「準備できたわよ! 後の現場指揮は、時雨大佐、逢香少尉、涼平少尉にお願い」

 真理少佐が朗々といった。これにみんな存分に士気を上げて応えていた。もっとも千秋将軍は御就寝だが。おれこと盗賊直人准将の名が呼ばれなかったな……おれは真理から一目置かれていると信じよう。

 こうしてとなり村住民の脱出作戦が開始された。現場指揮監督は女戦士逢香少尉だ。神官涼平少尉は治癒担当として、負傷者の看護に回る。忍者時雨大佐は全線で単騎戦っている。それもなにも装備せず、身軽な衣服に素手で。女将軍千秋少将は、能力が使えなければ単なるガキだ。幸せそうに宿のソファーで寝ている。

 村人救出は最初、無力な女子供老人と傷病者からだ。張ったロープに、椅子を流用しただけの簡素な台座を吊るして滑らせて村人を救っていく。村では戦える民兵はまだ籠城して抵抗している。よく戦えるものだ、彼我戦力十倍以上あるのに。

 険阻でいままで善く外敵の脅威を守り通した村の捨て身の意志、これの士気は比類ないな。となり村はここの村の、いや王国のまさに防波堤だったのだ。ならば、天然の要害の地の利をみすみす捨てるのはもったいないが……

 たかだか荒縄を張っただけの脱出路に見えて、実は涼平の白魔法で強化されたロープだ。鋼並みの強靭性を持ち、容易には切断できない。普通なら鎧に掛ける魔法だが。

 見守る中、最初の脱出者たちが滑空して村へたどり着き、保護された。この緊張下に普通の母子たちなのに取り乱さず、おれたちの兵士に礼を平謝りに語り、悲しげにはいても気丈な態度。銃後の婦女子の鑑だな。なんて結束が強いことか。これが最果ての砦か。

 これに安心して、次の手に移る。計略という計略、風計・火計・水計・地計の四種すべてをたたき込んでやる! まずは真理が突貫で作らせた毒による風、次いでとなり村への侵入後を焼き尽くす火、鉄砲水で一気に打ち崩し、崖を崩落させて完全に排除する……は、我ながら容赦ないな。狡知とはいくらでも芽生えるものだ。

 真理はようやく倒した妖術師の魔法のアイテムの識別ができた! いままでは怪しげ過ぎて使えなかったのだ。七点のアイテムのうち、四つは呪われていたが。残り三つは。

 一つは魔法の指輪、姿をはめている間透明にする……なんか指輪物語みたいだな。それって恐ろしい罠なのだが。透明になるならどんな悪いことも思いのままだ!

 さらに魔法の剣。見た目、刀身がなくただの短い棒なのだが、握っていると自由意思で暗黒の刃が伸びる。ライトセーバーならぬダークセーバー! 無双の武器だ。重さがないので、非力なおれにも使えるが、おれはどうせ白兵戦はしないので逢香に渡す。

 最後は魔法の硬貨。一見ただの銅貨だが、持ち主の意志で斥力の場が発生し、あらゆる物理攻撃を無効化する。その間は当人も身動きできないのが難点だが、これもそうとうなマジック・アイテムだ。

 おれは正直に真理に話した。

「すると、妖術師を倒せたのは奇跡に近いな。これらを使われていたら、とても勝ち目はなかった。呪われたアイテムはブービートラップにでも使えるし。いまの態勢ではあまり打つ手はないし……」

 パーン!   突然遠くで銃の発砲音がした。撃たれた? 『撃つ手』があっただと? いったい、なにが……。

 真理の魔力はすでに尽き千里眼は使えなかったが、口頭で報告はすぐに届いた。妖術師配下の士官が一撃で頭吹き飛ばされた! しかし狙撃地点は識別不能……

 馬鹿な! そんな座標からの超長距離精密狙撃なんて……まさか、うわさの女ガンマンか!? ハンドガンではなくスナイパーライフルだろうが……