頭から冷水ぶっかけられて、地べたに倒れていたおれは気絶から無理やり覚醒した。この季節にはいささか寒すぎる。なんて仕打ち! まさかおれたち賊どもに負けて……

 ?! 掛けられた水、川の悪臭がしないと思ったら真理の魔法か。もう少しスマートな目覚めの魔法使えないのかね。

 賊兵士が全員倒れ伏している! 苦しげにみんなもがいていることからして、殺してはいないが……まさに血祭りだ。いったい!?

 おれは真理の杖が鮮血滴らせているのを目にしていた。やれやれ……やはりキレたらいちばん怖いのは真理だよな。

「真理の杖、妙に長いと思ったら、白兵戦用かよ!」

「誰も魔法の杖なんて言っていないわ。これはただの家の物干し竿よ」

「物干し竿? あ、多段仕込み式で七割も伸びるのか……5m近い。槍の中でも歩兵の持つパイク(対騎兵槍)並みだな」

「素人の剣なんかより、民家のただの物干し竿の方が強いわよ。当然ね。古来この極東の島国に伝わる練習用のバンブーソードですら、防具の上から殴られただけでめちゃ痛い。木刀なら命に関わる。兜無しで頭殴られれば即死。腕や胴でも骨折内出血ものだし」

 戦士の逢香は感心している。

「ましてそれをはるかに上回る長さの物干し竿なら、横に薙いでぶつけるだけで圧倒的な強さね。古来のこの国の薙刀使いみたい」

「そうよ、これを勘違いしているものは多い。槍とは突くものだと。現実は打撃がものを言う。払い、打ち、そして突く。万能に使えるわ。一見振るえない狭い場所でも、中ほどを持てば済むだけだし。これは折りたためるし」

「まったく、私もろくに加勢しないうちに、真理ったら容赦なく硬い竿振り回すのだもの。危なくて近寄れなかったわ。この勢いに負けて、連中大半逃げ散ったし」

 時雨はのんびりと言う。

「僕も手出し無用だったね。事実上この中で真理さんが最強ではないかな?」

 ここで浮かれる千秋をよそに、おれは涼平と視線交わす。

 おれこと直人と涼平は互いに互いを軽蔑し反目し合っているとしても。戦いにおいては以心伝心だった。盗賊と僧侶がいれば、その二人でレベル1のままチートプレイで、世界最古の迷宮踏破できるとも聞いた。

 どんなに過酷な戦況下でも常に退路を確保するのがクロスボウ・ピストル構える小汚い盗賊のおれの取りえ、対して涼平は味方が全員退却するまで前線を離れない真の聖騎士、白銀の鎖帷子まぶしい神官戦士。

 単におれが卑屈で、涼平がのろまなだけではないかと疑問もあるが。とにかく今回退路を作れなかったとは失態だ。守るべきものは足かせになるな。

 しかし……守るべき、解放すべき対象があってこその騎士。愛する者あってこその戦士。おれは盗賊。汚職働く汚い金持ちから汚いやり口で失敬したお金を、街で散財して市民の懐を肥やして流通消費を活発にさせるのが存在意義……ニコロ・マキャベリに乾杯。

 真理は鮮やかな指揮で、倒れたもと兵士どもを捕縛にかかり、軍隊への復帰をいま処刑されることと引き換えに認めさせていた。

 この采配におれたち六名のボス、単なる村娘の木綿の衣服姿のロリっ娘将軍千秋も出る幕はなかった。まじめな神官涼平もこの措置を無言で認めていた。