それから真理の意見で、おれは王国軍の階級制を改める提案を出した。それまでは将軍と参謀以下、騎士が務める各種の隊長と、平民の兵卒が数ランクくらいしか階級は決まっていなかったのだが。
どこかの世界的に将軍は最高位が元帥、以下大将、中将、少将、准将。高級士官は大佐、中佐、少佐。大尉、中尉、少尉、准尉。下士官は曹長、軍曹、伍長。兵士は兵長、上等兵、一等兵、二等兵。正確には軍曹はさらに五段階に分類される。
千秋がまず少将に任じられた。時雨は大佐。真理と逢香と涼平は能力高いくせに、一介の士官少尉。で。
って……おれいきなり准将閣下か。まさか一介の盗賊が王国将官。参謀に当たり、相応の階級が必要なのは解るが、真理のディベートだな。
現実は二等兵から叩き上げの熟練先任軍曹クラスで、学校上がりの新米少尉に頼られる立派な前線参謀だから。
真理のやつ王国将軍たちを弁舌でうまく丸め込んだのだろう。まさに魔女の名に値する見識の威力だ。魔法なんか使わなくても、頭の好い奴は違うな。
おまけにそれに加えて、真理の発案で。
おれは銃と大砲の設計を王国軍上層部に進言していた。対魔王予防線だ。
結果革新的な提案とされ、一気に軍事予算が割かれた。一見稚拙でも前線配備されれば決定的な戦力となることが頭の固い将官お年寄り連中にも解ったと見える。
剣や槍に誇りを見出す、なんて前時代的とされていた。弓矢の方が有効、それを上回るのが火器ならば受け入れないはずもなかった。
無論この似非中世西洋風国家はTNT火薬なんて無く、初歩的な硝石と硫黄に墨の黒色火薬だが。なんでこんなことを知っているかといえば、おれの魂、『紙』の影響だ。
とりあえずは型だけのハンドガンの模造品が完成した。まるで可動部がないし実弾を発射しないので一見役立たずだが、頑丈で鈍器に使える。おれはシャウトと命名した。
グリップよりもむしろ逆さに銃身を握りしめ、重いグリップの底で敵を打ちつける鈍器。好いディティールの仕上がりだ。これならデッドコピーの火器は見込みある。
しかもこれを婦人用の護身アクセサリーとして、街に流行らせて資金源にすることを真理が提案した。おかげで実弾火器の配備も早まった。
銃火器の使用か……幼いころからの長い修練の必要な、しかも才能がなければ努力しても無駄な剣や槍の武術と違い、火器は非力なものでも短期間の訓練で、大半は一定水準使い物になる。まあ、小銃の扱いは。しかし拳銃となると話は別だ。
抜き撃ちの際、拳銃を的に向けて腕突き出せって? は、素人だな。実際はいちいち腕伸ばしていたら、遅れるし照準はむしろブレる。
拳銃はあくまでソフトに構え、いちいち照準を見ないで手首と指先の感覚だけで調整するのが常道。それが馴染まないヤツは素質ない。照準でいちいち狙う狙撃銃、スナイパーライフルの長距離狙撃なら時間掛けていいが、至近距離を撃つ拳銃にそんな時間は掛けられない。突撃銃アサルトライフルや散弾銃ショットガンもまた別の話だな。
こうして驚くべき速さで火器の調達は進んだ。前線のこの村に早くも突撃銃と拳銃の試作品が届いていた。
この敵に肉薄しての危険な白兵戦をせず、離れた所から秒殺するこの火器は、兵士たちに大好評だった。短期間の訓練でみんな基礎的なスキルを身に付けた。守るべき部署の村人からも兵士志願者が出て、入隊していた。
こうして戦闘態勢を整えていた訓練の日々……ふと重大な急報が舞い込んだ。異国の敏腕女ガンマンの噂である。
王国首都の新設火器工場が襲撃された? たった一人相手に施設半壊……