲して一斉に反攻に転じる! 総兵力で劣っていても、地の利のある敵は各個撃破にくる。しかもそのときに王国軍が物資不足で飢えていれば……全滅だ!

 ゆえにその裏をかいて、ここは攻勢に出る。おれの予測が正しければ敵は力強い総反撃に転じるか、至って厳重に整然と退却するかどちらかだ。降伏はありえない。

 もし総反撃に来れば作戦通り糧秣を焼き払って一時追い払う。退却するようなら呼吸を合わせ糧秣を分捕る。いずれもうまくいけば優位に働く。

 まだ発言できないし動けない。ここは推移を観察しよう。