気付くと、村の宿の特上室のベッドだった。おれは夢を見ていたらしいな。スケルトンの群れに村が襲われ……?
なぜか上物のガウンが着せられている。しかも湯あみをさせてもらった跡がある。これは好い待遇だな。
と、真理がおれの傍らに就いていた。
「気付いた? 直人。貴方は参謀よ、やはり」
「なんの話だ? というかおれを看ていてくれたのか……」
「だって、直人は一人でボスの妖術師を退治したのだもの」
「へ? 妖術師をおれが倒したって……なんの話だ?」
おれは呆けた。妖術師なんてどこから現れた?
しかし真理は嬉々として話す。
「死の魔法を貴方の酒消毒が打ち負かしたのよ。瓶から粉ビール還元濃液の炭酸ガス利用した噴射とはみごとだったわ。まさに起死回生の奇策……この技をエア式水鉄砲の量産に応用すると上伸したわ! なかなかの利益が見込めるわよ」
「記憶にないぞ……」
「この馬鹿、飲みすぎね。妖術師は自らの電撃魔法に感電して気絶し、その配下のスケルトンもみんな塵になった。さんざん走り回ってボスの妖術師一人倒すとは大戦果。戦利品も多々、魔法のアイテムすらある」
……どういうご都合主義だ。この世界の『紙』は好い根性してやがる!
「スケルトンの群れ、現実だったのか……さらに魔法のアイテム……また強くなったな。勝ってますます強くなるとは。で、味方に犠牲者は?」
「死者は一人も出なかったわ! 民兵に軽傷を負った人多いけれど、自然治癒できる程度。それより直人、いまなにが御所望?」
ここで「きみが」なんて本音言ったら殺されるな。せっかく高感度アップした様子だから、猫かぶるか。
「ああ、いまは水をたっぷり飲みたいよ。煮沸してから冷やした真水を」
おれと真理は寝室を抜け、宿の居酒屋に移った。おれは提案する。
「功労者と武勲者と志願者を抜擢して下士官にすべきだ。勲章も。人事権は千秋が握るか、時雨大佐に任せよう」
「捕縛した妖術師を取り調べるわよ。上にもっとあくどい親玉がいる可能性もあるから……ま、この妖術師一人で私なんかの五倍は有能な魔法使いだけれど」
しかし煙草の紫煙吹かす涼平は嘲った。
「この妖術師が有能って、単なる魔力比べだろ。実戦では直人に失態さらした、戦術腕を欠いた頭でっかちな無能だ」
真理も同意していた。
「そうね、直人は軍事ヲタクなだけ。ほんとうは知性劣るのに、戦術だけは秀でている。戦略面からも兼ね備えて優れた人には勝てないでしょう。個人の技量でも」
おれは反論する気はなかった。何故って事実だからな。おれは確信犯馬鹿さ。
次いで兵士に命を下し塵となって消えたスケルトン戦士の武装を剥ぎに掛った。衣糧や医薬品こそないが、長剣、曲刀、盾、胸当て……使いまわせるな。村人に分けよう。
ここで物資は満たされ、戦力を整えたとひと段落したとき、急報が入った。遠方に立ち上る黒煙……
涼平は苦々しげに舌打ちした。
「となりの村が焼き討ちに遭ったな」