となり村炎上! この知らせは指揮下の軍を能動的に動かす初めての機会となりそうだった。真理が千里眼使う。焼き打ちに遭ったのではない……物資を奪われる前に、村人自ら糧秣を焼き払ったか。なんて覚悟。

 しかもその村は、片わきを切り立った山岳、背後を流れる川という天然の険しい隘路に位置して守りには本来適するのに……ならば近いうちに村人は全滅してしまうはず。

「すると村人みんな助からないじゃない! すぐに私たちで助けに行くべきよ!」

 逢香は声を荒げていたが、涼平は止めた。

「だめだ。二重遭難の危険は冒せない。直人が妖術師を倒せたのは偶然らしいし」

「涼平、あなたそれで神官?」

「そうだ。直人参謀閣下の意見は?」

「退路は常に確保する、さ。任せろよ涼平」

「ならば総出でひと暴れするか」

「いや、正面からでは余計な犠牲が出る。ここは時雨に頼む」

「わかったよ、僕が一人で侵入して……できるかぎり助けるね」

「村人の避難路の用意をする。もっとも……いささか狂っているかな? 涼平の分野だ」

「あれ? 地下水路でも使うのか?」

「いや、言うならば『空路』だ。真理に魔法でロープの片端を飛ばして、村からその外へ遠く張ってもらう。これをこの日が沈む前に終えなくては」

 このおれの意見に、真理は即答していた。

「そうか、となり村が高いところに位置するのを強みに、ロープを利用するのね。解ったわ、村は助けを呼ぶ暇もなかった。今回の敵は並みではないということ。ここの村ととなり村の戦力だけでは補えない……なんたって、前回の骸骨戦士千体はいたものね」

「あ、真理は戦略眼があるな。並ではないのか、そうか……ならば短時間で一気に決める。いちどに無力な民間人全員救出しなくては意味がない」

 はっとするおれに、真理は呆れた目だ。

「って、直人気付きもしないでこんな計画考えたの? ま、私にも策があるわ。無限袋を利用して、これを浮遊魔法で燃えている糧秣庫へ飛ばす。近隣の畑にも。私たちはこれから、みんなして困難な退却戦を行う必要がある。ここの村へ避難させた後、少しでも長く籠城しないとね。もちろん司令部にも連絡するわよ」

「そうか、せいぜいたっぷり吸いこんでくれ……? ならば!」

 このおれの声に、真理は反応した。

「そう、自然あとは水となるわね。たっぷりと川から吸いこんで、生活用ではなく、水攻めに用いる。形勢は一転するわ」

 おれは喜び、千秋将軍に頼んだ。

「人事権を持っている、千秋将軍閣下にたのむよ。真理を佐官に昇進させておれの副官にしてくれないか?」

「いいけれど、こんな窮地では地位階級なんて意味ないけれどね。私は無限袋の入手で、いささか疲労したわ。まだしばらく『お願い』は叶えられないし。では真理は少佐ね」

「拝命します、閣下……と、答えればいいのかな、千秋ちゃん?」

 と、洒落てみた真理に涼平はやれやれという。

「軍は二十年で中佐を作る、っていうけれどね。超難関の士官学校を出てやっとそれだ。俺たちみたいな平民の雑草上がりでは、晩年に少尉になれれば勝ち組、雲の上なのに」

 逢香も涼平に同意した。

「そうね、まだ成年になってそこそこの私なんかが少尉なんて過分……それより、敵の情報を詳しく知るべきよ」

 副官真理少佐はさらりという。

「もちろん千里眼で確認したわよ。悪鬼の軍ではなく、直人が倒した妖術師の私兵ね、骸骨戦士の親玉みたい。どうやら……ヴェルゼーブを崇拝する輩だわ。つまり私の責任か……まあ、後悔しても意味はない。手に入れた魔法のアイテムの識別は、後回し。きっと戦力になるけれど時間が取れない!」

 涼平は鋭くいった。

「敵兵はどうやら三千はいるな。司令部からの情報書類によるとせいぜい二百名の村人は玉砕の覚悟だ。ここは急ごう!」

「僕ちゃんは先行するね! 奇襲でボスの首取るよ」

 時雨は太った外見からは想像つかない、すごい速さで走って行った。