日の落ちるのが早い晩秋、この村に長らく駐屯しているおれたち六名はすっかり村人と馴染んでいた。だがまもなく冬だな……越せるのか、この過酷な辺境の村。
悪鬼の兵力はいかほどのものだろうな。そいつらも冬仕度をしているだろうか。真理の千里眼偵察で辺境彼方を監視する。
解ったのは数十名ほどの部族で成り立つ悪鬼の集落が、何千とあることだった。つまり数万はいる。絶望的に兵力は大きいが、そいつらをまとめる将帥たる悪鬼はいない。集落同士で小競り合いしている始末だ。ならばこちらは少し奇計で介入すれば自滅も可だな。
それより魔王ヴェルゼーブの出現に村から逃げ散った王国兵士、総数一千名のうち二百名ほども行くあてがなく、命乞いをして戻ってくるやつらがいた。決して罰せず、真理、涼平、逢香が適性試験してから再配備した。
その夜酒場で六人面し、おれたち将官士官組の団欒となった。逢香が愚痴った。
「頭数だけ増えたけれど、八割は未熟な新兵ね。まさに雑兵。なまじ村人の民兵のほうがそうとう練達しているわよ」
煙草に酒嗜む涼平はいささか酩酊気味に賛同した。
「そうだな、王国本隊としては、最前線に精鋭は送りたくないだろう」
「そうよね、これが現実」
千秋将軍閣下がきょとんと問う。
「なんで? せっかくの私の手駒に……」
「何故って……」
言葉を詰まらせる涼平だった。千秋のようなガキには解らないだろうな。軍隊とは諸刃の剣。半分は敵に向けて存在するが、半分は自国内の民衆と反乱分子に向けて存在するのだ。この当たり前のロジックは、いくら馬鹿でもこの歳まで生きれば解る。
「ああ、いや。訓練を積ませるだけのことさ」
と涼平はとぼけたが、時雨は警告した。
「悪鬼が迫っているよ! でもいつもとなにか違う……妙に機械式というか」
真理がすかさず偵察し述べた。
「スケルトンだわ! 骸骨戦士よ。雑魚とはいえ油断できない。普通の悪鬼と違い逃げないはずよ、私の眠り魔法に掛らないし……しかも千匹を超える!」
「俺の白魔法なら、まとめて塵にできる。聖なる光で」
涼平の声に時雨も応じた。
「僕も手加減の必要がない相手だね。素手で打ち砕いてみせるよ」
逢香は長剣を確かめていた。
「まともに前線で戦える兵士、二十名借りるわよ。直人、作戦を」
しかしおれは酒から来る睡魔と格闘中であった。
「ふにゃ? おれもう食べられないよう~」
「アホか……直人、起きなさい! 貴方が参謀なのよ!」
「毒治療(キュア・ポイズン)魔法で酒抜こうか」
「いいえ、涼平。貴重な魔力を馬鹿一人に使わないで!」
「真理ちゃん、ではどうするの~?」
と寝ぼけた声で千秋将軍は問うが、真理は言い捨てた。
「こいつはタフさが自慢。最前線に出すわ! きっとスケルトン百匹は足止めしてくれる」
「真理ちゃん残酷~!」
おれの耳に聞こえたのはそこまでだった。そんなの無視だ、おれは寝る。ああ、きっとおれ官位剥奪だな。それから卑劣なコソ泥との、まったく正当な評価を受ける。
は、戦争なんか馬鹿らしいぜ! 眠りの世界へ……と、寒気とともに動く骸骨が迫ってきていた。色気ない絵だな。どうせならもう少し肉付きのいい女が好みだがな。