銃撃はその後も数十秒間隔で十数発も執拗に続いた。銃声が轟くたびに、敵妖術師の士官は倒されていった。そして銃声が止んだときには、敵軍は明確な指揮系統を失っていた……これは……楽勝。それにしても一方的な殺戮……おれは提案した。
「となり村を放棄せずとも勝てる! 堅牢な村、重要な拠点だ。そこで時雨大佐、ここは密偵をお願いしたい。なんとしても恩人のスナイパーに礼をしなくては」
「了解であります。義理堅いね、直人ちゃんも」
時雨は単騎スナイパーとの接触を試みに、風のごとき速さで出向して行った。
その時雨は山岳というのに、ものの二十分であっさりと帰ってきた……。
「狙撃兵も銃もなかった……代わりにこんなものが残されていただけだったよ! 僕らに見つかるように放置されたみたい。なんの道具か真理ちゃんに識別を頼むね」
軽いな……金属部品があるにしても、合成樹脂とかセラミックか。手の上サイズの横に長い直方体の。なにやら目盛りがたくさんついていて、数字が回転盤に何ケタもセットされている。これは?
真理は即答していた。
「これなら資料で読んだわ。手動機械式計算機、『賢者の歯車』よ。紀元前にギリシアで作られた機械に似たものね。アンティキティラ島の機械」
「計算機? おれたちの魂と『紙』のいるとされる天界、光の文明の電子式とされるものとはだいぶちがうようだが……そんなもの、なんのために」
「銃や大砲の弾道計算ができる逸品とすればわかるわ、あの狙撃も……見識のある人なら、大枚重ねても手に入れようとするわね。王国の書庫に記録がある。最後の所有者は最高評議会議長女騎士シャムシール卿フレイル。その前は英雄で名高いこの地最後の撃墜王、ソードケイン卿ダグアよ!」
涼平が口を挟んだ。
「ふむ……天動説を採用しているな。わざわざ惑星の軌道修正を課してあるから。すると天体の法則を知らない超古代人か。技術そのものなら万民が大地の地球説に地動説を受け入れていた光の文明すら色あせるが。うるう年は計算に含まれている。すると必ずしも太陰暦で作られていないし。直人に任せるか。精密狙撃できるだろ」
「駄目だ。おれは殺さずのハンドガン専門。肉薄してのピンポイント射撃しか行わないから、軽快さを損なう機械は不要だ」
逢香が進言した。
「弾道計算って、この計算機並列処理できるわね。ならば拠点防衛の砲門群に配備すれば、とんでもない戦果が見込めるわ! それならこの機械を任せるのは拠点の現場指揮を執る砲術士官一人で済む」
ここで寝ぼけ声で千秋が語った。
「ん~っ。それなら逢香さんに砲術指揮を任せるわね、私はもう少し寝かせて……」
「了解、千秋ちゃん! ……って、こんな田舎村には大砲は無いわよ。王国軍輜重部から運び込まれた突撃銃が三十丁ある程度」
真理が提案した。
「照準の調整と、距離に対する高落差の計算結果を兵士にたたき込むわ! どうせ素人兵士たちの訓練なら逢香に任せるべきだし」
「そうね……未熟な新兵を訓練するといって、いま即戦力にしなければ間に合わないのに剣術や弓術を教えられる間はない。だから長槍を教える。達人にしなくとも、集団戦に用いる槍なら単に突く訓練だけでほぼすむ。長弓の代わりに弩を。これなら少し教えれば誰でもそこそこの線はいく」
涼平は戦術案がある様子だ。
「弩か、ならば伏せたり物陰に隠れたりして使えるな。カタパルト(石投げ機)も作って配備しよう。さして威力はないとはいえ、大砲が調達できないなら妥当な兵器だ」
「カタパルトか。ならば無限袋に石ころたくさん詰め込んで、浮遊魔法で上空に飛ばし、開けて一斉投下。無限袋は重くならないからストーンレイン魔法が楽に使えるわ! 絨毯爆撃ね。なんならそれで敵の物資備品を盗んでしまえば、こっちのものよ」
……かくて闊達な意見の交換の元、運命の歯車は好転していた。